第3話 岩場の戦い


 訓練が終わり、部屋に戻る。


 王子というだけあって、城の一室で寝れるかと聞かれれば違う。ここでは、圧倒的な身分の差があり、僕の部屋は城から少し離れた訓練兵の休憩所跡地だ。

 

 だが僕にとっては、この場所は好都合だった。夜も兄妹から嫌味や侮辱を聞くのは、耐えかねない。


「これで、一式は揃ったから……そろそろ仕掛けるか」


 夕刻、施設を出て——城内の廊下を歩いている時だった。目の前から、第五王子のルーカスが歩いてくる。

 

 第四王子のジェレミーとは同い年だが、誕生日はジェレミーの方が早いため、第五王子に着いている。


「やぁ、レイノルド。授業はどうだった。僕も初日は全然ダメだったから、いつもごまかしてたよ。あははっ、困ったことあったらなんでも聞いてね」


「はい。ありがとうございます。ルーカス兄様」


 ルーカスは僕より、2つ年上の茶髪で天然パーマがかかっている子だ。彼は、唯一僕に良心的である。ただ、他の兄妹と何か揉め事があったときに助けてくれる事はない……。


 恐らくだが、僕が本格的にこの城へと来る前までは、標的にされていたのだろう。


 彼は、いつも兄妹にビクついてる。母親は貴族だが、一番下の階級とかいう噂だ。


「血筋が全てね……。人間社会は住みにくい」


 陛下の国では、様々な種族が手を取り合いながら、暮らしているというのに。なぜ、同族でこれほど差を作りたがるのか……人間社会のシステムはイマイチ理解出来ない。


 僕は城を出て、フードを深く被り、スタスタと城下町の下の方へと歩いていく。


 さすがは、帝国の王都。城壁の外は夜でも明るく、中央付近から、上層まではゴンドラと呼ばれるロープと箱で移動できる交通が整っている。


 酒場やレストランが立ち並び、酒場の窓からは、笑顔を浮かべた人々の声と笑い声が漏れ、中からは美味しい料理の香りが立ち昇ってくる。建物の外壁には、彩り鮮やかな屋根のランタンが取り付けられ、明るさに拍車がかかっている。


 坂を降りながら、どんどん下町の方へと歩みを進める。王都の裏門から、外に出るため瘴気の立ち込んでる貧民街を突っ切り、裏門へと躍り出た。


「さてと、魔物でも狩りに行くか」


 僕ら、魔族と魔物では種類が全く違う。


 彼らには理性が無く、無闇に同族や人間、魔族を襲う。そのため、討伐依頼が出れば前世の僕も討伐へと出向いていた。


「草原のスライムでは物足りないな」


 100匹は狩ってしまっただろうか、魔力が有り余っている。


 魔力感知をしたところ、少し離れた岩場の方角に魔物の気配を感じる。ここから、20kmなら、数分かな。身体能力強化で、脚力を向上させて、岩場に着いた。


 岩場には、ゴーレムやガーゴイルといった理性を失った魔物が存在していた。魔物を狩りに来た理由は、魔力量を増幅、発動速度を促進させる事だ。


 魔法とは幼い頃から、日常的に使用していれば、数年後の魔力量に桁違いの差が出る。自分が使う魔法を何度も繰り返す事で、発動速度を底上げする事も可能だ。


 ただ、条件として使用する魔法の一発、一発を最大限で放つ事。それにより、限界を超える必要がある。帝都で、そんなことをしたら追放されかねない。


 僕は闇属性の元素魔法、無系統魔法、魔法剣を頻発した。


黒装こくそう』:全身に黒い鎧を纏い、血液を黒く染め上げる。身体能力強化の上位魔法。ゴーレムからの攻撃でもダメージを受けない。


千本槍サウザント・ランス』:縦横無尽に闇のランスが相手を攻撃する自律型の魔法。ガーゴイルを遠隔操作の槍で撃ち落とす。


 やはり、ガーゴイルや普通のゴーレムならば、これらで十分だな。手応えがまるでない。


「ギガアアアアアッ!」


 岩場の奥の方から、一際デカイゴーレムが飛び出して来た。体長は30mはあるだろうか。ギガントゴーレムとでも、名付けておくか。


「いい機会だ。お前で、試させてもらう。『黒き星ゼロ・アトミック』」


 広範囲の質量を消失させ、爆発を引き起こす闇の重力魔法。ギガントゴーレムに向けて黒い球を弾き出した。


 凄まじい轟音と爆発によってゴーレムは砕かれ、闇の引力で、粉々になった胴体が、さらに押し潰され、塵となって消滅した。


「こんなところか」


 これらの技は暗黒騎士時代に比べたら、威力こそ劣っているモノの、この身体でも不自由なく使えている。毎日ここに通いながら、様々な剣や魔法を試すとするか。


 数時間もしない内に、魔力切れが近くなり退散した。

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 岩場を後にして、街道を戻っていると、僕を待ち伏せしていたかのように、盗賊が待ち構えていた。


「ケヘッ。ついてるゼェ、ガキがこんな夜中に一人、歩いてやがった。捉えて高く売りつけられそうだ」


 人数は10人程度。人から奪った馬車や金銭が目立つ。


「それ以上近づいたら、死ぬよ?」


「かかれ、お前らぁ!!」

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