第9話 変化


 捜索隊が岩場に向かっている事を掴んだので、オフィーリアと共に先回りして岩場周辺へと向かった。辺りはすっかり日が暮れている。


「どうだ、リア。上手くやれそうか?」


「はい。私は確実に任務を遂行させて見せます。レイ様の目的のために」


 オフィーリアはそう言い残して、近くの駐屯地に滞在している捜索隊へと向かっていった。僕は建物の陰から、彼女の動向を見守ることにした。


「ったあーくそ。見つかんねぇよー。もう死んでるんじゃねーか?」


「おいおい。縁起でもないことを言うな。きちんと探し出さないと、減給だぞ。俺、来月は結婚なんだよ。頼むぜえ」


「口を慎め、お前ら! 女王様の命令だぞ。ご子息を無事に奪還するまでが、任務だ。たるんでいるぞ」


 人数はざっと、30人ほど。これだけ兵を割いても、やはり捜索はうまく行ってないようだな。そろそろ、オフィーリアの出番だ。


「騎士様! 突然、申し訳ありません。先ほどから、王子の誘拐と言う話が、聞こえて参りまして」


「——誰だっ!」


「私は、紅の剣士。名はオフィーリアと申します。以後お見知り置きを」


「それで、女剣士が何用だ?」


「はっ! 実は、王子を誘拐したと言う盗賊一派のアジトを突き止めまして。もし、良ければ私が、騎士様の案内人となる提案なのですが」


「嘘クセェーなぁ。もしかして、盗賊と繋がってるんじゃねぇか?」


 やはり一筋縄では行かないか。兵士たちから疑念の声が上がるものも、無理はない。


「しかし、何も手がかりが掴めていない様子。ここはひとつ、私に賭けてはみませんか?」


 隊長格の男は少し悩んだ後に、決断を下した。


「そうだな。お主に賭けよう。だが、もし何の報酬も無い、もしくは盗賊とグルだった場合には、どうなるか理解わかってるな?」


「もちろん、滅相もございません」


 どうやら、説得は出来たようだ。騎士達が休憩を止め、オフィーリアを先頭に置き、出発した。


「それで、アタシは何をしたらいいんかなぁー」


 べセルあくびと尻尾をフリフリしながら、聞いてきた。


「べセルは盗賊達に、だと伝えてきてくれ」

「ラジャー」


 彼女は高速の雷となり、闇へと消えた。


「やれやれ、僕も出発するか」


 僕は先に、家の屋根裏に忍び込んでおくことにした。


 目的地の岩場は魔物が居なくなったおかげで、盗賊のアジトへと早変わりしていた。元々、ここら辺一帯の資源は豊富で、少しいくと森や川があるから、ならず者が住むには最適だろうな。


