★害宙の仕業なのか

 静まりかえった署のオフィスは、作業音だけが聞こえていた。レオンが巡回から戻ってくると、ガン警部補がにこやかな笑顔で入り口に待ち構えていた。


「待ってたぞ、レオン。お前にいい話があるんだ」


 ガン警部補の言葉にオフィス内はざわめきだす。レオンの方を見ながらひそひそ隣同士で会話する者もいた。しかし、レオンにその様子は、大きなガン警部補の体で隠れており、見えていなかった。


「いい話ですか?」


 なんだろうとレオンは興味を持った。


「お前に殺人事件の調査を任せることに決めたんだ」


「本当ですか!」


 レオンは飛び上がるような喜びを感じていた。パトロールか、誰もやりたがらない変な事件ぐらいしか任されることのなかったレオンにとって、やっとやりがいのある仕事ができると嬉しかった。しかし、死者がいるのに不謹慎だと、気持ちを切り替えた。


「ご期待に添えるよう尽力してまいります」


「そう言ってくれると思った。しかし、お前一人では不安だろう。先輩でも連れて行くといい。スクワイトなんかいいんじゃないか」


「ええ!!」


 オフィスからスクワイトの驚きの声が上がった。ガタンと勢いよく倒れる椅子の音が響く。スクワイトの周囲の署員たちは、哀れみの目で彼を見ていた。


 ガン警部補は、そのまま室内に入ると、スクワイトに近づき、彼の肩をがっしりと掴んだ。


「後輩の教育を頼んだぞ。スクワイト」


「……ハイ。ワカリマシタ」


 スクワイトは体を青くしながら、壊れた機械のように答える。


 ガン警部補がスクワイトから離れたあと、レオンはどんよりとしたスクワイトに近づいた。


「あの、大丈夫ですか? 何か不都合があるなら俺からガン警部補に頼んでみましょうか?」


 レオンはスクワイトを心配した。爆弾解除にも怖じけずにやり遂げるスクワイトが嫌がっている。なにか事情がありそうだと思った。


 スクワイトは大きくため息をつくと、細長い触手で倒した椅子を起こした。そのまま脱力したように椅子に座ると、レオンを見つめた。


「レオンお前、事件の内容は知っているか?」


「まだです。すぐ確認します」


 レオンは送られたばかりの事件資料を開いた。するとスクワイトは、レオンより先に内容を読み上げだした。


「同日、ホテル街の5つの場所で変死体が発見された。被害者は5人、すべて男。糸に巻かれて、中で干からびて死亡。……レオン、どう思う」


「奇妙な殺害方法ですね。まるで捕食するための殺し方に思えます」


「だよなー。俺、絶対害宙かなにかの仕業だと思ってんだけどさ。ガン警部補も同じ考えのようだし。害宙だったら最悪だよ。でも命令だしなー」


 スクワイトは10本の触手を扇状に広げると、お手上げと天を仰いだ。


「でも、俺たちに捜査を求めたということは、違う可能性があるということですよね?」


 レオンはさらに資料を読み続けた。殺害現場のホテルはすべて、プライバシー保護のために監視カメラが設置されていなかった。害宙が、わざわざ監視カメラがない場所を選んで捕食するなんてそんな知能があるのだろうかと疑問が浮かんでくる。


 捕食と繁殖の本能しかないといわれている害宙。知能をもった害宙。レオンは考えを組み立てていく。害宙と宇宙人が合体したような存在……。


 スクワイトは、考えにふけるレオンの肩を叩いた。


「こんなところでいても、答えは出ないぞ。とりあえず、現場に向かおうじゃないか」


「はい」


 レオンとスクワイトは殺害現場に行くことになった。

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