第36話 PHASE4 その2 さてどうしようか?

「北野、ちょっといいか?」

冬馬は先輩である石塚さんから声をかけられた。

昨日は、安藤さんの件で色々大変だったが、

今日は平和に過ごしたいものだ。


「北野、水族館のチケットがあるんだが……」

「まさか先輩と一緒に行くんじゃないですよね?」

「流石にそっちの趣味はない……」

とりあえず冬馬は一安心した。

昨日の落ち着かないような石塚さんの様子は気になっていたのだが。


「で、これどうするんですか?」

「折角だから、安藤を誘って行ってきたらどうだ?」

「へ?」


全く予想外の返答が来て、冬馬は困惑するばかりだった。

「昨日からどうしたんです?俺は安藤さんとはこういった関係じゃないですよ」

「自分の見立てだと、安藤は北野に気があるんだと見えるんだが……」

う~ん……、どうやら石塚さんは安藤さんが彼氏持ちとは知らないようだ。


「わかりました。一応、誘ってみますけど、一緒に行ってくれるとは限りませんよ」

「まぁそれは北野の誘い方次第だな。ちゃんと誘えば、一緒に行ってくれるだろ」

(女の子は興味ない人には相手しないものだけどなぁ)

残念ながら、冬馬は石塚さんにはっきりとは言えなかった。



「あ、そうそう」

石塚さんは何か追加して喋りたそうにしている。

「チケットをあげる条件があるんだが……」

(また面倒な事を言い出すのか?)


「水族館に行ったら、ちゃんとお土産を買ってくる事」

大丈夫です、石塚さん。自分は金券屋で換金するほどゲスな人間ではありません。


「それとな、安藤さんとのツーショットの写真を見せる事」

流石は石塚さん、抜け目ないな。

これで夏子と一緒に水族館に行くことが不可能になった。


「安藤さんを誘えなかったら?」

「その時は、すぐチケットを返してくれ」

何だかややこしい話になってきたなぁ。



「何で石塚さんは、ここまで構ってくれるんですか?」

冬馬は気になっていた事を口にしてみた。

「北野は真面目で仕事もよく頑張っているんだが、人付き合いは苦手そうだからな。

今はいいかもしれないけど、

ちゃんとした人付き合いが出来ないとこれから苦労するぞ。

経験者の話だから、しっかり聞いとけ」


確かに石塚さんも不器用な感じの人だが、

それなりに人付き合いはしている感じだった。


「石塚さんも自分と同じだったんですか?」

「確かにな。それじゃダメだっていうから、

転勤する前の上司に鍛えられた。スナック行ったり、キャバクラ行ったり……」

「それ都合よく利用されてたんじゃ……」

「そうかもしれないけど、女の子と話をしていくうちに、

上手く話せるようにはなってきた。モテはしなかったけどな。

要するに経験することは大事って事だ」

「肝に銘じておきます」

「北野は一人で抱え込んだりするけど、時には人を頼る事も大切だぞ。

いざという時に頼りになる人との関りは持つべきだ」

時々、石塚さんはいい事を言うんだよね。

実行出来るかどうか別にして、冬馬は心の中に留めておいた。



「本当は北野も飲みに連れて行ってやりたいけど、

あんまり好きじゃないんだろ?」

「まあ、そうですね……」

実は冬馬は尿酸値が高く、尿路結石で入院したこともある。

そして尿酸値を抑える薬を今も服用している。

その為、薬と相性が悪いお酒は程々にしているのだ。

決して酒は嫌いではない。たまに適当に嗜む程度には飲むくらいだ。

石塚さんはその事も知っているので無理に誘う事はしない。

飲み会の時は、冬馬は仕方なく参加することもあるが、

他の人に無理やり飲ませたいように石塚さんが止めてくれたりするのは

本当にありがたく思っている。お節介な所もあるが、

やはりいい先輩なんだな。


「そんなわけで、安藤と仲良くするんだな。頑張って来いよ。」

そう言いながら、石塚さんは冬馬の肩をポンと叩き、仕事へと戻っていった。


(さぁどうするかなと。安藤さんが言っていたダブルデートに持ち込もうか。)

貰ったチケットを手に、冬馬はどうしようかと思案した。

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