その3 ファンタジーは認めない。

ああ、召喚士さんなのか。



なるほどわからん。



それで何を信用できるというのか?

うん、どうでもいいや。



新井:「あの、ここは何処どこでしょうか?」



まずそれに答えてもらおうか。

芦原高原神社付近のどこかのはずで、どんな仕掛けでこうなったのかはとりあえず知っとかないと。



イケ:「はい、金皮県かながわけん盾破魔区たてはまく紅ヶ丘くれないがおか1丁目です。」



ああ、神奈川ね...え!?

嘘やん!!

芦原高原からめっちゃ遠い!


って、タテハマク?

そんな区、あったっけ?



新井:「いやいやいや、芦原高原神社あしはらこうげんじんじゃでしょ。あの魔法陣のどんな仕掛けでこうなったの?」


イケ:「アシハラコウゲン?それはどこですか?」


新井:「ん?」


イケ:「魔法陣は私が描いたものです。召喚のために。」


新井:「んん?」



ファンタジーか。

そうか、この人の脳は幻想世界に飛んでいらっしゃるのか。

どうやら、この問題をセクシーに解決していただけるレベルにはないようだ。


OK,ここは落ち着いていこう。

もう、今日の宿はチェックインを開始しているはずだ。

神社での散策と参拝は諦めて、ひとまず宿に向かいたい。


周囲を見渡し、まともに会話できそうな人を捜してみる。

既に拍手と歓声は収まっていた。

人の輪はさっきより薄くなっているように見えた。


ただちょっと、大勢の人に向かって行ったり、話し掛けるのは怖い。

しょうがない、アレな返事しかないかもしれないけれど、もう一度質問してみよう。



新井:「予約している宿に行きたいのですが、バス乗り場はどっちですか?」


イケ:「あ、そうですね。私が案内します。歩いて行けますよ。」



ん?

いやこいつには付いて行きたくないぞ。



イケ:「今、この位置ですので、ここから2分程度ですね。」



手持ちのスマートフォンで、地図を見せて説明してくれた。

いやいやいや、そんなはずはない。

色々とおかし過ぎる。


ファンタジー野郎と話していても始まらない。

自分の眼で確かめねば。


私は、人の輪の中の最も薄い部分に向かって進んで行った。

人にも状況にもビビッているけれど、何もわからない方がもっと怖い。



新井:「すいません、ちょっと通してもらっていいですか?」



そう言いながら、人の隙間を進む。

人々は、黙って進路を開けてくれた。


人垣の向こうで私が見たのは...



大きな広場のような空間と、周囲を囲む高さの揃った木々だった。



んー、魔法陣のあった場所って、こんなに広くなかったよな...?

私がちゃんと憶えてないだけかもしれない。



女声:「あなたの居た世界と、何か違いますか?」



私の背後から、私に向けて声が発せられた。


ええ...?

この人達って、ファンタジー脳の集団?

ヤバいよヤバいよ、何かに巻き込まれてるよ、私。


腰から背中を伝って脳に悪寒が突き抜けた。

それを感じてすぐ、私は並び立つ木々の方へ、全力で走り出した。

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