プロローグ3「日常の終末」

ホームハウスの一室。

アカリは愛用のレザーチェアに深く腰掛け、紫煙を漂わせる。その格好は相変わらずのJKスタイルだ。そしてその前に鎮座する大きな円卓には、これまた制服を着た少女達が並んでいた。


アカリは円卓のJK達を一望すると、静かに語らいだす。

「よーし、今週も定例会議を始めようか」

「うーっす」

テーブルに肘をついたショートボブの平成ギャル風JKが、アカリの言葉に投げやりな返事をする。

彼女のアカウント名はリオン・マスカット。態度から分かる様に彼女もまた男である。


「ほーい」

これまた適当な返事を返す有名女学院制服姿のハーフアップツインJKが優香・大納言だ。苗字が大納言で名が優香。センスが壊滅的なキャラ名である。


「あんた達ねぇ…」

そんな二人を叱る小柄でツインテールのロリJKがプリン・アラモード。

「毎度毎度、少しは真面目に始めなさいよ。ゲームは遊びじゃないんだよ⁉︎」

「すんません姐御!」

「…はぃ」

ブラック攻略パーティーみたいな台詞を吐く彼女はリアルJKらしく、リオンと優香からは信仰対象の如き扱いを受けていた。


ちなみにリサリサもリアルは女性である。先月、三十歳の誕生日を迎えたらしく、「ヤバい…行き遅れる」と一日中グロッキーだったのは記憶に新しい。

何でも大学時代の初彼氏以来、付き合った事のある数人全てが見事に駄目男揃い。恋愛に関しては本気で不幸体質だといつぞやのオフ会で嘆いていた。


そんな五人のチームメンバー全員に共通するのが、女子高生の制服フェチという点である。

アカリがチーム結成時にメンバー募集で掲載した要件は「集え女子高生大好きな変態!武装JK制服アバター限定チーム」という狂気の記事であった。

そんな募集に応募してきた変態男女五人こそが、チーム「レイス」のメンバーである。


「さて、先日の反システム派拠点への同時襲撃作戦は大成功を納め、我らレイスはシステムから表彰を受けました!キャハッ⭐︎ハイ拍手ぅ〜」

「お〜」

嫌々まばらな拍手を返すメンバーに顔をしかめるアカリ。

「お前ら、ノリ悪りぃな…」

「いやだって、鬼畜外道アカリのぶりっ子とか見たくねーし」

「怖わいわ」

「アカリちゃんってぶりっ子する時って大体悪い事考えてる時だし」

「そうそう、ブラックアカリ」

「っく…」

流石は付き合いの長いチームメンバーで、アカリの癖は熟知している。

「まあいいや…そんな訳でシステム側から新たな依頼。しかも報奨金上乗せの!」

「それは普通に嬉しいわ」

「ね。最近電気代上がって大変だから助かるぅ」

リオンの感想に満面の笑みを浮かべたリサリサが同意する。

「リサ姐って一人暮らしだっけ」

「そうよ?」

「いいなぁ。私も大学行ったら一人暮らししたい。うちの親面倒臭いから」

「一人暮らしも大変よ?プリンもきっと親同居の有り難みが分かるわ…」

「リサ姐に言われると重いわ…」

楽しそうに話すリアル女子二人に、アカリはコホンと咳払いをする。

「…続けていい?」

「あ、ごめん」

「いいよ〜」

二人の了承を得るとアカリはミーティング資料をフォログラフに表示する。

「標的は反システム派『自由インターネット解放同盟』の日本サーバー拠点。いくつかのユニットが投入される一大作戦だってさ。各ユニットは定刻に合わせて個別に突入。本命のシステム側AIドローン部隊の突入を待つ」

「撹乱任務って事か…システム側の部隊が表に出張るって初じゃね?」

「そ。システム側も行き過ぎた放任主義の弊害をようやく是正する気になったってとこかな」

「作戦開始はGCF時間で四時間後。一時間後に迎えが来るからヘリポートに集合って事で。各々準備宜しく」

そう言ってアカリは手をパンパンと叩く。

「ランクアップ後初任務、皆んな気張って行こう!」




「それにしても、八ユニットだっけ?参加は」

「ああ、大規模作戦は久々だけど、中々爽快だなぁ」

作戦に向かうティルトローター機の中、アカリはリサリサと他愛の無い会話をする。

窓から外を見れば、そこには他の部隊を乗せた機体が何機も編隊を組んでいた。

仮想現実空間なので当然ワープという手段もあるが、制裁ユニットに参加するメンバーはミリオタが多い。やはりリアルな移動手段を好んで選択する傾向があるのだ。


「そうだ、アカリ。前に言ってた映画見た?」

「ん?…ああ、ジョン・クイック2ね。まだだよ」

「私もまだだし、今度二人で見に行かない?」

「え、リアルで?」

「うん」

唐突な誘いに戸惑うアカリを、リサリサはマジマジと見つめる。


ー え、これマジ?


確かにリサリサとはオフ会で会った事はあるが、まさか二人でと誘われるとは思っていなかった。

「あー‼︎リサ姐がアカリをリアルデートに誘ってるー⁉︎」

狭い機内。当然二人の会話が耳に入らない訳なく、プリンが大声を上げて食いついてくる。そしてプリン以上にリアル男の二人は血の涙を流しながらアカリに突っかかる。

「なにいい⁉︎」

「アカリ抜け駆け禁止だゴルァ‼︎」

「うっせっ⁉︎ただの映画の誘いだろ⁉︎」

アカリは顔を真っ赤にして叫んだ。

「それをデートと言うんだろうがああ‼︎」

そんな騒ぐメンバーを見てリサリサは「面白いなあ」と独り言ち、窓の外に視線を移した。

「あれ…?」


「どうしたのリサ姐?」

窓の外を見ているリサの声にプリンが近寄って来る。

「なんか空の上に…」

「ん?…何あれ」

リサリサが指差す方向、仮想現実が作り出す美しい夜空にいつの間にか一筋の巨大な光柱が立っていたのだ。

「え…何あの光…」


刹那、けたたましいアラーム音と共にシステムコールが鳴り響く。


『警告。現在、GCFサーバーに対して大規模なハッキング攻撃が認められました。全てのユーザーは直ちにログアウトを行なってください。警告。現在…』


「おいおいハッキング攻撃ってヤバくね⁉︎」

繰り返されるアラートの自動音声に皆、慌てふためく。

「ど、どうしよう⁉︎ねえアカリどーすんの⁉︎」

「プリン落ち着けって‼︎とりあえず作戦どころじゃないな。皆んな急いでログアウトしよう」

アカリは急ぎログアウトをしようとシステムウィンドウを開こうとする。だが、何故かシステムコールを読んでも応答どころか、ウィンドウすら表示されなかった。


「え、何で何も出てこないんだよ…」


異変はアカリだけでは無かった。その場に居たチーム全員がログアウト出来ない様子でいる。

「何がどうなって…」

突然の事態にアカリは呆然と仲間達を見る。

パニックになり泣き出すプリン。

必死にシステムコールを叫ぶ優香とリオン。

そして…

「…ア、アカリ…どうなっちゃったのこれ…?」

アカリの腕を掴み、不安気に見上げてくるリサリサ。

「…な…何なんだよ…これは…」

恐怖に震えたアカリが最後に見たのは、全てを飲み込む真っ白な光の氾濫だった。



ID:034034

USER NAME:Akari Cardinal


Lost…






〜〜〜〜〜〜〜〜〜


これにてプロローグは終了です!

いよいよ次回からは本編が始まりますのでお楽しみに!








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