第一章 幼少期編

第1話 転生


 目を開くと、目の前には見知らぬ女性の顔があった。僕の体を優しく、包み込むように抱き抱えてくる。


「まぁーなんて綺麗な、黒い瞳なんでしょうか。男の子ですわよ、奥様」


「はぁ、はぁ。生まれて来てくれて、ありがとう。私の赤ちゃん」


 赤ちゃん? 何を言っている。僕は死んだはず。それに、この光景は人間の国か。木造建築の狭い部屋だ。憎き、人間達の住まう家。


 だが、鏡の中の自分と目が合い、自分の身体を見たときに驚愕した。人間の赤ん坊になっている。髪の色は、シルバー、瞳は黒く、もはや人間という他にない。


「オギャーー」


 驚愕し、声が出た。

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 それから、数年後。


 自分が人間に転生し、第二の人生を歩んでいると確信した。最初は慣れなかった、人間の暮らしにも慣れ、生活の中で知恵を学び、文化や教養を身に付けた。


 それと同時に、僕の母親は死んだ。


「もう少し、貴方と一緒に居たかったのだけれど寿命が来たのね。私、ハーフなのよ——レイノルド。貴方には何を言っても分からないでしょうけど……」


 母親はどうやら、魔族と人間のハーフらしい。つまり、生前の僕と同じ定めを背負っている。混血は魔を克服しない限り、生命維持の器官が安定しない。


 母親は魔を克服できずに、病に倒れた。


 最後、母の死を看取る。この事が公になれば、母親は即時殺されてしまっていただろうし、僕も今頃どうなっていたか……。


 生前のレイノルドの運命は知らないが、僕は既に自分の体内にある魔を克服し、病に陥り——死に至る事は無い。


 何はともあれ、僕を産んでくれたことに関しては、感謝しているよ。母上。

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 それから、数ヶ月後。

 

 今日は、ゴッドウィン王家、ルーランド王から即位50年目の記念日だ。


 その席に僕、レイノルド・は出席していた。


「今宵は国中の豪華な食、酒、音楽を用意している。存分に楽しもうぞ。我が同胞よ。ルーランド帝国に繁栄と栄光を!」


「「繁栄と栄光を!!」」


 王の掛け声により、宴が始まった。


 僕がここにいる理由だが、ゴッドウィン王室の六男だからだ。人間側の王室は、一夫多妻制度を取っており、一人の王に、複数の側室がつく。


 僕の母親もその一人で、彼女は身分の低い階級で、王宮の給仕係であった。


 ふとしたタイミングで、王に気に入られて、側室となり、僕を授かった。


 つまり、僕は王の血を半分引いている正当な王子になる。


 六男四女ろくなんよんじょ。ルーランド王の正当な血を受け継ぐ子供たちだ。


 その中で一番身分の低く、幼い僕は忌み嫌われていた。だがそんな事は、重要ではない。


 僕にとって、この運命は神から与えられた贈り物だ。帝国にできるチャンスが、こんなにも近くにあるのだ。


 今は、長方形のテーブルを王子王女で囲んで食事を取っている。


「何、ボサッとしてる。さっさと、食え。レイノルド。これだから、穢れた血筋は……食べ物の食い方も忘れてしまったのか。ハハハハハッ!」


「……すみません、兄上」


「兄上様だ。一体、どの口が、この僕を呼び捨てにしていいと?」


 僕に話しかけてきたのは、第三王子のヒューイ・ゴッドウィン。


 血筋や伝統に重きを置いており、いつも僕の事を奴隷のように扱ってくるおかっぱ頭の少年だ。


「ギャハハハッ。その通りだ!」


 彼の一つ隣で、高らかに笑う彼は第四王子のジェレミー・ゴッドウィン。お調子者で、第三王子によく使えている。


「全く、品のない笑い方ですこと。まぁ、確かに庶民と食事をするのは、あまり気が乗りませんわ。何故、父上は彼の食事を別になさらないのかしら」


 第一王女のメルシーは特徴的なウェーブが印象な、保守派だ。メルシー、ヒューイ、ジェレミーの三人は母親が同じだ。


 その他にも、第三王女のエレイン、第四王女のテレシー、第五王子のルーカスが食事を共にしている。


「みんな、レイノルドに失礼だろ。ほら、彼は普段からこのような食事は取れないのだから、今日ぐらいは許してやってはどうだい? 君もそう思うだろ?」


 そう話して来たのは、第二王子のデニール。


 銀髪に黒縁メガネをしており、実質的に兄妹の中では一番信頼を集めている。


 彼が、話を振った先には、若き頃のあの男が居た。


「……興味ないな。口を慎め、デニール。我々は、王家の血を引く者同士。身分は平等だ。父上のご判断を、侮辱するのか?」


 末席に座る、金髪に透き通った蒼色の瞳——第一王子アーサー・ゴッドウィン。彼は牽制けんせいするように、そう答えた。


 アーサーは僕と一瞬だけ目を合わせ、食事を済ませた。


「チッ。つまらぬ。父上のお気に入りだからと言って——」


 デニールが舌打ちする。


 僕はアーサーに関しては人一倍、殺意が芽生えている。今すぐにでも抹殺してしまいたいが、それではダメだ。


 本当の黒幕を幕から引き下ろし、そいつの首を刈り取るまでは、奴を生かす。


 現在は6歳を迎えており、明日からは王族の者として、帝王学、魔法、剣術と言った鍛錬を詰む日々が待ち構えている。


 帝国歴1787年の冬。僕に残されているタイムリミットは残り12年だ。この限られた時間を使い、王族を、帝国を滅ぼしてみせる。その血が、滅ぶ最後の刻まで。

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