第21話『IT君との交流1』

 IT君との交流は、私が入退職を繰り返していた頃に行われた。私はただの無職、IT君は起業したばかりの社長として交流していた。

 IT君は週休二日か週休一日で、依頼されたり依頼を取ってきた業務を着々とこなしていたりした。そんな休日に私とIT君は交流していた。

 最初に行った居酒屋の事は今でも覚えている。行く途中でちょっとしたハプニングにも見舞われた。IT君と裏路地を通ろうとした時、不良グループに絡まれたのだ。

 不良グループに絡まれたのだが、私は彼らが持っていたバットを奪い応戦した。結果、無傷で終わったのだが、その事についてIT君からお咎めがあった。

 私が不良グループの頭を打ち抜こうとしたからだ。それを全力で止めたのがIT君になる。その事でIT君から「殺す所だった」とお咎めが入った。

 それについて、私は今でも変わっていない考えを口にする。

「他人に暴力を振るうという事は、その場だろうが後だろうが殺されても構わないという事じゃない?」――と。

 IT君はそうかもしれないけどと言っていたが、納得した様子はなく、いつもこんな感じなんですかと尋ねてきた。

 私は「まぁ大体は」と答えた。IT君は少し落ち込んだような、見損なったような顔をした。しかし、次の言葉で私達はお互いの身の上話を始める。

「狐狼さんの事、教えて下さい。そうしないと、僕が納得できません」

 それを皮切りに、私達はお互いの事を話し始める。最初は私から、今までの経緯を話した。

 体と心が違う事。いじめがあった事。引き籠りだった事。就職や仕事が上手くいかない事。多重人格な事。精神病で体調が不安定な事。

 私は話せる限りの事をIT君に話していた。誰かにその事を話したのは、IT君が初めてだった。

 IT君は終始私の話しを聞く事に徹してくれていた。そしてお酒も入っていた事から、私は饒舌になってそれらを喋っていたのもある。それでもIT君は話を聞いてくれた。

 それを全て伝え終えると、IT君は一言こう言った。

「凄い、ですね――」

 何が凄いのか尋ねると、IT君はこれまでの人生を語り始めた。

 IT君の家は四人家族で、いわゆる中流か上流の下の階級だった。ある種IT君は良い所のお坊ちゃまだった。

 父親は一流の超大手企業に勤務し、母親は専業主婦。妹も一流の会社で勤務していた。そんなIT君が起業したのは、家族から自分が見放されている事に由来していた。

 元々コミュニケーションや人付き合いは苦手で、友達という友達はいなかった。学校ではいじめられたり、クラスでポツンと座って本を読んでいたりするタイプだったそうだ。

 家では成績が良いのが当たり前で、勉強している事が多く、たまにゲームやおもちゃを買って貰う程度。それだけが唯一の楽しみという何とも悲惨な学校生活を送っていた。

 大学は某有名学校に入学したが、退学したとの事だった。勉強は出来たので上位で入学したが、サークルには入らず友達は出来ず、結果、ただ勉強するだけの大学時代という青春度外視の日々だったそうだ。

 そのためか、コミュニケーションが重視された就職は困難を極め、百社以上は落ちたそうだ。それでも入社出来た会社で一生懸命働いていたが、いわゆるパワハラやいじめに遭いあえなく退職。

 その果てに起業して、ホワイトな企業で暮らしたいと考えたそうだった。

 その話に、私は「君も随分だね」と言った覚えがある。IT君は恥ずかしそうに「そんな事ないですよ」と言っていたが、私としては『随分だ』と思い「苦労人だね」と言った。

 IT君は、私ほどではないと言ったが、お互い様だねと私は言った。

 そんな事を語っているうちに、夜が明けて、私達は夜明けの街を当てもなく歩いていた。

「もしも人生をやり直せるならどこが良い?」とか「どんな人間になりたかった」とか。「超一流のスキルが欲しい」とか「一流の友達が欲しい」とか。

 そんなくだらない事を話しながら私達は彷徨って、結果、朝日を見ながらまだ語らっていた。そんな中で、IT君はこう言った。

「僕は狐狼さんの事裏切りませんから」

 その言葉にどんな意味が込められていたか分からない。それでも、私が別れを告げるまでIT君は裏切らなかった。きっとIT君にとっても、私にとっても、お互いは親友になれると思ったのかもしれない。

 そうして私達は始発の電車で帰り、また会う事を約束して交流を重ねた。

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