第2話 鍛錬


 王の側近である教授、騎士団、魔法学の先生の元、僕に対する修行の日々が始まった。


 この頃の帝国は、大陸内では圧倒的な軍事力を誇ってはいたが、近隣諸国との紛争や、僕の生前の母国である魔族の国々への遠征とで、人員が不足している。


 大陸を纏めるとこんな感じだ。


 北境アレスタシア

 北東グランデリア自治領

 西欧諸国 ユーラ

 東の大国 ダルメキア

 南の大地、通称、魔王国


 そして、大陸中央から4分の1の領土を統治している帝国ルーランド。


 統治制度に違いはあるものの、西欧のユーラも属国となっているため西と中央は帝国が領土を占めている。その他の近隣諸国も既に、ルーランドの属国だ。


 北は魔法障壁と激しい天変地異により近づけず、南側では冷戦状態が続いている。


 そのため、帝国は東のダルメキアに戦争を仕掛けている。ここを手中に収めれば、海を渡り東の大陸への進出も叶う。


 昨日のパーティーに出席したおかげで、現在の情勢が見えて来たのだ。


「いいか。我輩の名は、リチャード・チャップリン・オーダム。一昔前は、剛剣のリチャードと呼ばれていた剣の使い手だ。現在の、騎士団長バーバリーを育てたのも、ワシだ」


 人員不足のために、僕の剣の稽古をしてくれるのは初老の男性だ。彼の長い、長い経歴の説明が始まった。


「はぁ。分かりました。それで、僕には何を教えてくれるんですか? リチャードさん」


「それでだなぁ……これが、こうで、それでワシの孫が誕生して、それはもう可愛くて、可愛くてなぁ」


 だめだ、このおっさんは人の話を全く聞いてない。


「先生、リチャード先生、……じじい」


 殺意を込めて放った僕の言葉に、ようやく耳を傾けた。


「すまん、すまん。つい、昔話が長くなった。今日から、始めるのは木刀を使った訓練である」


 木刀か……となると、実戦などはまだまだ先になりそうかな。


「リチャード先生、木刀を使うのは分かりました。僕が、先生から一本でも取れたら、真剣で稽古をしませんか?」


「一本取る? ハハハハハッ。これは、愉快なジョークよなあ! いいぞ、乗った! レイノルドと言ったか? お前さんは、身の程知らずの王子だ。それでは、決闘の合図から一本、ワシに当ててみせろ」


 リチャード先生から、木刀を貰い受け、僕ら二人は対面するようにそれぞれ指定の位置に付いた。


「ルールは簡単じゃ。ここに白線で描いてある円がある。白線の内側で試合を行う。白線から出たら、試合放棄と見なし、負けじゃ。いいか——それでは、始めるぞ」


 リチャードが木刀を縦に振り下ろし、決闘が始まった。流石に、魔法はこくだと思い、剣の腕だけで勝つことにした。


 強く踏み込み、一瞬でリチャードの間合いに入りこむ。手元を狙って、剣を薙ぎ払った。


「くっ!」


 リチャードは間一髪で、僕の剣を弾いた。さすがは、元騎士団だったということだけはある。初速にはついて来たか。


 僕の身体も子供であり、本来の身体能力に追い付いていないのもあるな。


「これほどとは! なんとっ!」

「それじゃあ、これは?」


 木刀を正面に投げ、足で大きく踏み込む。投げた木刀を空中で掴み、そのままの軌道で回転切りをした。


 これは、生前に最初覚えた暗黒流剣術の一個だ。小刻みにジャンプしながら、相手との距離を詰める特殊ステップ。


 リチャードは何が起きたのか、理解出来ていない。その隙に彼の頬に木刀を当てた。


「取りました。一本」


「……くっ、お見事。次の時間からは、真剣を使いましょう。レイノルド様。後に、真剣を差し上げます」


「ありがとう」


 これで、剣は獲得した。次は、魔法の授業か。

___________________________________




「初めまして〜。可愛いお子さんねぇ」

「どうも」


 次は、上級魔道士のメラニーとかいう女魔道士が授業をしてくれた。人間側の魔法使いの等級は詳しくはないが、恐らく、上位には位置する階位だろう。


「魔法なんだけど……ホントーに色々な系統があるの。元素魔法、精霊魔法、死霊術、無系統、精神干渉系とか……今日、私が教えるのは基礎中の基礎ね」


 既に理解しているが、新しい事が学べるかもしれないと、話は聞くことにした。コクリと頷いて、彼女の話を聞き始める。


「魔法ってね、使用者の魔力量、発動速度、干渉力の三つによって形成されるの。フレイム


 杖を目の前に掲げ、下級の火属性呪文を唱えた。炎がメラメラと燃えていて、数秒経って消えた。


「今のは、下級の炎呪文。私がこれの干渉力を底上げしたら、更に巨大な炎の塊が出来上がるんだけど、その分発動速度が落ちるわ。おまけに、保有している魔力も今のより、使うことになる」


 大体の理論は前世で得ていた知識と同じだが、魔法に対する用語や理解は少し異なっている。


 これは、初歩的なことで、魔法は詠唱や魔法陣、魔道具などによりさらに強化する事が可能だ。


「って感じなのー! レイノルド君。今のを踏まえて、明かりをともせるかな?」


「やってみます。イルミナよ」


 僕の左手の上に、ボワッと明るい球体が浮かび上がり、それをふわふわと浮遊させて、動物の形にしたり、蛇を描いたりして遊んだ。最後は命令式で『弾けろ』と命令した。


「すごい……この年で、そんな高度な魔力操作が出来るなんて。びっくりだわ」


 魔法の先生からも杖とローブを手に入れた。今日の授業はこの辺で終わりらしく、あっという間に1日が終わった。

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