「ここです。この空き家に、王子が捕らえられている筈です」

「よし。扉をぶっ壊せ!」


 騎士の一人が、家の扉を壊した。


「うぅ。なんだこの匂いは!! うげぇぇ」


 ヒューイが失禁して数日、老廃物の匂いは強烈だろう。僕は魔法で、自分の全ての嗅覚を閉じている。


「ヒューイ様! いたぞ、王子だ! 王子、ヒューイ王子! ご無事ですか?!」


 ヒューイは魂が抜けたような顔をしている。死んではないが、会話ができるかどうか……。


「ぁ、ぁ、こ、こは。ここは」


「ヒューイ様。おお、このような姿に! すぐに城まで運びます!」


 騎士がヒューイを担いで、外に出た時だった。木々の陰から、待ち構えていたかのように、盗賊が続々と出てきた。


「ケケケッ! そいつを置いていきなぁ。それは、奴隷商人に売って金にするんだよぉ!」


「何を野蛮な! えぇい、かかれ貴様ら!」


 盗賊 vs 騎士の戦いが始まる。数と強さでみても、盗賊の方が数倍は上だ。


「くっ! こいつら、魔道具持ちか!」


「ケケケッ。何のことだかなぁ?」


 修道院に保管されていた魔道具を用いて、彼らはさらに強化されている。このままでは、騎士は全滅だろう。


「ダメです隊長! このまま戦っていては、我が隊は全滅してしまいます」


「どうしろと言うのだ! ヒューイ王子を発見したのだぞ、何としても王国へと帰還せねば!」


 無力だな。帝国の兵士と言っても、この程度か。


「べセル、居るか?」

「居るよー」

「狼の姿になって、リアの援護を頼む」

「ラジャー」


 べセルはワオオオーンっと雄叫びを上げて、美しい毛並みを持つ狼の姿へと変身し、リアの元へと向かった。


「アンタの助けなんて、要らないわよ!」


「うっさいなぁー。ご主人様の命令なの。さっさと、終わらせてよ。それとも何? 弱いから、こんなに時間かかってるの?」


「クゥーーっ! 仕方ないわね! 行くわよ! 美しく咲き誇れ、『ヴァンパイア・ローズ』」


 オフィーリアの血の力を使用した剣技と、べセルの攻撃によって盗賊が瞬殺されていく。二人とも、成長している。


「何で、てめえら! 俺らを裏切ったのか!」


「いいえ。最初から、裏切ってなどいないわ。最初から、じゃないもの。さようなら。盗賊の人」


 ハザンを討ち倒し、捜索隊よりも功績を挙げた。


「見事な剣捌きだ。恐れ入った……」


「これしきは、慣れておりますので」


「其方には、二度も助けられた。この後、我々と共に城まで来てはくれぬか? 女剣士 オフィーリアよ」


「はい。ありがたきお言葉です」


 オフィーリアはその後、城へと共に帰還して勲章を貰い受けた。さらに、帝国の警備軍へと配属されることになった。


 ハザンは盗賊の頭として、王子誘拐、監禁、窃盗、殺人の刑で、見せしめに処刑される事となり、ここら辺一帯の盗賊グループは解体された。


 この日を境に、城下町の貧民街や、領土内の貧しい土地では新しい犯罪組織や、帝国への反乱を企てる人々も出てきた。


 実はこの数日、僕、オフィーリア、べセルの三人はハザンの名前を使って悪徳貴族の館を襲い彼らの横領した金銭を、貧民や農夫へと変換していた。


 ハザンら盗賊一味は、知らぬ間に『義賊』の象徴となっていたんだ。僕は城で一番高い時計塔でべセルの頭を撫でながら、この光景を目に焼き付けていた。

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〜数ヶ月後。帝王学の時間〜


 あの誘拐事件が合ってからというもの、城の内部では特に変わった様子は見受けられないが、ヒューイの人格が変わってしまった。


「ハハハハッ。わーーーいっ! 今日も一日頑張ろー!!」


「ヒューイ兄さん、どうしちゃったんだよ。兄ちゃん!」


 ジェレミーが肩を揺さぶると、ヒューイは一変し激しく落ち込むようになる。


「うわぁぁぁっ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」


 先生もこの変わりっぷりに明けくれていた。ヒューイはいつものように途中で教室から退席し、城内の休憩室へと連れ出される。


 今日も、ジェレミーとエレインは付き添いとして彼を送っていった。


「ふん。ヒューイは今後の継承争いからは、脱落かな。まあ元から眼中には無かったがな」


 次男のデニールが口を開き、メルシーがジョークを交えて笑っていた。アーサーは帝王学の教本を読んでいる。


 テレシーは勉強をするフリをして寝ており、ルーカスは容量が悪いのか、頭を抱えながら、泣き出しそうだ。


 スカーレイは今日も欠席……というか城内でも姿すら見かけない。


「先生。僕も少し体調が悪いので、今日は早退します」

「好きにしなさい。Mr.レイノルド。それでは、分からない箇所があれば——」




 今日ぐらいに、ヒューイから情報を聞き出すか。僕はヒューイの後を追った。

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