第22話 殺さない毒


 アーサーの木刀は蒼白い光で包まれ出した。なぜ、木刀がそんなに光るんだと言いたくなるほどに。


 それに加え、彼の周囲に風が付き纏っている。辺りの草木が風に揺れてユラユラと生きているみたいだ。辺りに生息していた小鳥がバタバタバタっと、飛び立っていった。

 

 大唾を飲み込んだ。


 この甚大な魔力、威圧、肉体、奴は人間の世界ならば最強だろう。アーサー・ゴッドウィン、生まれながらにして無敗、最強の男。


 逆にお前は何を持たないと言うんだ。


「君の剣にも、加護を持たせよう——レイノルド」

「問題ありません。それでは、兄様に守られている事になる」

「そうか。そしたら、今度はこちらから行くよ。レイノルド」


 アーサーが突進してきた。地面に足をしっかり着けないと、風圧で飛ばされそうになる。キンッ! しっかり剣の軌道をずらしたのに、それでもこの威力。


「さすがですね、見事な剣です。お兄様」


 そんな事を本心では、1ミリたりとも思ってはないが。


 この剣に殺されたんだ、忌々しい腐った光の剣に。だが認めよう、今の僕よりアーサーの方が強いと!!


 一つの攻撃が来るたびに、何回も斬りつけられてる気分だ。しかも、一撃一撃が半端じゃないくらい重く、鋭い。正に豪剣。


「暗黒剣『黒き裁きパニッシュ・レイ』」


 木刀を暗黒魔法で最大限強化し、突きの一閃を放った。空かさずアーサーは剣でガードしつつ、反対側の白線ギリギリまで後退する。


「これでもダメか」


 僕の木刀は全身にヒビが入っており、後一回ぐらい剣を交えるとボロボロに砕け散るだろう。本当はもう少し、ダメージを与えたかったがこうなっては仕方がない。する。





 ***


 帝国の図書館や闇商人から買った書物で様々な事を調べ、実践した。戦闘に於ける身体の使い方、攻撃の受け流し方、更に敵の威力を利用して、反撃する陰流と言う剣の流派。


 今まで我流となっていた形式の戦闘スタイルに知識を与えて、自信を磨いた。けれども、アーサーのような外からの攻撃が殆ど効かない敵に対しての特効薬に、なるかどうかは疑問が残っていた。


「そこで考えたんだ」


「毒ですか?」


「その通りだよ、オフィーリア。例えば君たち吸血鬼の血、ひいては魔族の血は人間に対して毒になる」


「なるほど! そしたら、私の血をアーサーに飲ませれば!」


「それはダメだ。アイツは一般の兵士とは違う。僕ら魔族の血や血清を最も簡単に、克服するだろう」


 それで、アイツが更にパワーアップなんてしたら……考えたくもないな。


「……うーん、そしたらぁ」


「殺さない毒ですよね、主人様」


「その通りだ、ガーネット」


「ふふふ。あぁ主人様にお褒めいただき、光栄」


 ガーネットは後ろから近づいて来て、僕を抱きしめながらその台詞を吐いた。


「レイ様。すみません、私ちょっとトイレに」


 オフィーリアが消えた直後に、後ろの方で何かが破壊し尽くされた音がする。


「ですが、殺さない毒が思いつきません……例えば、神経毒とか、その辺りですか?」


「それなんだが……これを見て欲しい」



 闇商人から買ったある書物を見せた。



「これは、封魔石ふうませきと言って魔法を吸収して分解してしまう石だ。何でも、東の大陸で発見され、今でも採掘されるらしい」


「なるほど。これはになりますね。直ぐに、商人会を開いて、入手しましょう」


「ああ。ありったけの石が欲しい」


 その後は地道に石を集め、効力を試した。指輪に加工して嵌めてみる。確かに、少量の魔力では魔法が発動しない。それどころか、着けているだけで疲れる。


 これらの石を熱で高温にし、砕き、粉状のさらさらとした砂にする。それと魔物の毒素、毒草を加え融合。最後は液体に加工し、毒が完了した。


***




 今こそ、毒を使うチャンスが来たのだ。こんな開けた場所に二人、狙うなら今しかないだろう。


「うっ、ああああああっ!! 痛い、痛いです兄様! 降参します」


「……大丈夫か、レイノルド。少々荒ぶってしまったようだ」


 僕はすぐ様、木刀を投げ捨て膝から崩れ落ち、地面に頭を打ち付けた。アーサーは僕に駆け寄るために、魔法での強化状態を解いた。


「その弓は無数の星の煌めきを秘め、求める者の心を探し出し、必ずその意志に応えん。星を統べる者たちよ、我が声に従い、弓矢の軌道に込められた絶対の意思を受け入れよ。真実のみを射抜き、運命の軌跡を変える『奔弩流・遊雲の矢ステラレクサー・アルカナ・アイム』」


