PHASE3

第28話 PHASE3 その1 覚悟を決めて

「今度の日曜日に夏子の実家に行こうと思う。連絡付けてくれないか?」

食事を終えて一息ついた後、冬馬は切り出した。


「ごめんね、巻き添えにしちゃったみたいで」

「気にするな。いずれは顔を合わさないといけないんだから」

冬馬にとっては、もう夏子がいない生活は考えられなかった。

付き合っている日数など関係なかった。


「家族に会うの、なんか恥ずかしいな……」

「え、なんで?」

「だ、だって付き合ってすぐに挨拶するなんて普通じゃないもん」

夏子は顔を赤らめながら話す。

そもそも二人には後悔などないのだから、

いっそのこと堂々としていればいいのだ。


「そんなの関係ないよ。大切な人の家族に会うんだから、

ちゃんとしておかないと失礼だろ?」

冬馬は優しい笑みを浮かべて言う。


「下手をしたら、また次のお見合い話が出てくるぞ。

この際、はっきりさせた方がいいからさ」

「そ、それに関してはわたしからもお母さんに話すつもり」

「それなら安心だね」

と言いつつ、冬馬は少し不安そうにしていた。


「大丈夫だよ、心配しなくても。ちゃんと話すから」

夏子は笑顔でそう言ったが、やはり不安だった。

(上手くいくだろうか……)



「土曜日になったら手土産を買いに行こう。

ついでに買いたいものがあったら何か買おう」

「手土産を持っていくの?そこまで気を使わなくてもいいのに」

「いやいや、最初が肝心だ。悪い印象は持たれたくないからね」

「ふ~ん、そこまで気を遣うかなぁ」

夏子は軽く言うが、冬馬にとっては大事な事だった。


「あの、冬馬くん、実は……」

夏子が何か言いかけたが、冬馬は途中で遮った。

「夏子は、実家に帰りたくないんだろう?わかるよ、その気持ち……」

冬馬の表情が急に曇っていたのに驚きながらも、

夏子にはその言葉の意味がわかった。


(多分、お父さんは許してくれないんだ、冬馬くんとの事を……)

それでも夏子は冬馬のそばにいたいと思っている。

(でも必ずわかってくれるわ)


決戦は日曜日。

その時に自分の気持ちをはっきりと両親に伝えたい、そう強く思った。


「お、お父さんにちゃんと話してみる」

夏子は覚悟を決めたように言った。

(大丈夫さ、きっとわかってくれる)

冬馬は心の中で自分に言い聞かせていた。



「で、一応聞くけどさ…」

「何?」

「夏子のお父さんってどんな人?」

「どんな人って言われても……」

冬馬は、夏子の父親が変わり者じゃないことを祈っていた。


「優しい人だと思うよ。ただね……」

「ただ?」

「口数は少ないからね。最初はとっつきにくいと思う。

話し合えば大丈夫だと思う。多分……」


(何か不安になって来たぞ。)

元々一人を好んできた冬馬は、当然ながら会話は得意ではない。

果たして口数の少ない、ちょっとくせがありそうな夏子の父親と

ちゃんとした話し合いが出来るだろうか?


少々不安にはなっているが、

ここは自分がしっかりしないとどうしようもないと、

冬馬は覚悟を決めた。自分が出来る限りの事をするだけだと。

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