第26話 革命戦争② <オフィーリア視点>


 私は信頼出来る兵たちを引き連れ、ルデルカ近辺の大隊と交戦していた。


「貴様ら、帝国を裏切るのか?!」


「先に民を裏切っていたのは、お前たちの方だろう。リア様と共に新しい国を造るのだ!」


 兵士が頑張ってくれたお陰で、駐屯地は制圧した。帝都との連絡網を遮断するために、レイ様に制圧せよとのご命令を頂いたのだ。


 そろそろ、レイ様との約束の時間。帝都に向かわないと。


「貴方達は、このまま駐屯地で待機しておけ。私は帝都の様子を見てくる。後は頼んだぞ」


「ハッ! 仰せのままに」


 帝都へと向かう途中、白と青のローブに身を包んだ、魔道士団に出会う、1000人ぐらいの規模だ。彼らも帝都に足を運んでいるように見えた。


 レイ様の援軍か何かかな? 


 私にも知らされていない、作戦があるとか……。脳裏にはべセルの憎たらしい表情かおと笑顔のレイ様が浮かんできた。


「くぅぅぅっ! べセルには先を越されないんだから!!」






 全力で帝都へと向かい、草原と丘を超えて、正門へと辿り着いた。


「その服装、偵察警備軍か。領土内全域に招集がかかっている。他の者はどうした?」


 正面にある門の、門番が話しかけて来た。


「ただいま、帰還しました。オフィーリア中尉です。途中で革命軍とかいう族と交戦し、生き残ったのは私だけです」


「そうか……それは、災難だったな。剣を見せてくれ」


「どうぞ」


 私は剣を見せた。


「やはりな。ここは通せん、貴様何者だ。返り血も、傷も、剣も使用されてない。まさか、中尉とか言う地位を使い、ここまで逃げて来たのではあるまい」


 私自身は戦いに参加せず、命令していただけなのだから——剣は使用してない。


 帝都を防衛している衛兵は洞察力 > 戦闘力だ。


 面倒くさいことこの上ない。


「ええええええーーん。私は、ほんっとうに! 何と言う役立たずなのでしょうか! 陛下のお力になれず、一人敗戦の道を突っ走って来たという、正に除籍されるのに相応しいでしょう! 

 ただ、陛下の、陛下のお力になりたく、地位と名誉を捨ててでもこの地に戻った参っただけのこと!!」


 地面に膝をついて、泣き崩れる演技をした。顔をうずめ、右手で地面を叩く。レイ様から、演技の基礎を叩き込まれている。


 初期の頃に比べたら大分上手になったのではと、自分を褒め称えたい。いや、レイ様に褒め称えられたい。


 だめ……あの方の顔を想像するだけで、興奮して来ちゃう。


 ともかく、私は軍のスパイなのだ。武力ではなく、演技力で敵を錯乱するのだ。それがレイ様から与えられた、任務の本質。


「そんなに泣き崩れるな。わかった、もう分かったから。今は帝都が危ない、中尉も革命軍を鎮圧する隊に加わってくれ」


「ありがたきお言葉。陛下の剣となり、誠心誠意、陛下に尽くします」


「……待て、何だその眼は?」


「はい?」


 ……泣いた影響で魔法のコンタクトが外れて、ヴァンパイア特有の赤い瞳があらわになってた。よし、殺そう。


 衛兵の槍を奪い取り、彼らを薙ぎ払って殺した。血も少し貰っていく。


「うっ、この血不味い。レイ様の血が一番だ……。仕方ない、甲冑を身につけて顔を隠そう」


 甲冑の鈍い音を立てながら、中央広場へと向かった。

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 中央広場はまさに、大荒れだった。いつもは賑わっているレストランや酒場、商店は店を全て閉め出し、襲撃を受けないように店を畳んでいた。


