第39話 初夜2


 サリダの長い腕がのびてきて、デシルは頬をなでられた。


 朝の日課のキスをする時と、サリダのしぐさが似ていて、『キスをしたいのかな?』 …と、緊張しながらデシルは顔をあげて、唇にキスが落ちるのを待つ。


 予想通り、サリダの唇がデシルの唇に重なり… いつもよりも長くとどまってから離れると、ギュッ… と抱きしめられる。


 サリダの広い胸にペタリと顔をくっ付け、ハァ―――ッ… とデシルはため息をつく。


 近くにサリダがいる時は、間違いがあってはいけないと、抑制剤を必ず飲んでいるデシルだが、今は初夜のために飲むのを止めていて、そろそろ薬の効き目が切れる頃だった。      


 少し前からサリダのフェロモンを、強く感じ… 緊張が少しずつけ、代わりにサリダの腕の中で、うっとりとするような高揚感こうようかんにデシルは包まれてゆく。



「本当にすまない、デシル… 私が怖がらせていることは、わかっている! だが… 誰かに乱暴されて、デシルがられるのではないかと思うと、心配で… 心配で… 私は夜も眠れなくなってしまうんだ!」


「うん… わかっているよ、サリダ様! よくよく思い返してみると、サリダ様はかなり無理をして、僕の始めたばかりの社交活動に、付き合ってくれていたよね? 本当は騎士団の仕事が、とても忙しいのに…」

 王立騎士団にとって、王都に国中の貴族が集まる社交シーズンが、犯罪やめ事がいっきに増えて、一番忙しい時期となる。


「大したことでは無いよ… それだけデシルの側にいられて、私は嬉しかったし」


「でも、僕が危ない目に合わないよう、ずっと目を光らせてくれていたんでしょう? 僕にも話してくれれば、良かったのに?」

 サリダ様が来れない時は、お母様かお父様が、必ず招待を受けたパーティーに付き添ってくれるけど… それでも、僕が知らない間に、何度か冷やりとすることがあったと聞いた。


 フリオたちのせいで、僕はすごく目立ってしまい、今年のオメガの中でも、一番狙われているとか… お金はあるけど、平民出身の父が入り婿むこで男爵位を継いでいるから、貴族社会ではすごく身分が低い扱いをされてしまう。

 だから、少々乱暴な扱いをしても、“つがい”にしてしまえば、相手の思いどおりになると… 軽く見られているんだ。 


 その事実を僕だけが、教えられずにいたなんてね… 



「学園を卒業して、本格的な社交活動を始めたばかりのデシルに、もっと社交を楽しんで欲しかったからだよ… 結婚前のこの時期が、オメガには一番楽しい時だと、君のご両親も知っているからな…」


「ありがとう、サリダ様… 僕を守ってくれて」

 騎士のサリダ様のように、僕を完璧に守ることはできないと… さっき初夜の支度したくをする時、初めてお母様に聞いたんだ。

 だから、サリダ様の“番”になることが、今は一番の防衛ぼうえい手段なんだと。


「こちらこそ、光栄だよ… デシルを守れて!」


「“番” にしてください、サリダ様… あなたのオメガにして下さい」

 



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