その5 段差ダンサー。
木々の枝葉が途切れ、道に光が射していた。
私がイメージした開けた空間は、思ったよりも遠くにあった。
元来た道を戻るのがなんとなく面倒に感じるぐらいに歩いてようやく、下界を思い通りに切り取れる場所に到達できた。
なかなかイイじゃない...☆
色合いとか光とか建物の位置だとかにちょっとだけ拘り、スマートフォンで3枚撮影した。
デジカメとか持ってた方が良いのかもしれないって、時々考える。
だけど今のところ写真にそこまでの拘りはない。
目的を果たし、「ふぅ」と一息ついた。
来た道を戻ろうとして振り返った時、視界にちょっと気になるものが目に入った。
それは自分の背丈ほどある草むらの間、人か獣かどちらが通ったのかわからないぐらい細い道だった。
その先に、何か不自然なモノがあるように見えた。
うーーーん...。
気になる。
とても気になる。
だけど怖い。
熊とか猿とか野犬とか、そういう動物とも出合いたくないけど、こういう道や叢には虫がいっぱい
ゴの付くあいつらをはじめ、蛾とかムカデとか、虫は大嫌いだ。
特にノミは...ああ、あああ、思い出すのやめませうせうせう...!!
よし、行かない!!
そう決めた私は、石段の続きを上がるべく、元来た道を引き返そうとした。
だが。
謎の好奇心が、私の身体を決意とは逆方向へと運んだ。
「ひぃい!」と声を出す準備万端なビビりメンタルを稼働させつつ、虫が居るかもしれない叢をかき分け、進むこと十数歩、草の無い土の地面が露出した空間に出た。
そして、そこで私は、それを見付けた。
魔法陣。
えーーー!?
誰がこんな所にこんなの描いたの!?
意味不明でなんだか凄い。
地元の学生の仕業だろうか?
なんて書いてあるか全然わからないけど、文字といい外線といい、なかなか凝っている。
引かれた線は、蛍光塗料でも混じっているのか、なんだかちょっぴり光っているように感じられた。
そんな魔法陣の中心に、脛くらいの高さで、直径50㎝程度の円柱状の石段みたいな物があった。
石段...というよりは、ステージ...なのか?
祭壇?
うむ、目的とか色々、全然わからん。
何もかもが謎ではあるが...私のハートに、その場から溢れ出るそこはかとない魅力がドゥバドゥバと押し寄せていた。
これは...
これはもう...
アレをやるしかないな...
魔法陣を形成している線や文字を踏まないように、細心の注意を払った足運びで、中央に到達した。
そして私は天を仰ぎ、すうーーーっと深く息を吸い込み、下を向いてふはぁーーーーっとそれを吐き出した。
心、気、ここに満ちたり!!
「段差ダンサー♪段差ダンサー♪」
踊る、躍る、オドル。
誰も見ちゃいねぇ。
だから恥ずかしくねぇ。
こんなステージがあるなら、思いっ切り踊るしかねぇべや!!
線は踏まない、決して踏まない。
それでいて、このワタクシめの、オリジナルの振り付けで、心と体が求めるままに、躍り散らかす!!
ステップしながら左!
次は右!
その間、手は空を突くように高く!
カマキリの鎌や、鳥の羽の如く肘を!指先を!隅々まで意識して使う!動かす!
そして!
このステージに、まずは右足を!
踏みしめた、その瞬間だった。
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