 ——ドスッ。


 アーサーのうなじに、弓矢が突き刺さる


「誰だ?」


 彼は時計塔の方角を見つめた。


 帝都一高い時計塔から放たれた、一矢いっしは、ルビーの最強の技だ。その矢は狙ったものに対して、必ず命中し——当たる瞬間まで、認識出来ない。


 条件としては、使用者が眼で捉えられる範囲内の攻撃だと言う事。視力が凄まじいルビーだからこそ出来る神業かみわざ


「にっ、兄様。ご無事ですか?! お怪我は?」


「問題ない。レイノルドは無事か? 我々は狙われているみたいだ、直ぐにこの場を離れよう」


 今の矢には魔力を吸収し、無力化する封魔石の液がたっぷりと塗られている。一つでも体内に入れば、流石のアーサーとは言え、直ぐに魔法が使えなくなる!!


「兄様は、先にお帰り下さい。どうやら僕は足を挫いてしまったようで、立てません」


 兄弟を見殺しにはできないだろう、アーサー! ルビー今だ! 射て。射って、射って、射ちまくるんだ! 


 僕はどんな卑怯者になっても、悪党になっても構わない。ただ一つ、これから生まれてくるアイリーナ様が幸せに暮らせる世界を作るためだけに、この命は存在する!


「ならば、おぶるしか無いな」


 その瞬間をルビーが見逃すはずがなく、アーサーの身体はいくつかの矢によって射抜かれた。ドスッ、ドスッと一本、二本、刺さるが僕をおぶって、建物の中へと入った。


「ここまで来れば、安心だろう」


「ありがとうございます……兄様」


 僕はアーサーに思い切り抱きつきながら、大泣きした。彼の体の傷口には封魔石の液体が付いている事をこの眼でハッキリと確認した。


「兄様、兄様の身体から血が、血がぁ!!」


 これでお前は、終わりだよ——アーサー・ゴッドウィン。


「……大丈夫だ。私は問題ない」

「すみません、すみません!! 僕が、僕がぁぁぁ! うわあああーん」


「何事ですかっ!!」


 扉をドーンと開けて、使用人と衛兵が入室してきた。アーサーは事情を説明して、傷の手当てのために、すぐさま回復魔法による治療を受けた。

___________________________________




 その次の日、王の命令により王子襲撃の賊を探し出す隊が組まれた。その隊にオフィーリアも参加し、僕に報告してくれた。


「全くバレていません、レイ様。ルビーは上手に任務を遂行したようです」


「報告ありがとう、リア。明日にはアーサーはダルメキアへと出発するだろう。彼の推薦で、僕も出発する羽目になりそうだ。だから、こうする」


 ボキッ。自分の左腕の骨を折った。


「レイ様——なんて事を! すぐに治療を」


「問題ない。リアは適当なを一人捕まえるんだ。彼は僕の部屋に侵入して、僕を襲い、骨を折った。そこに駆けつけた君は、僕を助け、彼を捉えた。今回の事件の賊に仕立て上げよう」


「了解しました。それでは、後ほど」

「あぁ。頼んだ」


 その日の夜、早速——衛兵にふんした賊が捕らえられた。


「何で俺が、俺は何もやってない! 気がついたら、王子の……レイノルド様の部屋にいて!」


「彼の発言は、嘘です。これが、その証拠です……僕がどれほど怖い思いをしたか。お父様、お願いします、それなりの罰を彼に」


「本当だ、信じてくれ! お願いします、王様! 俺はこの国に忠誠を尽くしてきたんです!」


 ルーランド王と側近はため息を吐きながら、今回の首謀者が彼であると判断し、死刑に処した。アーサーと僕、二人の王子を襲撃した罪は重い。


「して……レイノルド王子。其方は、アーサーから推薦を受けておりますが、此度の損傷により、ダルメキア遠征の戦力には該当しないと判断しました。城に留まり、剣の腕を磨くことに従事を」


「ハハッ! 仰せのままに」


 折れた右腕を見せつけながら、謁見の間で深々とお辞儀をした。これで、アーサーという脅威はダルメキアへ戻り、帝都に残った衛兵達の間でも不満が蔓延する。



 舞台は全て、僕の掌の上に——整った。













♦︎


 お読みいただき、ありがとうございます! 設定集を書いてみました。プロローグの次に入れましたので、興味ある方はご一読いただけるとありがたいです。

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