第23話 vsダルメキア (アーサー視点)


「アーサー。傷はもういいのか。ゴホッ、ゲホッ」


 父上はもう長くない……長くて10年ぐらいだろうか。


「はい、既に傷は塞がっております。明日には、帝都を発とうかと」


「……そうか、ならよい。して、お前は決めたのか」


「——王位の継承でございましょうか」


「左様だ」


「父上がお望みとあらば」


「ゲホッゲホッ。我は、お前の意志を聞いておるのだ。王になる気はあるのかと。この国を、大陸を統べる王に」


「……私はただ、命令に従うのみです」


「アーサー、お前は王には向かんな。メルシーは、どうしてでも王女になりたい欲望がある。デニールは、お前よりも認められたい承認欲求が、スカーレイは分からんが、その他の我が子達は、欲のままに姓を謳歌しておる」


「おっしゃる通りです」


「その中でも、レイノルドの欲は一番に強い。あの眼は、欲の塊だ。だから、お前との手合わせを許した。時期に、王になる器であろう」


「はい。父上の命令でしたので、賊の襲撃から彼を庇いました」


「……ここまで説き伏せても分からんか」


「一体何を、解れと言うのです?」


「お前には人間として一番の感情が……ゴホッ」


「王よ! 大丈夫でありますか?」


 父上は、左手を上げて「心配ない」と側近の医者に指示を出した。


「お前に、はないのか?」


「父上がお望みとあれば。私はそれを思いつきましょう」


「そうか。ならば行け。ダルメキアを落とすのだ」


「仰せのままに。誠心誠意、父上に尽くします。それでは、失礼致します。王よ」


 謁見の間を後にして、ダルメキア出発のための最終確認をした。すぐにでも出発出来るが、明日との予定だ。今日は、帝都を見て回ることにする。

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 城下町にやって来たが、困ったことに貴婦人型に握手を求められる。私は嫌な顔をせず、握手で返した。握手をした瞬間に、右手に違和感を感じる。


「何だこれは。何故か、右手が痺れる。ただの気疲れだろうか。身体が重いな」


 久しぶりに本でも読もうと、図書館へと入った。と言っても、特に読みたい本がある訳では無い。静かな場所へと来たいわけでもなく、無意識に私の足が図書館へと進んでいた。


「アーサー様! アーサー様だ!」


 5歳ぐらいの娘が、私の名前を呼びはしゃいでいる。


「こら、アンナ! アーサー王子に失礼でしょ。忙しいのよ」


「いいえ。私で良ければ」


「えーーーいいの?! やったぁ!!」


「すみません。アーサー王子。後で言い聞かせておきますので、少しのご無礼をお許しください」


「構いません。アンナさんは、何をお望みですか?」


 亜麻色の髪をした少女は、一つの本を持ってきて笑顔で私にこう答えた。


「この絵本をねー。一緒に読んで欲しいの!」


「分かりました」


 彼女が持ってきたのは、神話の類だ。『星の王様——ソロモン』


 昔々、この大陸には星の民が存在していた。それらを統べていたのが、ある生物だった。


 名前は無く、性別も分からぬ。ただ一つ、わかる事があるとすれば、民はそれを中心に一つに纏まっていた。


 それは、民に名前を付けた。


 民はやがて、幾つかの星を呼び寄せ、種の誕生をもたらしたのです。そして、ある生物は最後、「自分はソロモンである」と言い残し、空の星となって消えたのでした。



「素敵ー! アーサー様はこの物語って詳しく知ってるのー?」


「はい、私も神話はある程度知識として持ってますよ。アンナさんは、神話がお好きで?」


「大好きー! 他にも読んで欲しい物語が沢山あるのー!」


「こら、アンナ。アーサー王子は忙しいの。失礼しました、王子様。娘のご無礼をどうかお許しください」


「いいえ、問題ありません。また機会があれば、アンナさんのために戻って来ます」


「約束ー!」


 少女と最後に小指同士での、約束を交わして帝都を発つことにした。






〜帝国遠征軍 vs ダルメキア連合〜


 ダルメキアの戦力は相当なものだった。彼らは精霊魔法、使役魔法を使いこなし、魔物を手懐け、兵力として投入していた。


 更に、この国は冒険者ギルドの本拠地が近いため、ギルド連合なるものもあった。そのため、大陸中から屈強な戦士たちが集まっていた。


 とは言え、帝国の兵力も数では劣っていない。


 屈強な騎馬隊、兵団、王級資格の魔道士たち、そして我が騎士団。兵士の数は圧倒的に有利だ。


「うぉぉぉぉっ! 帝国が最後に勝利する!」「ダルメキアは我らが守る!」


 戦場は血と鉄の匂いで溢れかえっていた。その最中、我ら帝国にとって重要な作戦があった。


 ”聖なる丘の聖戦”


 魔物を操り戦う、テイマー。彼らはこの丘にある魔鉱石の結晶の恩恵を得ていた。それを奪取し、奴らを無力化する作戦。


 このゲオルギスはその作戦の最高指揮官として、場を任されている。


「中将! ゲオルギス中将! ご報告します、この設営キャンプに敵の派遣部隊が向かっています」


「なんだと? 地上からは無理だ。ここは丘の上に、構えているんだ。ここまでのルートは既に我が軍が確保している」


「空からです。ワイバーンに乗った竜騎兵が来てます。テイマー達のワイバーンに、騎兵が乗っており連携を取ってるかと」


「……くっ。この状況でか」


 この場を放棄することは出来ない。ここで奴らを無力化しなければ、戦争は更に長引く。


「王級の魔法使いたちはどうした?」


「我が師団の魔法使いは全滅です。この聖なる丘には、特級魔法使い "ミス・クレーン” が参入したとの情報で、彼女の前になす術なく制圧されました」


 ため息も出ない……特級が来たとなると戦局は大きく傾く。兵の士気しきも下がってきている。


「居たぞ! あそこだっ!」


「まさか、もう!」


 ワイバーンの竜騎兵か。さすがにこの数、私でも倒しきれない。これは、死ぬしかないな。


「……ゲオルギス伯。アーサー・ゴッドウィン現着しました」


 我々の前に現れた蒼き瞳……神々しい輝きを放つ王子。


「アーサー!! どうしてここに?」


「騎士団長の指示です。風向きが変わったから、お前だけ、聖なる丘へ迎えと。あれは、敵ですね」


「あぁ……あの数はお前と一緒ならば、勝率が上がる! 力を貸してくれ」


「仰せのままに。神の揺籃ようらんより降り注ぐ蒼穹そうきゅうの光、聖なる剣よ、秩序を保て。神々の意志をし、その名を轟かせよ。


 剣の名は、聖剣エクスカリバー」


 何だこれは——私の感覚がおかしいのか? 大気中の膨大な魔力が剣に集まり、光を集約した。王子の持つ剣は蒼白い輝きを保ちながら、静かに呼吸をしている。


 その後は、圧倒的だった。アーサー1人で、ワイバーンの竜騎兵を殲滅し、我々に勝路を見出した。


「アーサーに続けぇっ!! 今こそ、我ら帝国の力を存分に見せつけるのだーーー!」



 ダルメキアでの戦闘は更なるフェーズを迎えることになる。

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