第10話(3)そうだ京都へ行こう

                  ♢


「ああ、凛はん、こちらどすえ~」


 凛を見つけた心が手招きする。


「心ちゃん、久しぶり……」


 凛が歩み寄る。


「せやな~お元気でしたか?」


「まあ、ぼちぼちかな……」


「そうどすか」


「今日はどうしたの?」


「え?」


「いや、何の用かなって思って……」


「なんやと思う?」


 心が小首を傾げる。


「そ、そこでクイズ?」


 凛が戸惑う。


「当ててみて?」


「ええ?」


「ふふふっ……」


 心が悪戯っぽく笑う。


「ええ……なんだろう?」


「適当でもええから」


「シャーペンを忘れたから貸して欲しいとか?」


「そ、そんなことでわざわざ呼び出しまへん!」


「学生っぽいかなって……」


「わたくし、これでも大学生どすえ?」


「合コンで当て馬になって欲しいとか?」


「そ、そんなこと頼みまへん!」


「大学生だし、京都の人っぽいかなって……」


「ど、どんなイメージを抱いているんどすか?」


「適当って言われると逆に難しいな~」


 凛が腕を組んで首を捻る。


「今の答えが果たして適当なのかという気もしますけど……」


「う~ん、分からないな~」


「正解は……『そうだ、京都へ行こう』どす」


「いや、ここ京都だけど⁉」


 凛が困惑する。


「ええ、だからこそどす」


「だ、だからこそって……」


「京都に来て、なんやかんやで観光してへんと違いますか?」


「ま、まあ、確かになんやかんやでバタバタしていたから……」


「そうでっしゃろ?」


「う、うん……」


「とりあえず今日は色々と回りましょう。ここは桓武の帝さまより千有余年の都の地どす」


「うん、ずっと首都だったんだよね」


「……だった?」


「……え?」


「……今もここが日本の首都どすえ」


「え? え?」


 凛が戸惑う。それを見て、心がため息をつく。


「はあ……京都に住む人間がそういう認識ではちょっと困りますなあ……」


「え? で、でも、やんごとなき御方は……」


「ちょっと東京に遊びに行っていらっしゃるだけどす」


「遊びに行っているだけ⁉」


「ええ」


「め、明治時代から⁉」


「そうどす」


「す、すごい考え方⁉」


 凛が唖然とする。


「まあ、それはともかく……悠久の歴史を存分に感じてください……」


「聞き捨てならんな!」


「え⁉」


 そこに急に命が現れて、凛がびっくりする。心は冷静に対応する。


「……なんどすか?」


「京都よりも歴史があるのは私の地元、奈良だ!」


「……はて?」


「は、はて?とはなんだ⁉ 平安時代の前は奈良時代だろう!」


「そんなはるか昔のことを持ち出されても……」


「悠久だとかなんとか言っていただろうが!」


「言ってましたか?」


「思いっきり言ってたぞ! ま、まあいい、その観光、私も付き合おう。お手並み拝見だ」


「はあ……まあ、別に構しまへんけど……」


 心は凛と命を連れて歩き出す。


「う~ん……」


「どうどすか?」


「いや、清水寺も金閣寺もやっぱり素敵な場所だったよ!」


「ふむ……」


「他の神社仏閣も、街並みなんかも歴史を存分に感じられたよ!」


「ふむふむ……」


 凛の素直な感想に心が満足気に頷く。


「ふん……」


「……一応感想を聞いておきましょうか?」


 心が命に尋ねる。


「悪くはないが……足りないな、鹿が」


「鹿が⁉ うん?」


「きゃあ!」


「ふははっ! 人間どもめ! 暴れてやるワン!」


 イヌ怪人と戦闘員たちが京都の街に突然現れる。凛が声を上げる。


「か、怪人が!」


「噛みついてやるワン~」


「ちょっと待った!」


「誰だ⁉」


「『オニピンク』!」


「『キュウビホワイト』!」


「『テングレッド』!」


「『ヌエブラック』!」


「『カッパグリーン』!」


「五人揃って!」


「「「「「『妖怪戦隊百鬼夜行』!」」」」」


「えい!」


「ワ、ワーン!」


 迫力ある衣装に身を包んだ五人組の女の子が、イヌ怪人たちを撃退する。


「なっ……」


「ふっ、さすがはこの京都を代表する戦隊どすな……」


 驚く凛の横で心が腕を組んで頷く。命が感心する。


「よく連携が取れていたな……そこいらの怪人にも負けないだろう……」


「ふふっ……」


「それはまあ、なんてたって妖怪ですからね……」


 微笑む心の横で凛が呟く。

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