間話4 王子さまより素敵な人(メイベル視点)

 私はドラゴンに育てられました。親の顔なんて全く覚えていません。だけど私にとっての現実はそれです。悲しい、なんて思いません。だけど、周りはみんなドラゴンたちです。私が一番の弱者でした。そんな私を守ってくれたのはアリスだけでした。

 このままだとアリスにまで迷惑をかけちゃう。そう思った私が旅に出ようと思うのは必然だったのかもしれません。慣れない一人旅。ドラゴンみたいに空を飛ぶ翼もない私には厳しいものになる、はずでした。それでも、アリスは私に付いてきてくれたのです。

 …もちろん、それじゃあ意味がないことは分かっていました。だけど、私は優しくしてくれたアリスと離れたくはありませんでした。…つい、甘えてしまったのです。

 そうして私たちは色々な場所を見て回りました。その中で、ギルドというものにも登録して冒険者になりました。自分のお金は自分で稼ぐしかなかったからです。登録が終わった私たちは他の人から何度もパーティーに誘われました。…いや、彼らの目的はアリスだけでしょう。自分が竜人であり人ではないと気付いた私は正体を隠していました。私は他と違うということが怖かったのです。なので認識阻害の効果がある鎧をいつも身に纏っていました。

 そこから私たちは色々なパーティーを転々としていました。だけど、なかなか長続きしません。…アリスの分と言って報酬を2倍受け取っているからかもしれません。でも、アリス用のご飯などでどうしても必要になってしまいます。アリスにだけは我慢してほしくありません。


 そんな中、たまたま立ち寄ったロガルゴ帝国の帝都で運命の出会いがありました。

 「おい、お前。俺たちのパーティーに入れてやる。有り難く思えよ」

 「…あの、あなたは?」

 高圧的に話しかけてきたのは見たことないような人でした。その人が運命の人、なんてことは全くありません。…あそこまで露骨にアリスばかりを見るなんて…。

 「知らないのか!?俺たちはドラゴンキラー。そのリーダーのクズモンだ。一週間でもう冒険者ランクEなんだぞ!」

 「…はぁ」

 「〜ッ!なんだその態度は!未来のSSSランクパーティーに入れてやるって言ってるんだ!もっと喜んだらどうだ!」

 …この人からはあまり良い雰囲気はありません。でも、何故かギルドの中に人はほとんどいませんでした。私は仕方なくクズモンさんのパーティーに入ることにしたのです。

 それが大失敗だと分かったのはたった二日後でした。私たちはゴブリン10匹の討伐依頼を受けました。Gランク冒険者用の簡単な依頼のはず、でしたがなんだか様子がおかしいです。ゴブリンがいると言われる草原に来ても魔物が一匹もいません。それに、アリスも何かを感じるのか警戒しています。

 「…あの、リーダー。アリスが警戒しています。慎重に進んだ方がいいと思いますが…」

 私はクズモンさんにそう言いました。それでも、全く気にしてくれません。いくら幼竜だと言っても、アリスはBランクくらいの力があります。そんな彼女が警戒するくらいなんだから、もっと慎重になってほしいです。…けど、私がいくら言っても無駄でしょう。私は説得を早々に諦めました。

 それから、私たちはニ匹のゴブリンと出会いました。…それでも違和感が拭えません。何かがおかしいです。

 それでも、クズモンさんとビーチさんはそのゴブリンに攻撃しました。…先に戦ってる人がいるのに横取りするなんてバカなの!?それに、すぐに返り討ちにあって私の方に吹き飛んできました。本当は触るのはいやだけど、仕方ないかな?私はクズモンを受け止めてあげました。

 「…大丈夫?」

 いくら非常識なメンバーだからとはいえ、今は同じパーティーだからそう声をかけるしかありません。…もう、このパーティーは抜けようかな?

