第27話 PHASE2 その14 やはり思い出は美し過ぎて

「あ~……やっと終わった~」

ようやく仕事が終わった冬馬は帰宅していた。

(今日は疲れたな)

と心の中で呟く。だが、不思議と気分は悪くなかった。

むしろ充実感に溢れていたかもしれない。


「おかえりなさい、晩御飯出来てるから着替えてきてね」

冬馬が着替えている間に、夏子はテーブルに並べていった。

「作ってみたんだけど、どうかな?」

夏子は心配そうな顔をして冬馬を見つめる。

「いただきます」

冬馬と夏子は食事を始める。果たして口に合うだろうか?



「うん、なかなか美味しいよ」

(よかった…。)

とりあえず夏子は、ほっとした。

しかし、思い出の料理と比べてどうだったのかは気になった。


「ねぇ、正直に答えてほしいんだけど……」

夏子は意を決して口を開いた。

「想い出の料理と比べて、わたしの料理ってどうだった?」

「そうだなぁ、夏子の料理は、それはそれで美味しかったけど、

想い出の料理とは味が違うかなぁ」

「やっぱり、そうなんだ…」

「想い出補正があるからね。

でもやっぱり祖母の料理の方が美味しいと思ったかな」

「……」

冬馬は正直な感想を述べた。下手にごまかしたくはなかったからだ。


「ひじきの煮つけは、店で売っているような濃い目の味じゃなくて、

う~ん、何ていうかなぁ、

やさしいけどしっかりした味が付いていたというか、

いくらでも食べれるような味だったなぁ。炊き込みご飯も、

炊き込みご飯の素を使っているんじゃなくて、

味付けも自分でやっているんじゃないかと思うんだ」

「なるほど」


「だから、レシピは祖母本人から聞かないとわからないんだけど、

今となってはもう無理だから……」

「他にも好きだったっていう料理はあるの?」

「そうだなぁ、色々あったけど、

好きだったのは、鶏肉を甘辛なたれで炒めたものとか、

鶏レバーを使ったレバニラ炒めとか、

一番好きだったのは煮込みハンバーグかな」


「そんなに美味しかったの?」

「多分、ひき肉を使った手捏ねハンバーグだけど、

ソースが独特でね、他の店じゃ食べたことのない味だった」

「特徴はあるの?」

「ハヤシライスみたいな感じだけど、

濃い赤茶色をしていてトマトの味が強い感じかな。

もう一度食べてみたいんだけどね」


「ちょっと難しいかな。せめてレシピがわかればねぇ」

流石にキリがないので、この話はこれで終わりにした。

(何とかしてあげたいなぁ)

いつか、冬馬に思い出の味を食べさせたいなと夏子は思ったのだった。



○○○○○○


想い出の料理のエピソード、自分の思い出の中から拾い上げました。

食べたいと思っていても、もう叶わないものだから

いつまでも思い出に残るのでしょうね。


さて、これでphase2は終了となります。phase3は一つの山場を迎えます。

一つの形を示してみました。

冬馬と夏子の物語を、温かく見守ってあげてください。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る