エピローグ

 あの爆発事件から約三週間後、凡芭明彦だと思われる遺体が地下の下水管から見つかった。王都警察は王宮殿への侵入者とユーディースさん殺害の容疑者は遺体の男であると断定し、捜査は終了した。凡芭の死の真相については明らかになっていない。


 本当に彼が爆弾魔だったのか。そもそも、あの転生者は凡芭明彦なのか。謎は深まるばかりだ。


 でも、私は今を見つめ、前を向いて生きることにした。そうユーディースさんが教えてくれたから。


 あ、星乃湯とヘーラクレレスの子ヘーラクレレダイについて、ちょっとだけ。


 爆弾犯死亡が報じられてから、銭湯の客足は順調に伸びてきている。というよりも、経営が安定してきた最大の理由は固定客の存在だ。


 グテーシッポ王子のおかげで、傷痍兵の皆さんが入れ替わりで毎日のように入浴に来てくれるのだ。そのグテーシッポ王子は今、王宮殿で兵士への補償金を所管する基金の運営に取り組んでいる。身形みなりもきちんとした軍服で髪も整えていて、ちょっとかっこいい。


 ただ、傷痍兵の皆さんは男性が多いので、どうしても女湯の稼働率が低かった。でも、グレーテマス王子が連れてくる「夜の街の女」の人たちで今は満員状態だ。グレーテマス王子はいつも「俺に経営を任せれば、間の壁を取っ払って混浴って奴にするのによ。そっちの方が絶対に儲かるはずだぜ。ケケケケ」と言っているが、柄の悪い人だから距離を空けておこうと思う。


 オネイテマス王子は暫く落ち込んでいたけど、毎日のように部屋にお茶をしに遊びに行って沢山お喋りしたら、もうすっかり元気になった。今は男湯と女湯を相互に行き来できる安全な番台さんとして、現場で席に座ってもらっている。まあ、男湯の方に掃除しに行くことが多いみたいだけど。

 ちなみに、番台には時々、変装したディアネイラ王妃が座ることがある。例の調子で女湯の乙女たちに説教するために。まあ、いいか。


 マッカリアスちゃんにはコーヒー牛乳の仕入れと空き瓶の返却の管理を任せている。宇宙牛が可愛いからと自ら志願したのだけど、あれのどこが可愛いのか、私には分からない。模様と頭は牛で体は……。


 私は宇宙羊の肉を使った料理を思案中。羊というが、どう見ても羊大の毛虫なのだが、肉は美味しい。だから、銭湯に「お食事処」を併設して、そこで宇宙羊の肉を使った宇宙ジンギスカンを出そうと思っている。


 ヘーラクレレス王とイオラオサンおじさんの御老体コンビはお風呂で元気になって宇宙で大暴れ。若返ったイオラオサンが敵のアシックサイ軍の皇帝ユウリュデウスを討ち取ってしまった。ヘーラクレレス王は少しご機嫌斜めだ。


 そんな二人に気を遣いながら、我が夫ヒュロシ王子は撤退するアシックサイ軍の残党を捕縛するために今日も宇宙を飛び回っている。そして、疲れて御帰宅後はお楽しみのお風呂だ。当然、私と一緒に入る。うふ♡ おかげで、クレオ、アリスタ、エウアという子宝にも恵まれた。


 今夜も無事に湯終ゆじまいだ。家族で話しながら帰っていく最後の客を見送ってから、暖簾を鴨居から降ろす。見上げると、広く大きな星空。


 よし、そろそろ小説を書こう。

 題名は勿論「ヘーラクレレダイの嫁」だ。



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ヘーラクレレダイの嫁 改淀川大新(旧筆名: 淀川 大 ) @Hiroshi-Yodokawa

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