プロローグ2「夢のフルダイブ仮想現実世界」

西暦二千四十年、世界を圧巻した米国の巨大IT企業、グ社によって開発されたフルダイブバーチャルリアリティシステム…FDVRであるG-World Connct=GWCと、仮想現実世界プラットフォームG-Creative Future=GCF。


当然のことだが、GWCの誕生はゲームという概念そのものに革命を起こし、そのあり方を変える事になった。我が身の様にアバターを操り、仮想現実世界で冒険をする誰もが夢見たFDVR。これだけでも十分革新的だったのだが、グ社の野望と挑戦はそれだけに止まらなかったのである。


FDVRの問題点は膨大な通信量とサーバー容量、そしてハードウェアの処理能力である。それは二十一世紀初頭のネットワーク回線からは段違いな通信速度を実現したとはいえ、サーバーとハードウェアの問題はFDVRの一般普及の枷となっていた。

グ社はこの問題を解決すべく、その莫大な資金力で主要先進国に仮想現実世界専用のメガデータセンターと、必要処理演算の大部分を併設された量子コンピュータで処理する中央集中方式の演算システムを建設。一般ユーザーは末端処理のみに特化した専用ハードウェアと脳波送受信端末ヘッドギアで構成されたGWCのみで仮想現実世界にダイブできるという、文字通り資金力に物を言わせた巨大仮想現実インフラを構築したのだった。


GWCは販売開始時は日本円で三十万程であり、その後の量産効果で現在は二十万円前後にまで価格が下がっていた。これは一般ユーザーにとって十分に手の届く価格であり、GWC販売以降はFDVRが一気に広がりを見せる事になる。


そしてグ社の開発したこれらの仮想現実インフラの中核を為すのがGCFだ。

これはインフラ内に構築されたもう一つの惑星ともいうべき広さを誇る仮想現実空間と、その世界の絶対的法則であるワールドソースコードの事である。ゲーム会社がGCF内でゲームコンテンツを製作する場合、このワールドソースコードを元にゲームデザインをし、GCFの与えられた土地にコンテンツを制作するのだ。それはさながら開拓のように、ゲームコンテンツをGCFフィールド上に制作していくようなものである。

つまり、基本ソースが同じで、仮想世界上で地続きである各コンテンツは、プレーヤーが一つのアバターを用いて、それぞれのワールドデザインを相互利用できるのである。

そしてグ社はこのワールドソースコードをオープンソースとし、自由な開発と参入を認めたのだ。これによりGCFはFDVR分野だけでなく、ゲームコンテンツで圧倒的シェアを制する。

GCFという、さながらもう一つの地球に作られていく新たな世界。世界のゲーマー達はGCFに熱狂し、そして無限の可能性を秘めたアミューズメントの未来に心躍らせたのだった。



そんなGCF内にいくつもある“大陸”という名のサーバーのうち、最初に作られた大陸がここブリタニアだ。GWC開発に尽力した英国人、ジョン・マッキンガー博士に敬意を示してブリタニアの名を冠したという。そして現実世界の英国首都ロンドンの古名が付けられたGCF最大の都市、それがここ、霧の都ロンディニウムである。


GCF内のプレイヤーは基本的にホームタウン設定として、自らの定住地を定めるシステムとなる。これには例外は無く、例えばプレイヤーが様々な地域を旅をするプレイスタイルだとしても、登録上は何処かの都市に属している事になる。GCF最古の都でもあるロンディニウムは、その登録数でも実住数でも最大人数を有しているのだ。


そのロンディニウム市街の南、高架鉄道のサウスポイント駅から数分歩いた二十二番街の一角。様々なサイズのNPC商店やプレイヤーハウスが立ち並ぶ中で一際大きな土地を有し、都市内とは思えない緑に覆われたビクトリアン様式の屋敷がある。ガーゴイル像が護る重厚な玄関にある表札には【 Unit99 “Wraith”Home】と書かれていた。



アカリ・カーディナル。


GCFの重犯罪アカウントを取り締まるライセンスを持ったアバターで、その格好と戦闘能力からGCFユーザーにキリングJKとして恐れられる人物だ。

だがアカリの中の人は、何を隠そう男である。

しかも彼は女子好き、というか女子高生大好きなスケベでオタクなアラサーという残念な人物であった。

そんな彼である。仮想世界を美少女アバターで始めるのは当然といえよう。


「お、このショップの新衣装、可愛いじゃん」

最近、ロンディニウムで人気のデザイナーショップが新たに販売した衣装リストを見ていたアカリ。

”彼女”は気に入った衣装を見つけては試着アイコンを押す。すると服が一瞬で変わり、その度に姿見でポーズを取ってみたりと、やっている事は完全に女子である。しかもあざとい系だ。


ふと、部屋のドアがノックされる。アカリは衣装を普段の制服に戻すとノックに応えた。

「どーぞ」

ドアを開けて入ってきたのはアカリよりも少し高身長な美少女アバターだ。整った顔立ちにポニーテール、着ているセーラー服制服を崩さずに着こなす姿は凛々しさすら感じさせる。

「アカリ、時間だけど?」

「リサリサか。もう行く」

アカリはクロゼットから装備一式を取り出し身につける。

「それにしてもさ、三時間前にも任務依頼あったばっかだけど…システムも人使い荒くね?」

アカリは口を尖らせて愚痴を溢す。

「まぁね。私ら、人気者だからしょーがないんじゃない?SS級の制裁ユニットとか数少ないんだし」

リサリサはわざとらしく手を挙げて戯けて見せる。

「というより、反システム団体のさばり様が異常なんだよ。いくら自由で完全なる仮想空間がコンセプトだからってワールド内での違法、規約違反取締から制裁まで全部ユーザーに丸投げってのも考えもんだよ」

「そーねー。まるで西部劇の時代みたいな治安状態だしね」


GCFの運営コンセプトは、『GCFはもう一つの地球である』をスローガンとした自由放任主義が最大の特徴だ。

基本、運営はGCF内のユーザー活動に干渉しないという建前になっている。そのため犯罪まがいなユーザーも散見されるが、これもユーザー達が組織した自警団に全て任せられていた。ただ、それではワールド内の治安を公平に保つことが出来ないのは明白である。

そこで、GCFには管理システムが存在し、そのシステムAIが犯罪や違法行為の告発を裁判し、有罪無罪を決議する。そして有罪となったアカウントを排除する指令をユーザーが組織した制裁ユニットに下す仕組みが導入されていたのだった。


アカリ達、【 Unit99 “Wraith”】はそんな制裁ユニットの一チームであった。



〜〜〜〜〜〜〜〜


The説明回!

プロローグは連続投稿したいと思います。


基本、本編に入ると舞台が変わるのでGCF世界は前座でしか無いのですが、こんなフルダイブ世界だったんだな程度に記憶しておいて頂ければと思います。

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