第25話 六芒星の天体
「あれ? レイちゃんどこに行くの。今は移動するの危ないんじゃないかな」
振り返ると、スカーレイが僕の事をジーッと見つめながら、ニコニコと笑いかけてくる。何故だが、とんでもない寒気がする。
「何故ですか? スカーレイ姉様」
「外に出て、いきなり攻撃されて死んじゃいましたーなんて、私はヤダよ。ねっ、ピィちゃん」
頭の上に乗っている小鳥と会話しながら、問いかけて来た。やれやれ、面倒だ。それとも、スカーレイから先に……。
「父上がなんとかしてくれると思います。あんな、シン・革命軍など。城の衛兵にかかれば、すぐに
やれやれと両手で、合図をしながらそう答えた。その後、何の音沙汰もなく彼女は僕の正面に立っていた。
「嘘を吐くんだね」
「嘘?」
「だって。ピィちゃんが言ってるよ——レイちゃん、笑ってるって」
——胸が一気にざわつき、心臓の鼓動が速くなる。なんだ、この感覚は?! これは、僕が恐怖しているのか……それとも、高揚しているのか。
「ハハッ。何を仰います……スカーレイ姉様。嘘など——」
視線をスカーレイの方向に向けると、彼女は既に消えていた。いいや、違うのだ。僕は最初から、彼女の手のひらの上だった。この空間は——そういう事だ。
「……投影結界」
あまりの変化につい……投影結界の名前を口に出してしまった。
地面から空まで、無限に連なる星空の空間が続いている。どうやらここは、彼女の具現が創造されている世界だ。いつ発動したのか理解できない……発動速度が速すぎる。
それにこの場所……妙だ。理屈はわからないが、あたり一面が魔力で溢れかえっている。その魔力が自分の中に流れ込んできている感覚。自分の魔力なのか、周囲の魔力なのか理解が追いつかない。それ故に、辺な恐怖を感じる。
まるで自分が魔力そのものに成り代わろうとしているような……。
「レイちゃん物知りなんだね。そうだよ、ここは私だけの世界。『
彼女の掛け声と共に、地面には巨大な六角形の魔法陣が出現した。
「どういう事ですか。スカーレイ姉様。一体、僕をどうしようと?」
「どうもしないよー。私と一緒に星を観察しよ。ここは、世界一安全だとおもうの。レイちゃんが死なないように、私が守ってあげるよ」
「それは嬉しい……ですね」
投影結界にて、彼女と星座を見る時間が始まった。
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〜スカーレイの投影結界内部〜
「違うよー。あれが、アンドロメダ座で、女性を表しているの。素敵でしょう?」
当初の目的から外れてしまった……この反乱戦争に応じて王子と王女を暗殺し、帝国を乗っ取る計画が、まさかのイレギュラーによって、こうも覆されるとは!
