PHASE4

第35話 PHASE4 その1 今日も職場は平和です?

「ちょっとぉ、何でこの日に休みが取れないんですか?」

「だからしょうがないでしょ、この日は中村さんが人間ドックに行く日なんだから」

「折角、滅多に取れないライブのチケットに当選したのに。

変更してもらえないんですか?」

「馬鹿言うな、もう中村さんの人間ドックは半年も前に決まっていたんだぞ」



今日も安藤さんとポンタさんこと権田課長が言い争いをしている。

まぁいつもの事ではあるけれども。

「あの二人、よく飽きないですね。毎度毎度、よく言い争うネタがあるなと」

「『アンポンタンの争い』とはよく言ったもんだな。」

冬馬と石塚さんは半ば呆れて、安藤さんとポンタさんの言い争いを見守っていた。

誰が言い始めたのか、『アンポンタンの争い』。

座布団1枚上げたいくらいだ。まあ何というか、今日も平和だ。



「折角、ライブの抽選に当たったのに行けないなんて、ひどいと思いません?」

昼休み、食堂でいつもの弁当を食べ終わった頃に、安藤さんに捕まった。

これで残りの昼休みの時間は終わったな……。


「大体、その日にちゃんと休みが取れそうか、確認しなかったのが悪い。

同じような事、これで何回目だ?」

「だって平日だよ、休み取れると思うじゃないですか?」

「出張とか会議とかあったりするんだから、確認しないとダメだよ」

ポンタさんと言い争いがあった後は、大抵、

冬馬の所で愚痴を言いに行く安藤さんであった。

ちゃんと話を聞いてくれるのが、冬馬ぐらいしかいないからだが。


「しょうがない、夏子さんにも話聞いてもらうか……」

「頼むから夏子に迷惑かけるなよ。っていうか、

職場で夏子の名前出すのは極力控えてくれよ。

誰が聞いているのかわからないから」

「は~い、わかりました~」

安藤さんは言いたいことがありそうだったが、これで退散してくれた。

もっとも、昼休みは殆ど終わってしまったが。


(ふぅ、やっと解放された~。でももう午後の仕事始まるのか~)

そんな思いをよそに時間は進んでいくのであった。



「安藤さんの愚痴、終わったか?」

「はい、何とか」

冬馬は仕事をしながら、石塚さんと話をしていた。

「それにしても、安藤さんとポンタさんってよく言い争いしてますよね」

「そうだな。あの二人は、夫婦漫才やってるからな」

「どんな夫婦漫才だよって言いたくなりますね」

「あんな感じで、二人の掛け合いがあるんだよ」

「なるほど、確かに言い争いしているときは夫婦漫才っぽいです。夫婦漫才……」

「職場の人間関係も、夫婦漫才で上手くいくようになればいいんだけどなぁ」

「ははっ、確かにそうですね」



冬馬は笑って答えたが、石塚さんは真面目な表情をしていた。

(石塚さん……、何か考え事しているのかな?)

冬馬は、石塚さんの表情から何かを読み取っていた。

(いや、流石にそれは考え過ぎかな?)

でも、それがきっかけになったのか、石塚さんは口を開いた。



「北野 、ちょっといいか?」

「何ですか?」

(やっぱり、何か考え事していたんだ)

石塚さんは真面目な表情で冬馬の事を見つめている。



「お前さ……、安藤との仲は進展しているのか?もう一発 やったとか?」

(えっ!?えええーーー!!いきなりですかっ!!)

冬馬は石塚さんに、こんな突っ込みをされるとは思ってもみなかった。



「安藤さんとは、そんな関係じゃないですよ~」

てっきり、夏子の事がバレたと思っていた。

別に変な表情とか出てないよね?大丈夫なはずだけど。

でも、夏子との事まで知られてたら……。


「いや、別にいいんだ。俺が気になってるだけだから……。すまん」

石塚さんの言葉は歯切れが悪い感じがした。

もしかして何か気付いていたとか?

「あの、石塚さんはその……、俺が……」

どう答えるといいのか迷っていると、どこからか悲鳴が聞こえてきた。



「北野さ~ん、助けてください~。安藤さんがポンタさんと揉めちゃって~!」

「今度は何やったんだよ?」



また安藤さんがちょっとしたミスをして、

ポンタさんが必要以上にネチネチ説教したらしい。

それなのに安藤さんが下手に口答えして話がこじれてしまったと。

全く、しょうがないなぁ…。



「石塚さん、すみません。ちょっと行ってきます」

「あ、あぁ……。行ってらっしゃい……」

「石塚さん、何か言いかけました?」

「いや、何でもない。大丈夫だ。」



冬馬は安藤さんを宥めて、何とかその場を収めていた。

安藤さんのミスは、冬馬が何とかする形で収まったわけだ。

それにしても、ポンタさんは課長なんだから、

そんなにムキにならなくてもいいのにと、冬馬は密かに思っていた。


(それにしても石塚さん、何を言いたかったんだろう?)

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