第37話 PHASE4 その3 気になる存在
「職場の先輩から水族館のチケットもらったんだけど、
条件が安藤さんと一緒に行ってこいだって。
夏子から上手く誘えないかな?前に言っていたダブルデートって事で」
今まで女の子をデートに誘った事のない冬馬にとって、
たとえ気の許せる後輩だったとしても声をかけるには敷居が高すぎた。
やはりここは、安藤さんとも仲がいい夏子に頼むのが一番か。
そう考え、仕事が終わってから夏子に電話してみた。
「本当は週末、二人で一緒に温泉行きたかったけど、
いいわ、美里ちゃんに聞いてみる。」
「ありがと、今度、埋め合わせするから」
「当然ね。どんな無理難題を押し付けようかな♡」
「お手柔らかに…… 」
男としては、女の子に声もろくにかけられないのはどうかなと思うけど、
出来ないのは仕方がない。
(もしかして石塚さんが気にしていたのは、こういう事なのかな?)
夏子:美里ちゃんから連絡あったよ。今週の土曜日なら大丈夫だって。
でも彼氏とは別れたんだって。3人で楽しも♡
冬馬:!?
〇インから来た通知を見た冬馬は、
予想外の展開に吃驚しているスタンプで返事をした。
夏子:美里さんの彼氏、仕事が忙しくなって会えるのが減ったみたいで、
ちょっとしたいざこざから別れたみたい。
でも美里ちゃんは思っていたよりサバサバしてるかな。
冬馬:そんな素振りも見せてなかったのになぁ。
冬馬にとって男女が付き合う事は、もっと重いものだと思っていたけど、
自分の方がおかしいのかなとさえ思っていた。
「おはようございます。北野さん、週末、楽しみにしてますね♡」
出勤して早々、安藤さんと顔を合わせたが、
彼氏と別れたのが噓みたいに普段通りだった。
「お昼休み、食堂に行きますからね」
(詳しい事はその時に聞かせてもらうとするか)
「あぁ、分かった。じゃあまた後でな」
「はい!では!」
そう言って、安藤さんは仕事の準備を始めた。
そして昼休み、いつもの予約している弁当を食べ終わり、スマホをいじっていると、
すぐに安藤さんがやって来た。うん、いつもの通り、平常運転だ。
「安藤さん、彼氏と別れたって聞いたけど、大丈夫?」
「大丈夫、気にしないでください。
元カレ、どうやら二股かけてたみたいでしたから」
「何じゃそりゃ?」
安藤さん、未練とかないのかいな。
まぁ、本人が気にしてなさそうだし、大丈夫だろう。
「それに、私には北野さんがいますからね」
「はいはい、ありがとうな」
「もうっ、本当なのに!」
「嘘つけ、先輩をからかうんじゃありません」
夏子のおかげだろうか、
安藤さんとはより親密に会話できるようになった気がする。
いや、どっちかというと、更にバカな言い合いするようになったかなぁ。
「夏子さんと一緒に遊ぶの、楽しみにしています」
「俺は?」
「荷物持ち、よろしくお願いします♡」
「ヲイ!」
とりあえず集合場所と時間を確認したが、
う~ん、やっぱり舐められているのかなぁ?
「とりあえず土曜日、駅前に集合でよろしく」
「はい!ではまた!」
(明日は3人で水族館か。何か不思議な気持ちだな)
本来なら、夏子と二人で日帰り温泉の予定だったが、ひょんな事から
安藤さんと夏子と三人で水族館に行く事になってしまった。
水族館なんて、いつ以来だろ?子供の頃に行って以来だからなぁ。
冬馬にとっては、歴史とかサイエンスものとかは興味を持っているので
退屈はしないと思っているが、素直に楽しめるかなぁ。
そんな余計な心配もしていた。
それよりも、あの日曜日以来、夏子に会えるのが楽しみだった。
(まさか、北野さんと水族館に行く事になるなんてなぁ)
実は安藤さんは、会社の忘年会で飲み過ぎて気分を悪くした際に
冬馬に介抱された時から気になる存在になっていた。
恋愛感情を抱くほどではなかったのだが、それ以来、
冬馬は頼りになる先輩という存在になっていた。
それでいて、冬馬と安藤さんは会社では仲のいい先輩後輩という関係だったが、
プライベートでの交流はなかった。
それなのに、安藤さんと夏子は最近、よく〇インでの
やり取りをしていたりするから不思議なものだ。
(この前見た、一緒にジュース飲んでる姿、いい感じだったなぁ)
安藤さんは買い物途中で偶然、冬馬と夏子が
一緒にジュースを飲んでいる所に出くわした事を思い出していた。
冬馬は恋愛よりも仕事や趣味を優先しているタイプだと
思っていたので意外に思えていた。
そんな冬馬が女の子と仲良くしている姿は今まで想像したこともなかった。
(何で北野さんばっかり気になるんだろうな?)
安藤さんは強がっていたが、付き合ってすぐ別れる事となった元カレの事で
知らず知らずのうちに傷ついていたかもしれなかった。
(ま、いいや。折角の水族館だから楽しもっと)
安藤さんは気持ちを切り替え、水族館を楽しもうと心に誓った。
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