その3 立場逆転。
ここは異世界とはいえ、元居た世界の日本とほぼ同じだ。
いくらど偉い肩書を持っていても、無許可で宿泊業ができるとは思えない。
新井:「イケちゃんは、開業届出したり、宿泊業の許可申請とかしなかったの?」
イケ:「してないよ。」
お、おう。
そうか。
これは調べてみないといけないな。
戸籍と住所ができた事もあって、私は、私の名前でスマートフォンを持てた。
結婚してすぐに、機種を見に行き、契約した。
使い始めたばかりでまだ慣れていないけれど、早速調べてみようじゃないか。
ところで...
新井:「イケちゃんはなんで、宿屋をやろうと思ったの?」
イケ:「それはどこから話せばいいのか...。」
新井:「結構長くて深い話?」
イケ:「そうだねえ...でも、大切な事だからちゃんと話すよ。」
この話、マーーージで長かった。
私の頭に入れる際には、かなーり要約して短くした。
つまりだ...
イケちゃんは、召喚士の資格を取った時点で、国から生涯に渡って補助を得られるようになった。
だから仕事なんて全然やらなくてもいい。
でもそれだとつまらないし、あまりにも世間から離れ過ぎて悪意の目で見られるかもしれないから、何かしようと思った。
そこで月本のあちこちを見て回る旅をした。
その結果、宿に詳しくなり、面白いと感じるようになった。
という事らしい。
新井;「始めたのはいつから?」
イケ:「2年前の8月。」
新井:「お客さんは月の平均でどれぐらい?」
イケ:「2~3組かな。」
ああ、趣味なのですね。
だから営業許可とかに興味無いわけね。
それでも生活できるんだもんなあ、そりゃ気楽だわ。
新井:「お客さんがもっと来るようになったら、イケちゃん嬉しい?」
イケ:「それはもちろん。」
新井:「その収入は私がこの世界で生きるための資金にしてもいい?」
イケ:「構わないよ。けど、はるかは私と結婚したんだから、お金に困らないよ。」
新井:「イケちゃんに何かあった時どうするのよ?」
イケ:「あ、そう言われてみれば...うちの実家に頼ってもいいけど、自由な方が良いよね。」
ぬぅ、のんきなもんだ。
そう思った時、頭の中から声がした。
元夫:「俺に何かあった時でも、はるかが困らないように全部教えとくよ。」
...ああ、そうだった。
元夫は、大学を卒業してすぐに結婚した私の、社会経験不足を気にして、宿泊業のあれこれを教えてくれたんだった。
今、私がイケちゃんに言ってる、許可がどうだというのも、元夫が手続きするのに私を連れて行って見せてくれたから、私は知っているのだ。
....
今は、逆なのね。
異世界で、私が、教える側なのね。
しんみりした。
そして、調べた結果、やっぱり許可は必要だとわかった。
それについて、私とイケちゃんは、少しモメた。
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