こんな場所で、彼女と一緒に星座をのんびり観察している時間などない。僕にはやるべき事が沢山あるのだ。
一刻も時間を無駄には出来ない。ここにいる限り、外の状況も分からないのだから。
「スカーレイ姉様、無理です。僕は、星座には詳しくないんです。姉様は星座がお好きなんですね」
「そうなのー! 私はね、ペットと星が大好きなのよー。レイちゃんの連れていた猫ちゃんも可愛かったなー」
スカーレイは満面の笑みを浮かべながら、僕を見つめて来た。僕の読みは完全に間違っていた。
アーサーは言うなれば、無敵の剣としての強さを誇る。スカーレイは、最初見た時、魔力量で言えば未知数だったが、何とかなると考えていた。
逆だ。
彼女はアーサー以上に異質な強さを誇り、それは僕一人でどうにか出来るレベルじゃあない。少なくとも今の実力では、天と地ほどの差があるという事。
——今、何秒、何分、何時間経った? この空間に閉じ込められているだけで、時の感覚が無くなり、空間的な前後左右の並行感覚さえも奪われる。
昔……暗黒魔王陛下の技に付き合わされたことがある。その時にやったのが、投影結界に自分の結界を張ること。もう、それしかない。
「投影結界は魔法の真髄ですよね——お姉様」
「そうだねー。ひょいって指をなぞるだけで発動出来るけど」
「この世界の空間に上書きできるのは、一つの投影結界のみです。それを更に上書きする事で、二重の層を展開する。でもそれは、魔力の押し合いで優勢が付き、残るのは一つだ」
「んーー? レイちゃんの言ってる事が理解できないなー。ほら、そろそろ流星群がやってくる」
「スカーレイ姉様。ここからは、力量の勝負ですよ」
「……レイちゃんも見せてくれるの? 想像の具現化」
「あなたを全力で、壊す!『
具現化された星空の空間。それに自分の投影結界を上書きした。あたり一面が全て、漆黒の闇へ変化する。かつて滅ぼされた魔大陸を模した、情景へと変化する。
「凄ーーい。こんなの食らったら、精神可笑しくなっちゃうかもねー」
「押し合いの勝負だ! スカーレイ!」
「いいよーレイちゃん! ちょっとだけ本気を出しちゃおうかな」
彼女と目を合わした後に、体勢を整える。右手を地面に置き、それを左手で支える。僕は地面に向かって、詠唱を唱え始めた。
「孤高の城よ、大地を踏み鳴らし、魔を極め、
最後に両手を合わせ、地面に向かって発動した。かつて人間の恐怖を最も支配した、巨大な城を顕現させる。全ての魔力を今、注ぎ込む!
ここで勝たなきゃ、死んだも同然だ!
「『
「……なんだ、これ?」
突如として現れた光の
——考えることが、思考が組めない。
「レイちゃん。気分はどーお? 頭の中に、
目の前が、真っ暗になり、深淵に体が溶けていく。
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〜同時刻・城内〜
「お母さん。伯父さん、おかあさん、伯父さん。お母さん、お母さん」
ヨダレを垂らし、亡霊のような歩き方をしたヒューイは着々とカーラ妃の部屋へと向かっていた。彼の脳内に描かれているのは、母親や伯父に愛され、遊んでもらっていた過去の自分。
「お母さん」
カーラ妃の部屋の扉を開き、中に入るヒューイ。そこには、窓際の椅子に静かに佇んでいる母親の姿があった。
「お母さん」
「あぁ。来たのねヒューイ」
彼女の顔は以前とは比べものにならないほど、老け、シワが出来ていた。魂が抜けたように、虚な眼をしている。カールの悪事がバレたのだ。これで、自分の一族は終わりだと悟っていた。
近づいて来たヒューイを抱きながら、自分に問いかけるようにカーラは言った。
「これで、これで全て終わった。ふふふ。あなたも、私も。ハハハッ、ハハハハハッ。私の計画はめちゃくちゃだわっ!! あぁ、今まで生きて来ていいことなんて、一つもなかった」
ヒューイは彼女の胸元に顔を埋め、夢を見ている。
「この……くそ、母親失格ね。ハハハッ、なんて言う惨めな人生だったの」
「お母様っ!! さっきの映像は——」
メルシーが部屋へ入って来たのと、ほぼ同時に——カーラは窓から身を乗り出し、下へと飛び降りた。
「……んな、そんな。お母様。いや、嫌ああああああっ! アンタのせいよ、アンタがそんな病気になっちゃうから、お母様まで病気になって——アンタなんて、死ねばいいのよ!!」
ヒューイの中で——何かがプツンと切れた
「お母さん」
彼も窓から飛び降りる。路上の母と子供の死体は、静かに目を閉じる。メルシーはこの一件を境に、母の夢を遂行するためだけの奇人となり果てた。
一連の騒動を目撃してしまった、ジェレミーは恐怖し、一緒に居たルーカスは何処とない高揚感に包まれていた。
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