第13話 楽しい夕食
王宮殿に戻ってみると、もう夕食の準備ができていた。私は少し慌てて自分の席へと向かう。基本的に食事は皆で一堂に会して食べる、らしい。結婚して初の家族での食事だ。晩餐会の時とは違うアットホームなひと時となるだろう。そう期待しながら、私は席についた。ディアネイラ王妃カッコお姑さんカッコ返しの真向いの席に。
上座はヘーラクレレス王の席だけど今は空席。まだ戻ってきていないようだ。その隣が私の夫ヒュロシ王子の席となる。体の大きなヘーラクレレス王の隣で少し窮屈だろうけど、やはりこちらも上座。次期王様だからね。でも今は不在。やっぱりまだ帰ってない。
で、角を曲がってヒュロシ様の斜め横が私の席。ヒュロシ様が帰ってきたら、食事をしながらヒュロシ様とアイコンタクト。むふっ♡
王様の斜め横、つまり私の向かい側がディアネイラ王妃。この圧がすごいのよね。その隣がマッカリアスちゃんの席。私の隣はグテーシッポ王子の席のはずだけど、今は空席。たぶん彼は今も例の酒場にいる。その隣にはグレーテマス王子が座っている……という表現でいいのだろうか。あーあ、椅子の上でウン〇座りなんかして、どうみても田舎のヤンキーにしか見えないのよね、この人。その向かいの、マッカリアスちゃんの隣の席に座っている、ラメのドレスにアフロヘアーの女性……いや、男性がオネイテマス王子。よし、一応、家族の名前は覚えたわ。とにかく、こういう席次で夕食は始まった。
すると、ディアネイラ王妃がさっそく嫌味を言ってきた。
「あら、こんな時間までどこに行っていらしたの? 王様や王子が先に席についていたら、どうするつもりだったのかしら。お待たせするなんて失礼ですわよ」
「すみませんでした。街の様子を視察に出ておりましたの。ところが、王様が治められている星の首都は広すぎて、ぜんぜん距離感が掴めなかったものですから、帰りの時間の計算を間違えてしまいましたわ」
とリスペクト混じりの言い訳をしてみると、一番アホが乗ってきた。
「当たり前だ。広すぎて回りきれねえだろ。このグレーテマス様に任せておけば、循環シャトルレールくらい何本でも引いてやるのによ。王都内の大手建築業者は、たいていが昔のワル仲間の家だからな。どうして親父は俺に任せてくれねえんだ!」
ディアネイラ王妃はナプキンを膝の上に敷きながら言った。
「あなたはすぐにカッとなって、相手かまわず誰とでも喧嘩するから、大事な事業を任せてもらえないのですよ」
「ケッ、王妃殿は自分の実の息子が何でも任せてもらっているから、文句は無いだろうよ」
「あなたたち三兄弟がしっかりしないから、全部ヒュロシに任せているのです。その分ヒュロシの負担は増すばかり。三人とも、もっとしっかりしてもらわないと。そんな調子では、ヒュロシが王になってもヒュロシを支えられませんよ」
オネイテマスがアフロヘア―をふわふわと整えながら言った。
「わったしには、関係ないわね~。政治にも、経済にも、軍隊にも興味ないし~」
ディアネイラ王妃が
「いい加減にして! あなたは一族の面汚しよ! 一昨日も男性を産んだそうね。あなたは、どうしてそうなの! あなたは
ディアネイラ王妃は膝の上から持ち上げたナプキンで涙を拭う。
「パパもお兄ちゃんも遅い~。お腹すいたあ~痛っ!」
隣のディアネイラ王妃からナプキンで顔を叩かれたマッカリアスちゃんは肩をすぼめた。母親が叱る。
「その話し方はやめなさいって何度も言っているでしょ! 御父上と呼びなさい! お兄ちゃんではなく、王子様です。いいですね!」
「は~い」
「伸ばさない!」
「……はい……」
そこへヒュロシ王子が帰ってきた。今日は鎧とヘルメットは外している。もちろん、マスクも。
「いやあ、遅くなりました。すみません。戦闘服のままですが、お腹が空いているので、皆さんお許しください」
ヒュロシ王子は末席のところに立って皆に深々と頭を下げた。そして、私の席の方へとやってくる。うふっ。
「そんな、謝るなんて、おやめになって。お兄様は戦場で戦ってこられたのですから、何も悪くはございませんわよ」
ん。お兄ちゃんの前では別人かあ。
「お疲れ様でした。誰か、早く料理を運んでちょうだい。温かくて、胃に優しいものをお願いね」
おいおい、お義母さま。ヘーラクレレス王を待たなくていいのですか。
と心中でツッコんでいると、私の肩にそっと手が添えられた。ヒュロシ様の温かい手。
「待っていてくれたんだね。ありがとう。本当に、うれしいよ。イオリの顔を見ながらじゃないと、食事も美味しくないからね」
そう言いながら席に座るヒュロシ様。イオリ……イオリですって! まさかの呼び捨て! きゃー♡ 何か、この「俺のモノ」的な呼び方。最高! そうよ、私はあなたのもの。あなたは私のもの。やばい、過呼吸で倒れちゃうかも!
次々に食事の皿が運ばれてきた。またまた美味しそうな料理だ。もしかして、これも……。私は訊いてみた。
「お義母様、美味しそうなお料理ですね。もしかして、今夜の料理も?」
ディアネイラ王妃は得意気に頷いた。
「そうよ。今夜もユーディース氏がプロデュースした料理よ。しばらく、王宮殿の
チラリとオネイテマスの方を覗くと、彼はそわそわとした様子だった。
もしかして、ディアネイラ王妃は、あの美食家はオネイテマスが産み落とした転生者であるという事を知らないのかも。でも、転生者は産んだ人の好みのタイプど真ん中なのよね。そんな人が王宮殿に出入りしていたら、オネイテマスとしては我慢できないのではないかしら。ていうか、既にもう挙動不審だし。先走って変な妄想とかしてないでしょうね。食事中よ。隣は未成年の女の子が座っているのよ。大丈夫かしら。何か波乱が起きそうな……こらっ、オネイテマス! さっきから、なに自分の下腹部をチラチラと見てるのよ! どこが気になるの!
チンチンチン
グレーテマスがフォークでグラスを叩いて鳴らした。皆が彼に注目する。
「ちょっと聞いてくれ。実はな、俺もこの戦争に参加しようと思うんだ。昔のダチも一緒にな。みんなで気晴らしにひと暴れしようと思っているんだが、どうだ、どこか適当な所はないかな。ヒュロシ兄貴、アシックサイ軍の連中をボコボコにしてやるからよ、武器と鎧を人数分を貸してくれよ。ああ、あと、戦車。空を飛べるやつな。頼むわ」
私はすぐにヒュロシ様の方に顔を向けた。
ヒュロシ様はナイフとフォークを握った手をテーブルの上に置き、じっとグレーテマスの方を睨んでいた。
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