 火炎瓶による攻撃で、炎が燃え上がり、綺麗な噴水は血で濁っていた。


「一時撤退するぞ。おい、そこの貴様! お前は備蓄庫へ行き、武器を取ってこい。弾圧する!」


「はい!」


 防衛軍のおじさんから命を受けて、城の備蓄庫へといく事になった。レイ様と合流するにも好都合だ。私は城の方角へと走っており、城の庭園へとたどり着いた。


 ——ピカンッと雷が右の方向から突進して来た。私は持っていた長槍で、一撃を防いだ。


「この衛兵。よくやる」


「べセルッ! 私よ、オフィーリアよ」


 勢いよくべセルに振り回されるので、甲冑の中で声がもって——べセルに声が届かない。


「くっ……面倒くさいわね。変身」


 猫の姿に変身して、甲冑の中身は空になった。


「気配が変わった?」


「ニャー」


「なんだ。オフィーリアか。殴って損しちゃった」


 この狼娘……作戦が終わったら後悔させてやる。


 それより、レイ様は何をしていらっしゃるのでしょうか。本来ならば、城の鐘の方角から現れるはずなのに。


「ニャー、ニャー」


「アタシにも分かんない。主人様の事だし、そろそろ来るでしょ」


 ここら辺一帯を守っていた衛兵は、べセルが掃討してしまった。


「はぁー全く役に立たない兵たちですね。我々の手をわずらわせるとは。なぁ、ヨポン」


「全くその通りですよ、ヤポン兄」


 巨体の二人組が出て来た。一人は斧を、もう一人は棍棒を持っている。何かの部族だろうか、変な模様を体に刻んでいて、二人とも坊主だ。


「ねぇ、オフィーリアは見てるだけでいいからね」


「ニャーーーーーッ! (無理、私が手柄を立てるわ)」


「だって、主人様が来ないと眠くなっちゃうんだもの。準備運動に良さそう」


 べセルはそう言うと、巨体に向かって突進して行った。


「ほほう! 帝都防衛の真の門番とは我らの事よ!! 王城には一歩も近づけさせん」


 シュパーンッとべセルの雷を纏った爪の一撃で、二人ともあっけなく三枚下ろしになった。巨体が倒れて、べセルは返り血を浴びる。


「フーーン……。弱すぎない」


「ニャー……(あんたが強すぎるのよ)」


 そろそろ変身を解くか、吸血鬼の身体に戻った。


「あれ、身体戻しちゃったの。猫ちゃんで居てくれればいいのに」


「余計なお世話ね! 大体、あんたが攻撃して来なければ私は変身する必要なかったのよ!」


「はいはーい。主人様のお気に入りじゃなければ、あのまま殺してやっても良かったんだけどねー」


「……殺す? 無理無理。あなたじゃあ私の足元によ及ばないわ。一体どの口が、殺すなんて」


「ムカつく……じゃあ今から、ここで勝負よ」


「えぇ、受けて立つわ! 勝った方が、今後レイ様の真の配下よ!」


「ラジャー」


「おい! そこの革命軍よ。すぐさま降伏しろ。でなければ、貴様らの命はないと思え。幾千の弓が今から、貴様らの身体を射抜く」


 屋上から弓兵がぞろぞろと姿を現した。多分、隠れていたんだろう。


「はぁ? ブチ殺すわよ」「殺る」


 弓が放たれ、剣で全て撃ち落とした。私の血を剣に染み込ませ、それを屋上に居る弓兵へと思いっきり投げた。


「ぐわああああっ!」


 弓兵の一人に剣が刺さる。


 投げつけた剣のところまで、血の魔法を使い瞬間移動した。

 今の私は、自分の知覚出来る範囲ならば、血を介して、瞬時に移動出来る魔法を身につけている。


「——こんな屋上に一瞬で! ぐあっ!」


 弓兵を斬り伏せ、屋上の半分を片付けた。皮肉にも、べセルが屋上のもう半分を片付けて、気がつけば二人で、城の外壁を鎮圧させていた。

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