第13話 八戒


 変身したカールを瞬殺し、彼は元の姿に戻った。一方でべセルも赤髪の騎士に打ち勝ったらしい。


「グフッ……なぜ、これほどまでの力を。お前たちは、何者だ」


「ダメじゃないか、べセル。まだ息があるみたいだ」


 赤髪の二枚目顔をした騎士は、立ち上がってきた。


「ヒョイっと」

 

 べセルが左指で指を鳴らすと、雷鳴が轟き、騎士は雷に打たれた。


「ぐああああああっ。おのれ、貴様ら。許さん。許さんぞーーーー!」


 最後は呆気なく死んでしまった。僕は屋敷の書庫にあった魔族の血清を全て取り出し、回収した。


「これで片付いたかな。ソーマいるか?」

「ハッ。ご主人様」


 僕の呼びかけに応じて、影から少年が現れた。氷を想像させる髪色に、紫色のローブを羽織っている。


 彼は魔族の血清の被検体にされた過去から、底知れない魔力と、帝国への恨みを持っている。僕の新しい同胞だ。


「週末に西欧都市で商人会がある。君の影の能力で、血清の偽物フェイクを用意して欲しい。それと、こいつカール伯爵の首は帝国の日の下へと晒す。それ以外は、君が自由に使って良い」


「かしこまりました。ご主人様、ありがたく報酬を貰い受けます」


 彼は影へと消えていった。


「ご主人様。あれ// して欲しい」


「ご褒美だ」


「嬉しい。この上ない、幸福です。我が主人様//」


 べセルを撫でながら、アジトへと帰り祝杯をあげる事にした。

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 アジト内で、皆で奪った酒や食糧を用いた祝杯を上げた。


「くうーーー! 酒と飯がうめぇ」「それもこれも、全部が暗黒仮面様のおかげですね」「暗黒仮面様、バンザーイ!」


 ここら辺一体は、オフィーリアの偵察警護隊が仕切っているため、多少騒いでもバレない。


 以前よりも勢力は拡大し、今では僕を中心に八戒はちかいと呼ばれる最強の軍団を結成した。少年少女ばかりだが、普通の剣士や魔道士よりも遥かに強い。


 『殲血せんけつ』 オフィーリア


 『雷狼らいろう』 べセル


 『氷華ひょうか』 エレナ


 『隠影おんえ』 ソータ


 『灼熱しゃくねつ』 ジータ


 『幻夜げんとう』 スレッタ


 『裁撃せいげき』 ルビー


 『金搥こんつい』 ガーネット


 出身、年齢、性格、性別、種族それぞれが異なるが、僕が本当に信頼を置いてる子達だ。


 二つ名に関しては、エルシレーナが東の大陸に行った時に発見した、巻物と呼ばれる魔導書から取っている。


 彼女は僕の望み通り、皆を束ねた後に、ダインスレイブの書き写しと共に、旅に出た。彼女は魔剣の力と相対する剣を作成するために、各地を渡り歩きながら、解読するそうだ。


「それじゃ、私は行くわね。今まで大変だったけど、皆んなは私の第二の家族よ」


「エルシレーナ……エルシレーナァァァッ!!」


「エレナ……あなたなら、大丈夫よ。困った時は、この笛を吹いて。私が飛んでいくから——多分」


「多分って何よ!」


「多分よ、多分。じゃあねーー」


 出発の日の朝はそんな感じだったかな。ともあれ、勢力拡大に際してこのような階位を設けるのは必要だと思った。エルシレーナには、今度会った時に、ディナーでも御馳走しようか。


 そんな昔の記憶を辿っていると、誰かがネズミの話を始めた。


「にしても、最近はネズミが増えたよなー。気のせいか?」


「あー? お前の息が臭えんじゃねぇの。ダーハッハッ!」


 確かに最近は、鳥やネズミ、野生の犬や猫を各地で見ることが増えたな。何かの予兆か? ただの気のせいか。


「皆。今日はご苦労だった。来月には、帝国には不穏な影が現れ、反撃の狼煙が上がるだろう。皆のこれからの活躍に期待している」


 最後に乾杯の合図を上げ、僕は一足先に城へと帰ることにした。

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 べセルと共に、城に帰る途中を感じ取った。まさかとは思うが——僕は森の方向へと足を進ませた。


 月が出ている夜では、神秘的な光を投射し、森全体を幻想的に照らしている。木々の影が長く伸び、地面に影の形が描かれていた。


 この森の中心付近にある、湖までやってきた。倒れた大木の上に、誰かが座っている。禍々しい、暗黒の鎧を身に纏ったその姿——間違いない。


「暗黒騎士ゼロ」


 魔力と気配を消し、彼を近くで観察できる木の影に隠れた。正直、この世界の自分自身に会って何がしたいのか、よく分からないが——久しい魔力につい惹かれてしまった。


「一体、こんなところで何をやっているんだ?」


 前世の記憶を思い出せ……こんな帝国近くの森に来る経験はあったか? 暗黒魔王様から頼まれて、偵察か何かにきたのか?


