第27話 召喚獣アレキサンダー <オフィーリア視点> 


「ふぅ、終わったみたいね」

「手応えなかった。城に入ってもいいかも」


 べセルの言う通りかもしれない。このまま城を手中に収めれば、レイ様にお褒めいただけるかもしれない。


 いや、ダメだ。


 レイ様は完璧を求めるお方、あの方が現れるまでは、この場所で待つしかない。数時間でも、数日でも、数年間でも。


 なんて愚かなことを考えてしまったんだ私は! あぁレイ様との大事な約束を破る所だった。


 べセルもそこら辺は理解してるみたいで、今は座りながら瞑想している。


「何か来る。結構、強い」

「何か来る? 私は、何も感じないわ」

「私には分かる。これは、召喚獣の匂い」


 突如、城の庭園付近で何かが召喚された。光と共に現れたのは、重厚な鎧に身を包んだ巨大な鉄人。


 鎧と装飾は洗練され、神聖な雰囲気を漂わせている。一目見るだけでその威容いようを感じさせる。


 特徴的なのは、背中部分の六枚の羽。


「ねえ、べセル。あれって強い?」


「分かんない。アタシのご先祖も召喚獣として、戦争に呼び出されていた。それと同等の力を持つって事。えーーーっと、召喚獣『アレキサンダー』天魔大戦の兵器だったとか」


 アレキサンダーの体は、見る見るうちに縮小していき、3mぐらいの大きさになった。とりあえず、倒すしかなさそうね。


「——ギギギッ。ガガ。(帝国の敵、排除)」


「くるっ!!」


 兜がピカーンと光り輝き、私に向かって光線が放たれた。


「『血の壁ブラッディ・ウォール』」


 地面に垂らした血で作る、何層もの壁。光線を寸止めで受け切ることができた。私の大切な髪の毛が少し、燃えてしまった。


「許さない。レイ様に褒められたこの髪……鉄の兜なんかに燃やされて。許せるもんですか」


 べセルは戦闘態勢に入った。私もまずは、全身の血を躍動させて、身体能力を強化させる。


 強化した脚で、宙にジャンプした。空中で回転しながら、アレキサンダーを斬りつける。相手の大剣が私の一撃目を受け止め、私は左手に身体を掴まれ投げ飛ばされた。


「離れて、吸血鬼」


 べセルが雷を浴びせるのが見えた。ビリビリとほとばしる蒼い雷。けれども、鉄の体には効果が無いのか、べセルはパンチで吹き飛ばされていた。

 


「貴方の魔法、ゼンッゼン効いてないじゃない」


「うるさい。もうちょっと出力上げるか。アンタも無様な姿……服がビリビリで、情けないわ」


「うっさいわねぇ! 私が完成させた魔法を見せてやるんだからっ!!」





***


「リア。君は血を自由自在に扱えるな。それで、武器も作り出せる。そろそろ、君にしか使えない魔法の一つぐらいは仕上げてもいい時期だ」


「はい。レイ様のおっしゃる通りです。ですが、魔法を応用する事が出来なくて……どのように扱えますでしょうか」


「もう少し、頭を柔らかくしてみよう。例えば、血から血を生成するんだ」


「それは一体……」


「魔法は生物に宿る。それは、人間や魔族に限る事じゃないさ。大地や海、植物など全てには微弱な魔力が宿っているんだ。こんな風に」


 レイ様は、近くにあった木に触れて、その木々を成長させ花を咲かせた。


「僕の魔力を木に注ぎ込んだ。内部に溜め込んだ余分な魔力を放出させるために、木は成長した。これの逆だよ。君の能力があれば、生命から微弱な魔力を吸い取り、ほぼ無限に湧き出る血の泉も出来上がるんじゃないか?」


「何という聡明な知恵!! レイ様、私——自分の魔法を完成させて見せます」


***




 それからというものの、軍としての任務を全うしながら、レイ様に仕えるため、魔法を勉強し、自分の魔法の解釈を広げた。それを、アイツにぶつける。


「血の血族において、魔の名を冠す我、罪知らぬ者どのよ、ひれ伏せ、その四肢に爪を立て、我の情理の贄とする。『潜血円転アンドレイ』」


 鉄の鎧の半径5mに血の紋章で形成された、サークルを描いた。アイツの体がサークル内にある限り、地面から湧き出る、無尽蔵の血の刃に貫かれる。


 地面に残っている魔力を吸い取りながら、発動する血の円転。魔力の消費を抑えながら、相手を確実に死に至らしめる。


「ザクザクといい感触ね」


 アレキサンダーは空へと逃げ、滞空しようとした。


「無理よ。そのサークルの血が付いた瞬間に、私が瞬間移動出来る、足場になるから」


 私はアレキサンダーを上から蹴飛ばし、地面へと叩き落とした。


「ギギギッ——ギギ」


 アレキサンダーは血の刃に何回も串刺しにされ、無残にも地面にへばり付いて動かなくなった。


「トドメはあなたにあげるわ。やりなさい」


「——言われなくても。『蒼雷の槍べセルシュート』」


 べセルが雷の大槍を頭上から投げつけて、アレキサンダーは真っ二つに裂けた。そのまま、キラキラとした光の屑になって消滅した。


 今のが、この国の最強の兵士ってところかしら? レイ様の足元にも及ばない……。レイ様、あなたは一体どこにいらっしゃるのですか。

___________________________________






〜同刻・円卓会議〜



「十席様に、ご報告致します。たった2名の革命軍により、王城に残った兵及び、門番は死亡。現在、自動防衛召喚魔法『アレキサンダー』が交戦中です」


「何だと?! このままでは本当に城が陥落かんらくしかねんぞ」


「保守派はこれだから……いいですか? アレキサンダーが破られた事はこの数百年ありません。自衛など、そもそもアレに任せておけばいいのです。反魔法障壁により、城の外部から、内部へは魔法攻撃も無力化されるのですから」


「馬鹿か貴様は? 剣やその他の武器の襲撃は防げん。せめて、アーサーぐらいは城に置いておく方が今後は、賢明だな」


「そんな事はどうでも良いのだ! 魔導大団の到着はまだか?」


「はっ。既に峠を越え、帝都周辺において、配置完了しました。術の発動はいつでも可能です。陛下、ご指示を」


 ルーランド王は、神霊の召喚に対し——帝国全領土の民の魂の一欠片ひとかけらを捧げ、儀式魔法を発動させた。

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