第10話(3)温存を解禁

「敵は三方向からこちらに詰め寄ってきています!」


 花が声を上げる。


「向こうから来てくれるのは都合が良い……!」


 三丸が笑みを浮かべる。


「能力的にはどうなの~?」


「ど、どうなのと申しますと⁉」


 竜が夜塚に問い返す。


「いや、前回の黒部ダムと同種のイレギュラーじゃん。それに比べるとどうかなって」


「さ、さきほどの氷刃隊員と志波田隊員の攻撃から判断するに、耐久性などは上がっている模様です!」


「……だってさ。深海隊長は?」


「……同じ見解です」


 夜塚の問いに深海が頷く。


「それはちょっと厄介だね~」


 夜塚が後頭部をポリポリと掻く。


「各員、迎撃に当たれ!」


 三丸が指示を出す。


「おっしゃあ!」


「行くぜ!」


「ひゃっはー!」


 蘭と慶と天空が果敢に突っ込む。


「! え、援護だ!」


 葉が慌てて声を上げる。


「氷刃隊員! そちら側は任せます! こちらはアタシの弓で!」


「は、はい!」


 矢を放つ月の言葉に従い、陸人が銃撃を再開する。


「少々無謀が過ぎる……!」


「まったくの同意です!」


 雪の困惑気味の呟きに花が応える。


「ですが、戦況は悪くはありません!」


 竜が声を上げる。


「……で、出遅れてしまった……」


 大海が戸惑う。


「疾風隊員は味方の手薄な部分をフォローしようとしているのですね、流石です!」


「あ、ああ、はい……」


 花の言葉に大海はとりあえず頷いておく。


「……どうやら出し惜しみしている場合ではないようだな」


「そうだね……」


 三丸の言葉に夜塚が同意する。


「貴様が指示を出せ」


「え? いいの?」


「温存したのは貴様の判断だからな。解禁も貴様の判断に委ねる……」


 三丸が淡々と呟く。夜塚が笑う。


「ははっ、それじゃあお言葉に甘えて……氷刃隊員! 疾風隊員!」


「はっ!」


「は、はい‼」


「まずはバイクの影を片付けようか!」


「了解! 氷刃隊員!」


「う、うん!」


「タイミングは合わせます!」


 大海が陸人の前を走り出す。


「本当にぶっつけ本番だな……」


 陸人が銃を構える。


「おおっ!」


 大海が剣を振りかざす。


「剣を振りかざすタイミング、映像で何度も確認した通りだ! それっ!」


「おおおっ!」


「!」


 陸人が放ったいくつかの銃弾が大海の脇をすり抜けていく。大海は剣を振り、銃弾に斬りつける。銃弾は剣に押されるかたちとなり、加速度と威力を増して、バイクの影たちに当たる。バイクの影たちは霧消する。


「どうだ! 『銃弾剣斬』!」


「う、後ろから自分を追い抜いた銃弾を斬りつけた……」


 深海が啞然とする。


「氷刃隊員の正確な射撃と銃声で、弾道やタイミングはある程度分かる……疾風隊員ならば造作もないことだろう……」


「そ、そうですかね……?」


「それを造作もないという三丸隊長もなかなかだね……」


 三丸の言葉に深海は戸惑い、夜塚は苦笑する。


「氷刃隊員!」


 振り返った大海が陸人に声をかける。


「ひっ⁉」


 陸人がビクッとなる。


「流石です……」


 大海が右手の親指をぐっと突き立てる。


「あ……怒ってないの?」


「そういう顔つきなのです……」


 夜塚が声を上げる。


「さて、続いては雷電隊員、氷刃隊員!」


「おっしゃ!」


「あ、は、はい!」


「火の玉の影を任せるよ!」


「陸人っち!」


「り、陸人っち⁉」


 天空から声をかけられて陸人が戸惑う。


「シビレるやつ、頼むよ!」


 天空が素早いフットワークで相手の後方へ回り込む。


「そ、それは……⁉」


「さあ、早く!」


「し、しかし……!」


「陸人っちの腕を信頼してるからさ! バンバン撃っちゃって~」


「し、信頼……! ええい!」


「うおおおっ!」


「‼」


 陸人の放った銃弾が火の玉の影に当たる。それとほぼ同じタイミングで、天空が拳を影の後方からお見舞いする。衝撃に挟み込まれるかたちになった影は霧消する。


「よっしゃ! この調子でどんどん行こうか!」


「う、うん‼」


 陸人がどんどんと射撃し、天空がパンチやキックを繰り出していく。影は次々に霧消する。


「これが『銃拳之絆』だ!」


「あ、相手を挟んでいるとはいえ、射線上に立つなんて……」


 深海が呆然とする。


「銃弾が当たれば、そこに後方から挟撃を加える。万が一かわされても、避けたところに拳や蹴りを叩き込む……極めて理にかなった戦法だ」


「理にかなっていますか⁉」


 頷く三丸に対し、深海が思いっきり首を傾げる。


「まあ、お互いの信頼関係……絆が無ければ出来ないことではあるね……」


 夜塚が顎に手を当てる。


「よっしゃ、大体片付いたな……ナイスだぜ、陸人っち!」


「ま、まさか、こんな戦い方をするとは……心臓が持たない……」


 笑顔満面の天空に対し、陸人は自らの左胸を抑える。


「大胆不敵とはこのこと……」


 大海が陸人に歩み寄りながら呟く。


「胆が無いんじゃないかな……」


 陸人が苦笑する。夜塚が叫ぶ。


「よし、仕上げは疾風隊員! 雷電隊員!」


「はい!」


「おっしゃ‼」


「大型トカゲの影は任せた!」


 大海と天空は大型トカゲの影たちに向かっていく。


「大海っぴ! 上か下かで決めよう!」


「では私は上を!」


「オッケー♪ 僕は下!」


「おおおっ‼」


「うおおっ‼」


「⁉」


 大海の振るった攻撃が大型トカゲの影の上半身に当たる部分、天空の繰り出した蹴りが大型トカゲの下半身に当たる部分を霧消させる。


「『剣斬打撃』だ!」


「こ、これは至ってシンプルな同時攻撃……」


「上段に剣と、下段に打撃……またはその逆……これをかわすのは容易ではないな」


 頷く深海の横で三丸が腕を組む。


「まあ、あのスピードで繰り出される同時攻撃は厄介だろうね~」


 夜塚が笑顔を浮かべる。三丸がイレギュラーの様子に気が付く。


「む……?」


「ブオオン……」


「ギエエ……」


「ボアア……」


「ちいっ……」


 わずかに残っていた、バイクとトカゲと火の玉の影たちが融合し、一回り巨大な影になった。三丸が舌打ちし、深海が愕然とする。


「‼ ま、またイレギュラーが三種融合した……」


「ここからが本番って感じかな……」


 夜塚が自らの側頭部を軽く抑える。

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