第24話 革命戦争


 最初に行動を開始してから5年、現在は11歳だ。


 時間が掛かったが、今こそ帝国を討ち取り、内部から滅ぼす。こちらの準備は万全だ。アーサーは東のダルメキアを鎮圧するために、遠征へかけており、帝都には久しく戻らない。更にアーサーの体内には封魔石を仕込ませた。

 

 戦いは長引き、最悪帰ってきたとしても——魔法は使えないだろう。


 魔族の動きが活発になった——という嘘の噂を帝都に流し込み、残存兵力を南へと向かわせた。帝国の兵士たちの士気も、最近の一件があったせいで落ち込んでいる。


 仕掛けるならば、今しかない。

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 今日も帝都は平和そのものなのだ。戦争が続いているとは言え、人々は平和という象徴を噛み締めている。


 それが今日、瓦解がかいする。今日から、権力者たちは、弱者の牙に——恐怖する。帝国を崩壊させたら、僕らの活動も終わりを迎えるな。


 今日は晴天だ、だがこれでは相応しく無い。革命の日の天気は、曇りであるべきだ。


 帝王学の授業中、窓から雲の流れを見ていた。他の兄妹にとっては、何らいつもと変わらない日常だろう。


 メルシーのように、血走った目付きで授業を聞いている者もいれば、ヒューイのように紙飛行機を作って遊んでいる者。


 テレシーのように、いつも寝ている子もいれば、容量が悪い二人の兄もいる。


 エレインからは魔の魔力を感じない。未だに、ダインスレイブを使用していないのだろうか。スカーレイは珍しく出席していた。僕の前の席で、小鳥を指に乗せて遊んでいる。


「Mr.レイノルド。それでは、ここのページの復唱をお願いします」


 先生に名指しをされて、席を立ち教科書を読み始める。


「水がなければ船は無く、風がなければ、船は進まぬ。船が沈む時は、水が濁り、風が荒れ狂う潮の時だろう。委ねるのではない、連ねよ。変化を受け入れることを、船は拒まぬ」


 僕は帝王学の教本の1ページを復唱した。


 今日から僕が、影の王だ。


 時計の針は進み、やがて正午になる。そうなれば、作戦を開始する。

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 正午になり、時計塔がキンコーンと鳴り響いた。城下町の大広場では、オクタゴンからやって来た人気のサーカス団がいた。


 彼らのショーは大締めに入っており、賑やかな演奏と派手な演出で、広場の民衆は釘付けだ。


 最後——ドラムロールに合わせてカーテンの奥から出てきたのは、貼り付けにされたカール伯爵の首。競りで手に入れた、氷の中にどっぷり浸かっている。


「なっなんだ今の?」「……あれは伯爵?」「今のって、まさか」


 カーテンは閉じ、静かに幻影の映像が写り始める。


「我が名は暗黒仮面。それ故、名は無い。今日はサーカスにお集まり頂いた、皆さんに祝砲を上げましょう」


 音は帝都内全ての範囲に渡るまで、轟くようにしてある。


 スレッタの能力により、彼女の忌々しい記憶を全て映像に変えて、広場の民衆に見せた。彼女が今まで、散々に受けてきた虐待の数々、カール伯爵を筆頭とし行ってきた魔族の血清の工程。


 それは見る物に嗚咽をもたらす程の悪事だ。


 エレナは得意の水系統元素魔法で、天候を操り晴れから曇りへと帝都内の天気を変えた。この窓から見える景色も、曇りとなった。


「ご覧いただけたでしょうか。これは、ある一部の貴族たちが今まで行ってきた、非人道的な実験とその犠牲となった子供たちです。彼らのような、ゲスが帝国の大臣を務めている現状……このままでよろしいのでしょうか」


「おい! 何をやっている、このショーを今すぐに辞めるんだ!!」


「それは出来ない」


 べセルやその他の八戒に、兵士の口止めは頼んである。


「我々はかつて存在した、ハザンのような、生温い義賊ではない。根底から、この国に変革をもたらす革命軍。『シン・革命軍』である。

 さぁ、弱者よ。今こそ立ち上がるのだ。その力、その知恵、その勇気。我が先導しよう、今こそ——革命の時だと!」


 幻影は最後にその言葉を残し、ショーは幕を閉じた。次の瞬間、下層の方から、住民が押し寄せて衛兵を殺し始めた。


「俺の息子をよくもっ!! 返せよっ、息子を!!」


「帝国繁栄のための、尊い犠牲だ! 命ひとつで、帝国が反映するならば、お前の息子も幸せであろう!!」


 帝国への革命戦争の火蓋が、切って落とされた。


「何事ですか?!」

「何やら、祭りが始まったようですね。先生」


 帝王学のおばあちゃん先生は慌てふためいた様子で、教室を飛び出していった。にんまりと笑ってしまいそうになる表情を抑えながら、僕は小声で答えた。


「カール伯父さん……お母さん、伯父さん、お母さん、伯父さん」


 ヒューイは精神を可笑しくしたのか……一人、ぶつぶつ言いながら教室を出て行った。


「なっ、何が起こってるんだ! 怖いよ、嫌だ!」

「ジェレミー兄様。お父様が守ってくれます。急ぎ、知らせましょう」


 ジェレミーとルーカスも取り乱している。彼らは、慌てながらも王の謁見の間にでも行くのだろうか。


 メルシーは顔を真っ青にしながら、教室を出て行った。


 第四王女のテレシーも寝ぼけたまま、部屋を出て行く。


 エレインは瞳を閉じ、何かを悟った後に、教室を出て行った。彼女は正義感が強い……恐らく城下町へ駆けていくだろう。ダインスレイブを抜く事に拍車がかかるな。


 残っているのは、スカーレイと僕のみになった。


 彼女は窓の外を見ながら、不適にも笑っているように見えた。窓際の小鳥と未だに会話をしている。


 アーサーが居らず、帝国内の兵士の士気も落ち込んでいる。そんな状況の帝都など、簡単に制圧出来る。彼以外に戦闘力のみで、僕や同胞を全て相手にできる人物などいないからな。


 その考えのもと、僕は今日に決行を決めた。


 まずは、メルシーから殺るか。その次は、二人の兄。テレシー、そしてスカーレイを。エレインはダインスレイブ覚醒のために、残しておくか。


 ヒューイはこの際、どうでもいいだろう。彼はおそらく夢の中に取り残されている。ならば、永劫的な夢の中で生き地獄を味わうのが相応しい。



 

 教室から出ようとすると、スカーレイが話しかけてきた。

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