第15話 初めての衝突

 俺がアリスから持ちかけられた取引は俺がアリスをテイムすることだった。その代わりに俺がアリスの意志をメイベルに伝える、ということだった。

 「絆テイム」

 それを受け入れた俺は早速絆テイムを使った。スラリンをテイムしたときと同じようなピンク色の光がアリスの方に飛んでいった。そして俺がアリスと話そうと魔物の主の称号でゴールドドラゴンになろうとしたとき、今日一日で何度も聞いた声が頭に響いてきた。

 『友情が中になったことでステータスの1割が還元されます。また、ステータスが上昇したことにより、新たな魔物がテイム可能となりました。また、ゴールドドラゴンを絆テイムしたことで2倍の800,0000経験値を獲得しました。また、初めて上位種族の竜種をテイムしました。それによりテイムした仲間に人化を付与しました』

 突然のことに俺が驚いていると腰の部分に衝撃があった。慌てて下を向くとこっちを覗き込んでいた真っ黒な瞳と目が合った。

 「えへへ〜、イツキだ〜。こうして話すのは初めてだよね〜」

 間延びしたような声で言ってきたのはアヤよりも背の低い、小学生だと言われても信じてしまいそうなほど小さい女の子だった。

 「す、スラリンだよね?」

 「そうだよ〜」

 俺が聞くと彼女はあっさりと認めた。

 「ボク、イツキに言いたいことがあったんだ」

 「な、何?」

 「…ちょっとしゃがんで」

 俺は彼女に目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。スラリンとはずっと意思疎通してきたけど、もしかしたら不満を抱え込んでいたのかも。…もし、もう別れたいって言われたら、ちゃんと送り出してあげなきゃ。

 「ぼ、ボクも、イツキが、大好きなの!」

 次の瞬間、しゃがんでいた俺の頬にスラリンの唇が押しつけられた。ほんのりと湿っていたそれは、彼女の息遣いまで伝えていた。

 「…スラリン」

 俺が名前を呼んだだけで彼女は見たくないというようにぎゅっと目をつむった。だから俺は彼女の頬に優しく口付けをした。

 「えっ!?」

 スラリンは信じられないものを目にしたように俺の方を見てきた。

 「…これからも俺と一緒にいてほしい」

 俺が彼女を受け入れるのに抵抗は全くなかった。

 俺がそう言うとようやく実感が持てたのか、スラリンが飛びついてきた。しゃがんでいた俺は上手く踏ん張りができなくて、そのまま押し倒されてしまった。そのままスラリンは俺の胸に自分の顔を擦り付けていた。俺はそんな彼女の長く伸びた黒髪を撫でていた。

 そうしていると俺はふと視線を感じた。それはメイベル以外の俺の彼女たちだった。羨ましいと思っているけど、スラリンのためにも割り込めない、そんな心境みたいだった。メイベルはアリスと話しているみたいだった。…ちゃんと全員を平等に扱っていかないといけないよな。

 既に5人もいる俺を好きだと言ってくれる彼女に我慢はしてほしくないからね。…そういえば、デートとかもしていきたいな。


〜メイベル視点〜

 「ちょっと!?」

 私に話しかけてきたのは私と同じ顔をしている女の子でした。違うところは金色の髪が長いこと、それとドラゴンの角と尻尾が生えていることです。

 「アリス、なんだよね?」

 「ええ、そうよ」

 その子はドラゴンのはずのアリスです。イツキさま…イツキ、がアリスに魔法を使ったら、アリスが人間になりました。…今日は色々なことがありすぎです!

 「私はあなたに言いたいことがあるの!」

 「な、何ですか?」

 それを聞くのはとても怖いです。どれだけ罵倒されてしまうのでしょうか?私はアリスのことが好きなのに…。

 「…もう、私たちは離れよう」

 私はその言葉を聞いて絶望しました。覚悟はあったはずなのに、私の一番大切な部分にぽっかりと穴が開いたみたいでした。最後くらいはちゃんと送り出してあげなければいけません。

 うん、分かったよ。元気でね。

 「イヤだ!」

 「な、なんで!」

 それでも、口から出てきたのはそんな言葉でした。…あれ?ちゃんとお別れの言葉を出したはずなのに、どうしてだろう?私がそれに気付いたのは自分の言葉が聞こえてきた後でした。それでも、一度溢れてしまった本音は抑えることができませんでした。

 「私にとってアリスが大切だから!一緒にいたいの!…私に問題があるなら、直すから!……私の、家族を奪わないで!」

 私はつい全てを言ってしまいました。それがただの我儘わがままでもいい。怯えて何も伝えないで失うよりも、可能性が0じゃない限り、諦めたくない!

 「やめてよ!私に優しくしないで!せっかくメイベルが信頼できる人に出会えたんだから、私が重荷になりたくないの!…メイベルはずっと私を優先してくれた。嬉しかった!でも、そのせいでメイベルが傷つくのは苦しかった!」

 「私が傷つくのが辛い?…ふざけないで!それなら、ずっと私と一緒にいてよ!イツキがいるから安心?違うよ!今でも私が一番信頼してるのは、アリスなんだから!」

 普段は他人と接するのが怖かった。だから私は鎧の中にこもった。私は亜人で嫌われてるから、ドラゴンが…アリスがいるから。きっと私はそれを言い訳にしてたのかもしれません。

 「…どう、して?どうしてどうしてどうして!私はもうメイベルと一緒にいれないのに!そんな言葉はもう遅いんだよ!」

 「そ、んな。なんで!」

 私は頭の中が真っ白になってしまいました。もう、無駄なんでしょうか?…私は、それに耐えられるのでしょうか?

 「…だって、私はもうイツキさんにテイムされてるから」

 「…えっ?」

 私はアリスが何を言っているのか分かりませんでした。それの何がいけないのでしょうか?私はイツキの彼女で、アリスはイツキの従魔?問題なさそうですけど…。

 「私たち竜種がテイムを受け入れるのは、同性の場合は永遠の忠誠。だけど、異性の場合は求婚の証」

 それって、つまり……アリスもイツキの彼女になるってこと!?

 「そうなんだ!じゃあ、彼女仲間?…って、これで本当の家族になれるの!?」

 私は嬉しくてテンションが上がっていました。これで名実共にアリスと彼女になれたんです。

 「…私に差し出せるものはそれしかなかったから。今でもイツキさんに死ねって命令されたら逆らえないから」

 それには少しだけムッとしてしまいました。

 「イツキはそんなことしない!」

 「…分からないじゃん!竜の素材は価値が高いんだから」

 私はアリスを抱きしめました。大丈夫、そんな意味を込めて。

 こうして、私とアリスの初めての喧嘩が終わったのでした。きっとこれからは何度もアリスと喧嘩をすることになるんだろうな。それが、きっとなんだろうな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る