第12話 都市ルデルカの一件

*年号表記をミスしてしまいました。修正済みです*



〜帝国歴1790年春。レイノルドの部屋にて〜


「あれからの調子はどうだい、リア?」


「はい。訓練はレイ様の修行の方が数百倍はキツイです。ですが、剣の流派を学べるのは嬉しい副産物。功績を挙げ、偵察団の大隊長の地位についてます」


「さすがリアだ。大隊ともなれば、200人程度の指揮系統は見込めるね」


「いいえ、全てはレイ様のおかげですよ//」


 オフィーリアは出会った頃に比べると、少し女性らしくなったと言うか……。


「ご褒美だ」


「あぁ、溶けちゃいそうです//」


 僕の首元から血を啜りながら、オフィーリアは陶酔しているような目で訴えかけてきた。「あぁー、はぁはぁ// イイ、ものすごくイイっです//」とオフィーリアは吐息を漏らしている。


 オフィーリアは知らぬ間に変態属性が付いて来ている……。吸血鬼の一族は、歳を重ねると変態になるか、誠実になるかの両極端だと聞いている。


 ディアブロは誠実……の皮を被った変態だったからな。毎晩、魔族の女の部屋に忍び込みパンツの匂いを嗅いで回っていた。


 中でも龍種の子の赤いパンティーが好きで、仮面と間違えてパンティーを被りながら戦ってたなんてのも、よく聞く話ではあった。


 オフィーリアには出来れば、誠実になって欲しいものだが、彼女の性格を無理に従わせるのも良く無いな。


「すまない、血はこの辺にしておこうか」


「——はっ! 私としたことが、すみません。取り乱してしまいました。隊長ですので兵士を動かす事が出来ます」


「いいや、全く問題ない。時が来たら、命令を下すよ」


 オフィーリアは「分かりました」とお辞儀をし、夜の偵察任務の支度をして、部屋を出て行った。


 ベセルは今にも爆発しそうな表情を見せているので、彼女の頭を撫でてやることにした。


 何はともあれ、オフィーリアが軍で活躍してくれれば、軍内部をより探りやすくなる。僕が待ち望んでいた事だ。


 予想としては、数年もしない内に帝国は東の大国を制圧し、魔族の国への侵攻が活発になると見込んでいる。


 それまでに、僕にしか出来ないことをやっておきたい。


「そろそろ行くか。べセル」

「ラジャー」

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 城下町を抜け、西へ30km。第二の帝都と名高い都市『ルデルカ』へとやってきた。


 帝都と情景はそれほど変わりはないが、この街は商人など貿易が盛んであり、文化が発達している。


 僕がやって来たこの場所はスラムの下水道。煌びやかな、帝国の都市部とは正反対に、ここは腐敗と汚濁の象徴だ。


 狭く曲がりくねった通路は、不安定で古びたレンガで作られ、湿った水たまりが広がってる。薄暗い灯りが通路の一部を照らし、急な階段や小さな洞窟のような空間への道標となっている。


「来ましたか……暗黒仮面様」


 下水道の空洞を利用した狭い空間に隠れ家を作った。家具やタンス、武器があり、空気中には鉄製の匂いが漂っている。


「待たせたな、我が同胞よ、今宵、カール伯爵の邸宅を襲撃する。彼は、我々のような貧しい民の命を弄ぶゲスだ。


 その罪を断罪する」


 同胞と共に静かに声を上げて、襲撃へと出発した。


 彼らは、王族貴族に家族を殺されたり、奴隷、実験の材料として使われていた被検体など、様々だ。そんな所を、僕、オフィーリア、べセル、エルシレーナの四人が中心となりまとめ上げて来た。

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 街の外れにある、カール邸宅へと到着した。立派な門が広がり、それをくぐると壮大な庭が広がっている。


 屋敷の兵を軽々突破し、屋敷へと乗り込む。


「何者だー! 兵はどうした、誰かおらんのか?!」


「カール伯爵様。何も問題はありませぬ。この、トリステン・ハッシュベルトが居ります。俗など我が剣技により、仕留めてご覧にいれましょう」


「ここは頼んだぞ! 私は、裏道から抜ける!」


 どうやら、残るは目の前にいる赤髪の騎士と、無様にも逃げ出したカール伯爵一人。


「べセル。騎士は任せたぞ」


「ラジャー」


 大広間の騎士はべセルに任せる事にした。僕が駆け抜けようとした時、背後から火の玉が飛んできた。べセルはそれを、撃ち落とす。


「貴様。ただで通すと思うなよ」


「あーあぁ。アンタも残念だなぁー。瞬殺しちゃうよ」


「お前のような、獣族の少女に私の剣が敗れるわけがないだろう」


 後方でべセルと赤髪の騎士が交戦を開始した。激しい衝突音が聞こえるが、問題なさそうなので、先に進む。


 カール伯爵よりも先回りして、奴の正面に降り立った。


「こんばんは。カール伯爵。これまでの税収の横領、殺人、人身売買に魔族実験の材料に……見るに耐えませんね」


「ハハハッ。なんだい、君は? いい加減にしたまえ。私は忙しいのだ! 子供の遊びに付き合っている暇はない」


 ぶくぶくと太った体に、おかっぱ頭。顔が何処となくヒューイに似ているな。血筋は争えないな。


 僕は懐に潜り込み、彼の脇腹を拳で砕いた。あばらが折れる鈍い音が鳴り、彼は悲鳴を上げている。


「ぐああああああっ! ガキぃ! こんなことをしてタダで済むと思うなよぉ……。私の家系はなぁ、王族の」


「知っていますよ。あなたの姉君はルーランド王の妃の一人、カーラ女王ですからね。彼女とあなたは、他の兄弟を殺し、血と肉の禁忌魔法で長女カーラの容姿をルーランド王の好みに変形させ、政略結婚した」


「——なぜそれを?!」


「あぁ。あなたは、知らなくていいことです。どうせ、死ぬのですから」


 僕は彼の心臓に槍を突き立てる。


「ガフッ。い、命、命だけは」


 聞く耳持たず……勢いよく刺殺した。血がドクンと溢れてくる——が、様子が変だ。血が心臓へ戻っていき、カールが再び立ち上がった。


「ぐっ、くははははっ! 我は既に人間を超越した存在!」


 そういう事か。魔族の血清を取り込んでいたのか。自らを悪魔族へと昇華させようとしている。


「これが、これが長年求めていた悪魔の力!! ヒャハッ! 力が、力が漲ってくるぞ」


 ブヨブヨとは程遠い、紫色の身体へ変色し、筋肉達磨のような体つきになる。背中からは片方だけ悪魔の翼が生えて来た。


 確かに悪魔族はこの世界で、上位者と呼ばれる種族だ。人間がその種族になるとは、命への冒涜。一体どれほどの犠牲を払って来たんだ。


「その結果がお前の汚い身体か」


「ガアアアッ!」


 ギザギザの大剣を召喚し、黒い斬撃を放って来た。僕はそれを槍で弾き、斬撃が頭上高くに舞い散り、天井が崩れた。


「フハハハハッ! 素晴らしい!」


「今日は、素晴らしく月明かりがいいな。貴方の痴態ちたいがよく見える」


「?」


「痛覚が無くなってしまったのか。貴方の身体には今、千を超える鋭い槍が刺さっている。死ぬがいい、ゲテモノ」




 既に技を発動させ、奴の体をズタズタに引き裂いていた。

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