第20話『IT君』

 私の中で今でも心残りであり、今でも思い出すのがIT君という人物だ。ちなみに、IT君は私が付けたあだ名だ。名前の頭文字を取ってそう呼んでいた。

 彼との出会いは今のSNSの初期、mixy(以下ミクシィ)だ。当時の私は、友達やフリービジネスに興味があり、ミクシィで様々な人と会っていた。

 若い盛りで、あの頃は行動力に溢れていたのだろう。今日は何人、昨日はどこどこでという日記や写真も盛んに行っていた。

 そんな中でも私の飽き性は悉く発揮されて、一年が経つ頃には飽きていた。昔から何かが長続きした事はあまりないが、それでもゲームと執筆などは続いている。

 まぁいわゆる趣味以外続かないという奴だ。

 ミクシィも例外ではなく、飽きたなぁと思い最後に会っても良いかと思ったのがIT君だった。単なる私の気まぐれが発動しただけに過ぎない。

 IT君は一度会って話したいと言って、私は会う事にしたのだが、そこはいかにも当時のフリーランスのビジネスマンが使うような喫茶店でちょっと引いたのを覚えている。

 初めて見たIT君の印象は、眼鏡を掛けた美青年ではあるが、冴えない感じだった。どこか暗く落ち込んでいるようにも感じたため、「ああ、なんだかヤバいな」と思ったのが私の印象だ。

 そんなIT君は話し下手で、会話もろくに続かなかった。

「いい天気ですよね」「というか暑いですよね」「そ、そうですよね。夏ですもんね」という会話から発展しないやりとりを続けて暫く、私が用件を切り出した。すると、IT君はこう言った。

「あの、えっと、僕会社を起こそうと考えていて、それで今メンバーを集めているんですよ。そこであなたもどうですかと思って。僕が起こそうとしている会社はIT企業で、まぁまだ詳細は決まっていないんですけど――」

 直球タイプかと思いながら、私は却下した。その手の話は聞き飽きていたからだ。

 会社を起こそうと思っている。けれど、まだ何かを決めていない。その手の話はこの頃そこら中に転がっていた。

 私が断ると、IT君は酷く落胆していたが、私にとっては知ったこっちゃなかった。私の目的、つまり友達かビジネスパートナーを探している事を話すと、IT君はさらに会社を起こす話を続けようとしたため、私は強制的に話を終わらせて帰宅した。

 それから一週間後に、IT君から再度会って話したいと言われた。私は、ミクシィでのやりとりを終わらせようと、ミクシィ自体の利用を辞めようと考えていた。その最後に会うのがIT君なら良いかと思って会いに行った。

 すると、IT君はこう切り出した。

「あの、僕と友達になってください!」

 私が驚くような声で、勇気を振り絞ったような声で言うIT君に、私はなぜかと尋ねた。

 するとIT君はこう話し始めた。

「起業は、メンバーが集まらなかったので僕一人でもやります。でも、相談できる友達とか、いえ、今日来ていただいたのは正直に言うと友達が欲しくて。僕ずっと友達が居なくて。家族ともあまり仲が良くなくて、僕ずっとこんな陰気だから友達が居なかったんです。でも、あなただったらって思って。だから、なんて言うか、僕の友達になってください」

 深々と頭を下げるIT君を見て、私はこう思った。

 根は真面目で素直なんだろうな――と。正直で、人付き合いが下手なだけなんだな――と。

 その思いが、どこか私の心を動かした。私が「いいよ」と言うと、IT君は驚いたような嬉しそうな目と表情でこちらを見ていた。

 本当にいいんですか?

 その言葉に私はいいよと頷いた。

 IT君との出会いであり交流はここから始まる。私の気まぐれと、IT君の強い思いで。

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