その2 そっからかよ。

うわ...やっぱりそこ、重大なんだ...。


静寂という名の間ができて、私は気が重くなった。

かなり面倒な内容に付き合わされるんじゃなかろうか。



イケ:「『ケッコンシキ』、って、どんな事するの?」


新井:「ん?」



静かなる重き空気を、口内からの波動で打破したのは、夫となるイケちゃんだった。



父親:「ケッコンシキっちゃあなもん、聞いた事ないの。」



イケ父がそれに続く。



新井:「もしかして、この世界には結婚式が無い...ですか?」


母親:「私も知らないなあ。」


祖父:「親父だったら知っとったかなあ。」


祖母:「わからんのじゃないかな。」



なんだ、なんだよ、無いのか、そもそも無いのか。

なら、いい、うん、いいよ。

好都合、ホント、好都合。



新井:「あ、じゃあ、いいです。無い方が良い事なんで。」



私がそう言うと、一同は、「あ、そうなの?」という顔をした。

結局のところ、実生活上で関係ある人達が知っておけばいい、法的には入籍するだけの話だ、という。

手続きは日本のそれと変わらないようだ。


戸籍については、外国人と結婚するのとほぼ同じになると予想された。

「もしかしたら」という仮定の話で出て来たのが、あの今給黎さんだった。

木人の今給黎さんにも、戸籍が存在するのだそうな。


今給黎さんも私も、元居た場所の書類を取り寄せる事は不可能だ。

だから、そのプロセスは省略できるんじゃないかな、と言われた。


それから、あれこれ今後の話をした。

私が宿屋で働く事も伝えた。

ただ1つ、私がイケちゃんの思考を読む能力を持っているというのは、自分の胸の中だけにしまっておいた。


色々話した最後に、お母さんが...



母親:「シンちゃんと喧嘩したら、いつでもこっちにおいで。ぜーんぶ話聞くからね。」



と、言ってくれた


この言葉で、私の心はぐーーーっと楽になった。

安心感がいっぱいに広がった。


思い返せば、今まで、いつも不安だった。

いつも...。




その翌日、役所に行って、婚姻届けを出した。

案の定、私側の書類は不要となった。

召喚士としての資格カードがここでも威力を発揮した。


よくよく考えたら、出会ってからまだ1週間だ。

私が職場から貰った休暇とほぼ同じ。

状況が状況とはいえ、なかなかのスピード婚ではないか。


前の世界の事はもう関係無い。

だけどなんだか区切りが良い。

明日から、宿屋のお仕事、本格的に始めよう。



新井:「イケちゃん、私、宿屋頑張るからね。今までお世話になったぶん、私もお返しするね。」


イケ:「うん、ありがとう。でも、無理はしなくていいよ。」


新井:「ところで、イケちゃんの宿って、どの種類で許可取ってるの?」


イケ:「え?種類って何?」



おっと...夫よ、そこからか。

まずはそっから確認しないといかんのか。

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