第2話(4)雷電の如き肉弾、そして……

「お願いします」


「はい!」


 天空が海に向かって走り出す。


「ブオオッ!」


「おりゃっ!」


「!」


「うりゃっ!」


「‼」


「どりゃっ!」


「⁉」


 天空が向かってきた漁船を派手に蹴り飛ばす。漁船は次々と転覆する。


「僕の拳はどうだ!」


「パンチじゃなくてどう見てもキックだったかと思うのですが……なるほど、恐るべき近接戦闘能力ですね……」


 胸を張る天空の背中を深海が感心しながら見つめる。


「はあ……」


 天空がため息をつく。


「ブオオオッ!」


「おっ、まだ来るか⁉」


 壁に空いた穴を突破した漁船が何隻か突っ込んでくる。


「えいっ!」


「ブオッ!」


「ていっ!」


「ブオッ‼」


「せいっ!」


「ブオッ⁉」


 天空が再び向かってきた漁船を豪快に殴り飛ばす。漁船は次々と転覆する。


「僕の蹴りはどうだ!」


「ふむ、興奮しているのか、パンチとキックを取り違えているのがやや気になるところですが……漁船が転覆して浮いた魚のようになっている……まさに雷電の如き肉弾……」


 深海が再び感心する。


「はあ、はあ、はあ……」


「とはいえ、彼にだけ頼り過ぎるのは危険ですね……」


 肩で息をする天空を見て、深海が頷く。


「ブオッ!」


「む……」


 止まっていた漁船が徐々に動き始める。


「くっ、すみません、深海隊長……これ以上制止させ続けることは出来ません」


 両手をかざしていた雪が苦しそうに口を開く。


「ふむ、広範囲ですからね……それでは……」


「本官にお任せ下さい!」


 葉が声を上げる。


「……お願いします、佐々美隊員」


「はい! 掛けまくも畏き……恐み恐み申す……!」


「ブオオッ⁉」


 海が荒れ、波が起こり、漁船がそれに巻き込まれていく。


「ほう、そういうことも可能なのですか……」


「海の神様にお願い申し上げました……」


 深海の呟きに葉が反応する。


「ブオッ!」


「ブオッ! ブオッ!」


「……なんでしょうか?」


 葉が首を傾げる。


「……悪機同士で呼びかけ合っている?」


「な、何をですか?」


 深海の言葉に雪が戸惑う。


「それはもうすぐ分かると思います……!」


「ブオオオッ‼」


 漁船同士が接近し、黒い光に包まれたかと思うと、一隻の巨大なタンカー船に変貌した。


「なっ⁉」


「が、合体した⁉」


 葉と雪が驚く。深海も目を丸くする。


「これは……珍しいパターンですね……ん?」


 深海の下に通信が入る。


「深海隊長、危険度の上昇を確認しました」


「いくつですか?」


「Aです」


「一気に跳ね上がりましたね……分かりました」


 深海が通信を切る。


「ブオオオオッ‼」


「弱い奴ほどなんとやらってね! かかってこいや!」


「まあ、少し落ち着きなさい……」


「うおっ⁉ た、隊長、いつの間にここまで……」


 自分の軍服の襟を引っ張られた天空が戸惑う。


「君はアドレナリンが出過ぎですね……戦いをどこか楽しんでいるような……」


「興奮しているのは否定できませんが、このにやけ顔は元からです」


「まあ、戦いを恐れ過ぎるのも問題なので、それはそれで良いと思いますが……」


 深海がゆっくりと前に進み出る。天空が慌てる。


「た、隊長! 丸腰では危険です!」


「君にそんなことを言われるとは……」


 深海が思わず苦笑する。


「い、いえ、しかし……」


「戦場には似つかわしくありませんか?」


 深海が自身の白衣の襟を引っ張ってみせる。


「ま、まあ、正直……」


 天空が遠慮がちに頷く。


「ご心配なく。オレはここで戦うので……」


 深海が自らの側頭部を右手の人差し指でトントンと叩く。天空が首を傾げる。


「頭脳……?」


「そうです。ただし……」


「ブオオッ‼」


 タンカー船が深海に迫る。


「た、隊長!」


 深海が端末を取り出し、手際よく操作する。


「……『電脳』でね」


「ブオオオオッ⁉ ……」


 タンカー船が進撃を止める。深海が頷く。


「沈黙を確認……」


「ど、どうやったの? ハッキングとか?」


「宙山隊員、察しが良いですね。そんな感じです。悪機の機体内にアクセスしました」


「そ、そんなことが……」


「出来てしまうんですね、これが……指令部?」


「確認しました。悪機の回収などの事後処理はお任せ下さい」


「お願いします……さて、三人とも良くやってくれました……」


「……ふっ、結局は隊長に頼ってしまいました」


 天空が苦笑する。


「いえ、こちらも大いに助かりましたよ……反省は後で。さあ、帰投しましょう」


 深海が笑顔で三人に声をかける。

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