第一章 18 「クエスト発生」
アカリは再びの襲撃があるかもしれないと念のため周囲を警戒しながら、リアと今後の事を話していた。
「にしても…襲われていたのが帝国に公爵様とはね」
「本当よ…私、首を刎ねられるかと思ったわ…」
ルドルフの物言いでは感謝されているのは間違いないだろう。恐らく報酬も貰えるはずだ。だが長く接していると必ず武器の事や、出生を問われるのは確実だった。
「本当は謝礼貰ってさっさととんずらしたいけどな…」
「そうはいかないでしょうね。…あの公爵様、アカリに興味津々みたいだったし」
「ん?…そう?」
「…気付いてないの?アレは完全に色目使ってたわよ」
とんでも見解を披露するリア。
確かにルドルフはイケメンだ。ついでに帝国公爵という最高品質の優良物件であろう。だいぶ脳筋臭がするが。
- だがしかし、俺は男に興味がない‼︎
それはそうである。何せ元は男だったアカリである。リアは恋愛感情で見れても、ルドルフは不可能だった。
「多分、街までの護衛は間違いなく依頼されるっしょ。それは断る理由はない。問題は…」
「滞在先に御礼と称して呼ばれるでしょうね」
「デスヨネー」
「でも断るのもマズイわよ?何せ帝国公爵って、この国の国王様より偉いのよね…」
「…とんでもねーのを助けちまったぜ」
そんな頭を抱えたい気持ちのアカリの元に、その原因たるルドルフが歩いて来る。
「アカリよ」
「なんでしょ、公爵様」
「ルドルフで良いぞアカリよ」
アカリの気を知ってか知らずか、愉しげにそんな事を言ってくるルドルフ。
「アー…なんでしょーかルドルフサマ?」
面白い女だと笑うルドルフ。
「お前達はダンドルンに向かっているのであったな?そのついでとしてで構わぬ。街まで我等の護衛を頼みたい。」
アカリは予想通りの展開を苦笑しつつも承諾する。
「そうなるとは思ってたし、付き合うよ」
「すまんな。恥ずかしい話だが、負傷兵を抱えた我々は最早戦力としては皆無に等しい。お前の持つマスケットだけが頼りだ」
ルドルフは自嘲するように言う。
「街までは半日の距離だが不安しか無い。襲撃はもう無いだろうが、これでは魔物ですら対処しきれんだろう」
プライドを優先せず戦力の正しい分析に基づいて依頼をする姿勢を、アカリは評価する。
「お任せを。正しい戦力評価出来る指揮官の言う事は聞く主義なんで」
「それと報酬だが、お前が望む物をなるべく用意する。ただ今は先を急ぎたい。無事にダンドルンに着いたら話し合うで良いか?」
「構わないよ」
「恩に切る。では頼んだぞ、アカリ」
ルドルフが去った後、二人のやり取りを何とも言えない表情で見ていたリアが呆れた様に言ってきた。
「本当、怖い物知らずというか…よく公爵様相手にあんな態度でいられるわね…」
「向こうがそれをお望みなんだし、応にしてあーゆー脳筋タイプは裏表みたいなの嫌うのさ」
「脳筋って…まあ確かに的確な表現、っていやいやいや…」
「とにかく報酬は望む物って言ってくれてるし、前向きに考えよう、ね?」
能天気なアカリに対してリアは頭を抱え込む。
「ううう…何か貴方と居ると命が幾つあっても足りない気がしてきたわ」
「ほら、行くよリア」
「ぎええええい‼︎」
奇声を上げて襲い掛かってくるゴブリン。その頭部を五・五六ミリのライフル弾が貫く。
アカリのカバーする範囲にいる敵は七匹だ。その一匹一匹を確実に照準を定めて仕留めていく。
ふと、装着している電子イヤーマフが左方で草木を掻き分ける音を拾った。
「ワッズさん‼︎左から来るよ‼︎」
「承知した‼︎」
声掛けと同時に草むらから飛び掛かるゴブリン。しかしそれもワッズのロングソードによって切り捨てられる。
「ナイス」
最後のゴブリンをアカリが射殺する。
「終わり…かな?」
「うむ。相変わらず見事な手前だな、アカリ殿」
ワッズの労いにアカリはサムズアップで応える。
最初の棘は何処へやら。何度かの魔物の襲撃を撃退している内にワッズはアカリを認めたのか、彼女を信頼するようになっていた。
「それにしても、多いなぁ。これで3回目か」
「ああ、負傷者に遺体を抱えているからな。魔物は総じて血の匂いに敏感だ」
「成る程ね」
一行がダンドルンに向かって進み出してニ時間。彼等は数キロおきに魔物の襲撃に晒されていた。
「だが、あと少しで渓谷の谷底を抜ける。そうすれば魔物も減るさ」
敵の対処を終えた二人は隊列に戻ると、騎乗からルドルフが話し掛けてきた。
「二人とも御苦労。アカリに掛かれば魔物なぞ恐るるに足らんな」
「そうでもないよ。数が多いと抜けられ易くなるし、ワッズさんのサポートが助かるよ」
「謙遜するな。俺達がこうして無事なのもお前のお陰だ。なあ?ワッズ」
「いやはや、その通りですよ」
そう言ってアカリの肩を叩くワッズ。
何だか嬉しい反面、恥ずかしさが優ったアカリは「どーいたしまして」とだけ言うと、リアが待つ自分の馬へと戻る。
ちなみに馬は、戦死した騎士の馬を借りていた。GCFで騎馬を使った事もあったため、あっさり乗る事が出来ていた。
彼女が戻ったあと、ワッズは感心した様にルドルフと語らう。
「いやしかし彼女の身体能力もさる事ながら、あの得体の知れぬマスケットの威力は凄まじいですな」
「ああ、射程、威力共に最早別の武器だな」
「あの武器を我々が手に入れられれば、帝国の国力は増大しますぞ?」
それは帝国軍人として当然の思い付きだったが、ルドルフはそれを良しとしなかった。
「…欲を見せるのは止めよワッズ。俺の予想が正しければ、アレはアカリの出自に関わる物だ。あの娘と敵対するつもりは俺には無い」
「…失礼しました」
公爵位であるルドルフの判断に一介の騎士であるワッズは異を唱える事はしなかった。
「なあに、彼奴は面白い。このままお終いとはせぬよ」
そう言って笑う主人の目は、何処か童心に帰った様に輝いていた。
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アカリさん、貞操の危機勃発!
いつも読んで頂きありがとうございます。
評価も増え、ランキングもジワジワと上がり感謝に堪えません。
今後も本作へお力添え、よろしくお願いします!
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