 「撤退するぞ!」

 私から離れた彼はすぐにそう言いました。そしてそのまま背を向けて走り出す、かと思ったら、歪な微笑みを浮かべていました。そして私の膝に鋭い痛みが走りました。そこで自分が彼に斬られたんだと気付きました。

 「な、んで」

 私には意味が分かりませんでした。私は少なくともパーティーメンバーだとは思ってたのに…。彼らが遠ざかるのを見つめることしかできませんでした。

 その後なんとか二匹のゴブリンを撃退した私たちは百匹近いゴブリンに私は絶望してしまいました。そこで私を、私たちを助けてくれたのはまるで王子さまのような人でした。

 気を失ってしまっていた私を待っててくれたのはアリスと彼でした。

 「…ごめんね。君が期待していたようなカッコいい王子さまじゃなくて」

 「そんなことありません!…あなたは私とアリスの恩人です!すごくか、カッコよかった、です」

 私が思わず王子さまと口走ってしまったのに彼は微笑みながらそう言ってくれました。そのとき私は変な気分になってしまいました。あれだけ他人に知られるのを恐れていたはずなのに、彼に私のことをもっと知ってほしい、彼のことを知りたい、と思った私はずっと着ていた鎧を頭だけとはいえ外しました。

 「改めまして、私はメイベルです。さっきは私とアリス…ドラゴンを助けてくれてありがとうございました」

 …私は一体いつから相手の目を見て話せていなかったのでしょうか?目線が交わるだけでこんなに胸がドキドキします。

 「…俺はイツキです。王子さまは恥ずかしいのでやめてください」

 「はい、イツキさま。あなたさまの御心のままに」

 私は彼…イツキさまに跪きました。彼はきっと神様なんです。王子さま、なんかよりもよっぽどカッコいいんです。

 その後すぐにイツキさまの彼女たちがやって来ました。やっぱり彼ほど魅力的な人はたくさんの恋人がいるんですね。私は亜人、なんですよね…。そのとき、私の胸にズキンと鈍い痛みが走りました。それはナイフなんかよりもよっぽど酷く、でも原因も治し方も分かりませんでした。

 「!あ、亜人?イツキさまの彼女は亜人なんですか?」

 顔を上げた私が見た彼女たちの一人はウサギの獣人でした。それで私は嬉しくなってそう言ってしまいました。もちろん、私は彼女に対して悪感情を抱いてはいません。でも、私の言葉が悪くてイツキさまを不快にさせてしまいました。

 「…そうだよ。アヤは俺の大切な彼女だ」

 「も、申し訳ございません。イツキさまは亜人でも普通に接してくれるのですね」

 私は慌てて謝罪して自分の秘密を打ち明けることにしました。私は鎧の腕の部分を外しました。そこには私にとっては憎悪しかない鱗がびっしりと並んでいます。…もう、言い逃れはできません。

 「…私はドラゴニュートなんです。この鎧には認識阻害の効果がかかっています」

 正体を明かした私を心配してくれたのはアリスでした。私はそっとアリスを撫でました。

 「…ただ、効果が阻害のみなので、私の正体を知っている人には通用しません。……私のことを話すならどうぞ」

 きっとそのときの震えはアリスには伝わってしまったと思います。イツキさまなら知られても大丈夫だと思います。でも、やっぱり拒絶は怖いです。

 それから鎧を外すように言われました。…やっぱり彼も私なんて嫌いなのかな?私は脱いだ鎧をイツキさまに渡しました。…こんなことなら、もっと可愛い服を着ておけばよかったです。鎧の中は暑いので、つい薄着にしてしまいました。

 「…どうして鎧を脱いでもらったんですか?」

 「…その方が安全だろうからね。街にいるときのメイベルさんなら守ることもできるけど、外に出ると無理だから。あの鎧には能力を制限する機能があるんだよ」

 …えっ?嫌われてないの?私の、ために?私はつい泣きそうなほど嬉しかったです。人に嫌われてもしょうがないと思っていたのに、イツキさまは本当の私を知っても忌み嫌わないでくれました。

 「守りたいなら、もっといい方法があるよ!イツキの彼女になるの!」

 「…か、彼女!?私がイツキさまの!?……はう」

 獣人の女の子の言葉に私の脳が耐えられませんでした。嬉しすぎて気を失ってしまいました。

 「…イツキさま。私の全てをもらってくれますか?」

 目が覚めた私は緊張しながらもそう言い切ることができました。私には失うものなんて何もありません。

 「…こんな俺でよかったら、喜んで」

 「イツキさま、ありがとうございます!私は幸せです!」

 すると、私なんかをイツキさまは受け入れてくれました。今なら空だって飛べるような気がします!

 「…なら、さ。イツキって呼んでくれないかな?メイベル」

 「!はい、い、イツキ」

 そうして私もイツキさ…イツキの彼女になれたのでした。

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