【第2章】異世界ですから

その1 困惑の中で。

今まで感じた事の無い、凄まじく強い力で、全身があらゆる方向に引っ張られた。



「ダン...」



段差ダンサーソングが途切れ、意識が吹っ飛んだ。


と、そう感じたのも一瞬だった。



「サー...」




???



????



?????




目の前に


輪になって


私の方を見つめる


多くの人々が


居る



誰もが呆然と私を見ている。

私は、カマキリのように両手を振り上げ、ステージに右足を乗せ、左足を外向きに膝を曲げて浮かせた体勢のまま固まっていた。



...ハッ!!!!



人に見られているッ!!!!



そう頭に浮かんだ瞬間、猛烈に恥ずかしくなった。

私の脳は、喉に対して、段差ダンサーソングを止めて悲鳴を発するように切り替える指示を送ったが、あまりの事に声が出なかった。


そんな私は咄嗟に、左腕で胸、右手で股間を押えて身を屈めるという、女性のフルガード姿勢を取ろうとした。

ヴィーナスの誕生で描かれている、あのポーズのまま、亀ガード体勢に移行する動きだ。


ところが、初動で左足を思いっ切り段差にぶつけた。

4分の1回転しながら、私の身体が地面に倒れてゆく。



ヤバいこれは!!



倒れてしまう、手をつかなければ...頭にはそう浮かんだが、何故か私の身体はヴィーナスポーズの保持を頑なに優先した。



その結果...



側面から大地に叩き付けられ、横っ面を強打した。


衝撃とともにズレる眼鏡の感触。

肌を擦り剥いた不快感。

鼻腔の中をツーンと通り抜ける打撲の波動。



....



うっわ、最悪...。




男声:「おおお!!」

男声:「すげえ!!」

女声:「ええ~~~!!」




ぶっ倒れて心の底から惨めな気持ちが湧き上がって来た私の耳に、周囲の人々の意外な声が届いた。


え?


何?


どういう反応だろう?

何に対してのものだろう?


私の段差ダンスを見ていたのか?

いやいや、そんなはずはない。



私が体を起こそうと、肘を地面について顔を上げるまでの間に、それらの声の中から少しずつ拍手が起き始めた。

どよめきも歓声に変わり始めた。



男声:「大丈夫ですか!?」



顔を上げた私の目の前に、男性の顔が現れた。

ズレた眼鏡は全く仕事をしていなかったが、裸眼でも顔の詳細を識別できる距離だった。


イケメンやあ...。


状況は全くわからないが、このイケメンは私を心配してくれている。

自分が大丈夫なのかどうかさえ、全然把握できないけれど、ここは返事をしなくてはならない。



新井:「だいじょっぶ。」



周囲:「おおおお!!」


歓声と拍手が勢いを増した。


何が何だかさっぱりわからない。

とりあえず眼鏡だ。

そう思いまばたきをして眼鏡の位置を正そうとしたその瞬間、目の前のイケメンと目が合った。


「この人が僕の嫁なのか」

「召喚に成功した」

「美人で良かった」

「怪我はないだろうか?」

「たこ焼きの蛸が小さいのは許せない」



ん...?


なんだこれは...?



私の頭の中で、目の前の男性のものと思われる、心の声らしき何かが再生された。

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