第30話 PHASE3 その3 繋がる気持ち

「そうだ、夏子、ちょっと寄り道していいかな?」

冬馬は、ある店の前で立ち止まった。そこはアクセサリーショップだった。


(あ……これってもしかして?)

夏子は何となく察したようだった。

「これなんかどうかな?」

と冬馬から手渡されたのはペアリングだ。

シンプルで飾りっ気はないが、如何にも冬馬が好みそうなリングだった。

もちろん夏子にとっても好みのものだ。


「冬馬くん、ありがとう……わたし嬉しいよ……」

夏子は目に涙を浮かべていた。

(あぁ、やっぱり好きだなぁ……)


二人はペアの指輪を買うと帰路についた。別に婚約指輪のつもりではないが、

二人で一緒のものを身につけたかった。

そして早速身につけるようになったのだった。


「ねぇ冬馬くん、ちょっと手をつないでもいい?なんか、そうしたいな」

夏子の頼みに冬馬はそっと手を握った。

夏子は顔を赤くしながら握り返してきたり、離したりを繰り返して遊んでいる。


(本当に可愛いな、もう!)

と心の中で叫んだ。

2人の指に輝く指輪を見て幸せを感じたのだった。



今日の晩御飯は、九州の物産展で買ってきたものだった。

まずは宮崎の肉巻きおにぎり、そして長崎の角煮まん。

冬馬のお気に入りの品だった。


「ここの肉巻きおにぎり、老舗だけあって美味しいんだよなぁ」

肉巻きおにぎりはB級グルメとして、

よくイベントの屋台で売られていたりするが、

老舗のものは、やはり格が違うというか、丁寧な仕上がりで手が込んでいる。


「初めて食べたけど、これ美味しいね」

夏子にも満足してもらえたようでよかった。


角煮まんも、具の角煮も大きくて食べ応えがあった。

更に鹿児島のさつま揚げと辛子レンコンもおかずに食べてみる。

栄養のバランスは良くないかもしれないが、

まぁたまにはこういうのもいいだろう。

他にも宮崎の冷や汁の素とかも購入しているが、

これはまた別の機会に食べようと思っていた。


「ごちそうさま。冬馬くんって色々な名物知っているよね」

「ああ、こういうの調べるの好きだからなぁ。

また別の地方の物産展あったら、一緒に行こうか」

「うん、楽しみにしている」

美味しいものを食べることが出来て、夏子は上機嫌だった。



「美里ちゃんにも画像送ってみよっと」

昼間に偶然会った後輩の安藤さんとは、仲良しになったようだった。

(知らないうちに自分の事、夏子に言いそうだなぁ)

冬馬は戦々恐々としている間、夏子は安藤さんとのやり取りを続けていた。

「え、安藤さんって彼氏いるんだ?ちょっと意外」

「まぁ、まだ付き合いたてらしいけどね。

それで今度ダブルデートしようだってさ」

(やべっ……俺の事ペラペラ喋りそうだなぁ)

冬馬は冷や汗を流していた。

そんなやりとりをよそ目に

夏子は楽しく過ごせているようで良かったと思うのだった。



「明日で一度家に帰るわけだけど……」

安藤さんとのやり取りも終わり、夕食の後片づけを終えた夏子が口を開いた。


「ずっと渡しそびれていたもの渡すね」

夏子は小さな紙袋を持って来た。

いつぞやのアクセサリー店で夏子が買っていた時に見かけたものだ。


「なかなか渡すタイミングが掴めなくて。遅くなってごめんね」

「ありがとう。開けてみてもいい?」

夏子が頷くと冬馬は袋を開けてみた。


「ネクタイピンか。ありがとう。大事に使わせてもらうよ」

冬馬に合いそうなシンプルで落ち着いたデザインのネクタイピンだった。


「てっきりピアスを買ったと思っていたよ」

「ピアスも欲しかったけど、冬馬くんへのお礼をしたくて。

もっと早く渡したかったんだけどね」

「気持ちだけでも充分嬉しいよ」


冬馬は夏子をそっと抱きしめた。

「冬馬くん、大好き」

夏子は冬馬に口づけをする。何か温かい気分になってくる。

「しばらく離れるんだから、今夜は激しくしてほしいな」

夏子は冬馬に甘えておねだりをしてきた。


冬馬には拒否出来るわけがなかった…。

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