第40話 初夜3


 馬車の中で初めてキスをした時のように、サリダは軽々とデシルを抱き上げベッドの真ん中にそっとおろした。



「今までで… 一番、デシルのフェロモンが… 甘く感じる…」

 高い鼻をデシルの首筋にスリスリとこすりつけ… 部屋には2人しかいないのに、サリダは内緒話をするみたいに、ヒソヒソとささやく。


「サリダ様…っ…!」

 ドキドキッ! ドキドキッ! デシルの心臓は胸から飛び出しそうなほど、激しく暴れた。


 いつの間にか、身体をカチカチに強張こわばらせるような緊張はするりと消え去り… サリダと一緒に、これから体験することへの期待で、デシルはワクワクしていた。



「初めての夜だから、デシルが嫌がることはしないよ… 次の夜は保証できないけどね?」


「嫌なこと?」


「恥ずかしがり屋のデシルは、きっと恥かしいと思うことだよ?」


「/////////」

 すでに、すごく… すごく… 恥かしいと思っているけど?


 大切に育てられた、デシルはその手のことに関しては、とても無知だった。



「でも、慣れればとても楽しいことだから… デシルにも気に入ってほしいけどね」


「ふう~ん? 頑張ります…」

 サリダ様が言っていることが、何のことだか…? ぜんぜん、想像出来ないなぁ?


 まったく意味が理解できないが、デシルは一応サリダに同意する。




 小さな小部屋のような天蓋てんがい付きのベッドのせいで、蝋燭ろうそくのあかりもうまく届かず… ベッドに寝転がったデシルには、部屋の中が一段と暗く感じた。

 

 おおいかぶさるように、デシルの両脇に手をついたサリダの表情も、デシルからはあまりわからず、片方の瞳だけが蝋燭に照らされ、炎と同じ色となり、ギラギラと光っている。


 昼間見るサリダのさわやかな雰囲気とは、ガラリと変わり獰猛どうもうな雄の獣のように見えたが… デシルにはその姿も、美しく見え…


「わあぁ…… すごく綺麗… サリダ様は、いつ見ても凛々りりしくて綺麗だねぇ…」

 数ヶ月前まで、フリオが世界一素敵! …とか、思っていたのがウソみたい! 僕って本当は、すごく尻軽なのかなぁ? 今はサリダ様以上に、美しいアルファはいない気がするもの! うわぁ~ どれだけ見ても、足りないよぉ!


 うっとりとした、ため息とともに… デシルの口から感嘆かんたんの声がこぼれ、へにゃっ… と微笑み、真上にあるサリダの頬に触れた。



「…デシル!」


 サリダから大量にきだしたアルファのフェロモンに包まれ… デシルは胸を大きくふくらませて、サリダのフェロモンをいっぱい吸い込み、堪能たんのうした。




 2人の初夜が始まった。



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