★放射状の巣

 ギラギラとネオンに色に染まるホテル街。その中の一つのホテルには規制線が張られ、その周囲には、野次馬とマスコミが混ざって集まっていた。レオンとスクワイトは人混みをかき分けながら、問題のホテルに入っていく。


 現場の部屋へと向かうと、ドアは開けっぱなしになっており、中の様子が見えた。ベッドと簡易なテーブルがあるだけのシンプルな部屋だ。廊下からパッと見た感じは、殺人事件があったとは思えない様子だった。


 レオンが中に入ろうとすると、腕に何かに触れたのを感じた。しかし、腕を見ても何もなかった。だが、確かに腕に不快感がある。片方の手で腕を払うと、キラキラと光る細い糸が手にひっついた。


「これが噂の糸か」


 レオンは目を凝らして手についた糸を見た。レオンの髪の毛よりも細く、ベタベタとしていて手から離れない。糸は透明で、光に当たって初めて見えるのだ。レオンは気づかないうちに、天井から垂れ下がった糸に触れてしまったのだろう。仕方なく、制服になすりつける。


「おい、レオン。上見ろよ、上」


 スクワイトが指差す方を見ると、レオンは息を呑んだ。天井の隅に円網状に張り巡らされた糸があったのだ。先ほどレオンの腕に絡みついた糸と同じ物だ。その円網の糸の下は、死体のあったベッドが置かれている。


 レオンは、奇妙な形状の糸に見覚えがあった。地球にいた頃に読んだ、地球図鑑に載っているクモの巣の形に似ているのだ。


「あの形は、巣のように見えますね」


 レオンがそう言うと、スクワイトは不安な顔になった。


「巣だって!? はー、ますます害宙の仕業な気がしてきたな。やっぱり俺たちには荷が重いぞ」


 スクワイトは頭を抱えてへなへなとして座り込んだ。レオンはそんなスクワイトを気にせずに、ベッド周辺を調べ始めた。


 ベッドには死体があったことを示す、印がついている。レオンは死体発見時の写真を映して、当時の状況を確認することにした。死体は、糸で何重にもなって、白い繭の状態でベッドに横たわっていた。


「この状態で体液を吸われたということは……」


 放射状に張られた巣、体液のない死体。まるで地球のクモが仕掛けた罠のようだと思った。しかし、地球に宇宙人を食べるようなクモは存在しない。クモと同じような姿の宇宙人もいない。


「まさか、新種の害宙はクモ型なのか?」


 レオンはまさかと思ったが、午前中に会ったシャドウが言っていたことを思い出した。



 異種融合器が盗まれた



 それがどういった代物なのかレオンは詳しく知らない。ただ、二つの生物を合体させるということは聞いていた。


「でも、クモと巨大な害宙のサイズでも上手く合体する物なのか? 小と大で中くらいのサイズになるとか? ああ、わからない」


 レオンは頭をかきむしった。その様子をスクワイトは座り込んだまま、


「レオン、何かわかったかー」


 とやる気なく声をかけるだけだ。


 スクワイトは害宙の仕業だと思い込んで意気消沈している。宇宙警察の仕事ではないとぶつぶつと不満を口にしていた。合成された害宙の可能性のことは、まだ確証もなく、スクワイトを怖がらせるだけだと思い、レオンは考えを伝えないことにした。


「先輩、次の現場に行きましょう」


 スクワイトを立たせると、レオンはホテルの部屋を出て行った。


 他の現場も同じ状況であった。殺されたベッドの上の天井にはクモの巣が張られている。同一の犯行の可能性が高かった。


 目撃証言も集めてみたが、被害者の姿を見た者はいるが、被害者と一緒にいた人物の目撃情報はなかった。


「ホテルに害宙が潜んでいるのかもな。俺、今後寝られる気がしない。てか、天井にいるんじゃないかと怖くてたまらないわ」


 スクワイトはすっかり怯え、部屋に入るたびに天井の隅を確認するようになった。


「天井に潜んでいた。先輩、可能性としてはあり得ますね。待ち伏せ型の殺人かもしれません」


 レオンは、害宙以外の可能性のある言い方をしたが、待ち伏せ型の殺人という自分の言葉に、ますますクモ型害宙の仕業のようだと心の中で思っていた。

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