第15話『就職氷河期』

 姉は二十歳くらいで早々に結婚した。高校は中退だが、高卒認定を取得してその後アルバイト生活をしていたが、すぐに今の旦那さんと結婚した。

 私は最初、姉を取られたような気がしたのだが、それはすぐに違う事に気付いて、方向転換する。それと同時に、私の目下の問題は今後の進学をどうするかだった。

 この頃の私は、来年に迫る進学について真剣に悩んでいた。プログラミング学校や声優学校、小説家を目指す学校などに憧れて色々調べ回っていた。

 どこが良いか、どこが近いか、どこが安いかなども独自に調べながら考えていた。そんな折だ。就職氷河期とかいう時代が訪れたのは。

 大学生の就職が難しくなった時代、私は学校の進学も視野に入れてニュースを見ていた。丁度、とくダネが好きな頃だった。

 それを見て、残りの時間は音楽番組を掛けて勉強していたのだが、私は二つの問題に困り果てる。

 一つは、同級生達と共にまた学校へ行っていじめられないかという不安。

 もう一つは、学費をどうするかという不安。

 私立でも公立でも良かったのだが、それよりも先に二つの不安があった。それに長い時間悩みながら、希望と夢だけは膨らんだ。

 そして就職氷河期も重なり、私はある事を思いつく。

 大学に行った場合の学費と高校の学費の計算。そしてこれから社会に出て働くための計算だ。

 大学が三百万前後。高校でも百から二百万前後。

 社会に出て働いた場合、一年の給与が三百万。

 そこで私は「あれ?」と思った。大学の学費も高校の学費も、社会で一、二年働けば元が取れるのでは、と。仮に毎月で積み立てても五年も掛かれば積み立て金が出来上がるのでは、と。

 その考えと、前者二つの問題が繋がり、結果私は高校も大学へも進学しなかった。

 代わりに、母から教えてもらった高卒認定を取るための勉強を始める。

 それが十六の頃だった。

 私は独学で高卒認定を取得した。朝から晩まで勉強して。

 とは言っても、ここまで読んでいただければ分かる通り、特段苦労はしなかった。勉強は嫌いではなかったので、普通に勉強してその年の一回目と二回目に分けて一発合格で取得した。

 それでも過去問で百点を取れるまで何度も何度も勉強とテストを繰り返した。そういう意味で言えば、ちょっと苦労はしたのかもしれない。でも、大したことではなかった。

 そうして私は漸く社会に出る事になる。しかし、それは前途多難で、その頃に他の六人の人格は姿を消した。

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