 すると、湖の奥から人が現れた。なんだか、この魔力——既視感がある。どこかで会ったような。


「——そこに隠れてるのは、だぁれ?」


 僕が身を隠している木から、凄まじい魔力を感じた。まずい、位置がバレている。移動しようと思ったが、木が変形して身体が拘束された。


「遠隔操作魔法か。それもかなりの手練れだ」


「暗黒剣『黒き裁きパニッシュ・レイ』」


 とてつもない威力の闇の波動が、僕の身体目掛けて撃ち込まれた。——仕方がない。お前と同じ土俵で戦ってやる。


「暗黒剣『黒き裁きパニッシュ・レイ』」


 一つの槍を極限まで強化し、前方に打ち飛ばす闇の光線。2つの魔法が激突し、凄まじい轟音を奏でながら、木々が蒸発した。


 さすがは、ゼロだ。魔法干渉力と発動速度が申し分ないな。


「僕の暗黒魔法を打ち破っただと? 君は、何者だ」


「さぁ。君のような、約束の一つも守れないような男に教える術はないな」


「なんだと?」


 ゼロが『黒装』を用いて、突進してきた。僕も同じ魔法を使い、自身を強化する。一方で、もう一人の魔道士は観察しているのか、湖付近から手出しをしてこない。


「ふぅん。あの仮面の子。面白いなー。戦いながら、こっちへの警戒も怠らないんだねー」


「——アンタは、警戒した方がいいんじゃない?」


「へぇ。連れがいたのかー。可愛いモフモフちゃん」


 べセルの蒼い雷が、魔道士に直撃する。


「べセルッ! そいつは手練れだ、無茶はするな!」


「僕との戦いの最中に、仲間を気に掛ける余裕があるんだね。暗黒魔王直属護衛兵も舐められたものだな」


「当たり前だ。貴様は僕より、弱いからな」


 木々を点々と飛び交いながら、剣と槍が激しく衝突する。この時の僕は、『千本槍サウザント・ランス』を会得していないはず。


 ならば、数で攻める。


「なんだこれは? 闇の槍が、自動で攻撃してくる。なんて強力な魔法だ」


 暗黒魔法は、属性魔法の中でも強力な力を発揮するが、その分、魔力消費と、発動速度にロスがある。


 そしてゼロは、魔法を使う前に左手で力を溜める癖がある!!


「闇魔法『質量負荷ダウナー』」


 彼の左手に大岩一つ分の質量の負荷をかけた。これで、奴の動きにストップがかかる。


「——これは、僕と同じ技か?!」


「奴の身体を貫け、ランスよ!」


 槍でゼロの身体を無尽蔵に突き刺した。とは言っても、これでくたばるような奴じゃあない。


 何せ、僕だ——耐久力には自信がある。


「すごいな。君のような子供が居るとは——ここへ来てよかった。君は、陛下にとっての脅威となり得る」


「待て。話を聞け、暗黒騎士よ。僕は君の敵ではない。どちらかと言うと味方の方だ」


「味方? ならば、その腰にぶら下がっている血清はなんだい? それは、魔族の、僕の同胞の血だろう——」


 しまった……。カール邸から押収した血清をいくつか持ち帰っていたんだった。誤解は解けそうにないか。


「君は、思っている以上にゲスな少年のようだ。秘めた能力が未知数ならば、命の芽を摘み取らない限り、成長し続ける。それ故に、今ここで君を殺す」


 くそ、あのモーションは……こうする他にないのか……。


「「収束せよ、創世の理念。鍛造たんぞうと時の間を得て臨海りんかいし、此処に至るは数多の星。技量を持って、邪念を断つ。これは、真の星の可能性『黒き星ゼロ・アトミック』!!」」


 魔法詠唱による、魔法干渉力の最大化!!


 互いの質量の押し合いになった。一瞬の内に森全体が蒸発し、大地が跡形も無い塵へと姿を変形させた。

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