その2 何者ですか?

え...今のは何...?


耳から聞こえる「声」とは明らかに違うものだった。


思考が、流れ込んで来た...?


何から何まで戸惑う事ばかりだ。

私の頭はそれらの処理に追い付かない。



とにかく眼鏡だ。



混迷を極める私の脳を無視して、身体が勝手に私の目の前にグラッスィーズのレンズを持って来た。


目の前にイケメンの顔。

「大丈夫ですか?だからこそ大丈夫ですか?」とか言ったり、おぼろげながら数字を頭に浮かべたりしそうだな、という印象を受けた。


それはともかく、私はどうなっちゃったのだろう?

周囲を見回してみると、「衆人環視」という言葉がピッタリな状況だった。

なんかみんなめっちゃこっち見てるし、拍手してる。


私は手を地面について起き上がり、身体に付いた砂を払った。


その様子を見たイケメンは...



イケ:「皆さん、ご覧の通りです!!」



と、周りの人々に大きな声を放った。



何が?


私?



イケ:「この後、私の宿でこの御方おかたに事情を説明しまして、碌迷館ろくめいかんにお連れいたしますので、皆様そちらの方でお話しいただければと思います!」



なんや?


事情を説明するっつってるな。

ふう、それを早くお聞きしたいというものですよ。


何が起きてこうなってるのよ?

私の頭は段差ダンスの途中で止まってしまったよ。



イケ:「あの、お名前を聞いてもいいですか?」



答えたくねぇわ。

いくらイケメンでも、この状況でこっちから先に情報提供する気になんてなれないよ。



イケ:「あ、ワタクシ、池本心太朗いけもとしんたろうといいます。」



あ、はい。

イケモトさんね。

わかった、わかった。


あー、名乗られたし、一応は反応しないとね。



新井:「あ、はい。」


イケ:「突然の事でお困りかと思いますが、お話しして説明したいので、私に付いて来ていただけますか?」


新井:「あなたの何を信じればいいのですか?」



ノー思考で、反射的に言葉が出た。

何もかもが意味不明なのはともかくとして、人に見られまくっている中、ずっこけて身体を強打したせいでムカムカしている。



イケ:「あ、私、こういう者でして...。」



そう言って、イケモトは、スマートフォンの画面を私に見せて来た。



イケ:「このQRコードを読み込んでいただければ...。」



あ、そうだ、私のスマホ!

こけた時に、壊れてないだろうか?


ポケットを探り、スマートフォンをつまみ出す。

不幸中の幸いで、転倒した際に下にならずに済んだらしく、傷1つ付いていなかった。


しかし。


画面が真っ暗のままだ。

電源ボタンを押しても起動しない。

長押ししてもダメだ。



イケ:「あー、起動しませんか。」



イケモトはそう言うと、素早い動きで財布を取り出して、その中からカードを引き抜いて私に見せた。



‘召喚士 池本心太朗’

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