第10話(2)大阪ええとこ一度はおいで

                  ♢


「……お、来よったで」


「え? あ、ホンマや。お~い、凛!」


 躍が手を振る。それに気づいた凛が駆け寄ってくる。


「躍ん、久しぶり……」


「久しぶりって、一週間ぶりとかそれくらいやろ?」


 躍が笑顔で凛の背中をポンポンと叩く。


「ははっ……」


 凛が小さく笑う。


「……元気そうやないか」


 彩が声をかける。


「司令官……」


「おいおい、今日はオフなんやから司令官はやめろや」


 彩が苦笑いしながら手を振る。


「コマンダーさん……」


「いや、そんな風に呼んだことないやろ⁉」


「え?」


 凛が首を傾げる。


「こっちがえ?やがな! 大体自分も恥ずかしいやろ、そういう呼び方!」


「いや、別に……」


「恥ずかしくないんかい!」


「わりとしっくりきます」


「しっくりくるな! 大体英訳しただけやん! それもやめろや!」


「それじゃあ、どう呼べば……」


「彩さんでええやないか」


「いや~それはちょっと気恥ずかしいというか……」


「何を恥ずかしがることあんねん、初対面でもあるまいし」


「……良いんですか?」


「ええよ」


「彩」


「いや、呼び捨てかい⁉」


「彩っく」


「違う!」


「彩リリック」


「リを増やすな! そういうことやない!」


 彩が声を上げる。


「彩さん……」


「そう、それでええねん……」


 彩が頷く。


「それじゃあ今日はこれで解散ということで……」


「なんでやねん!」


 躍に対し彩がツッコミを入れる。


「決めるべきこと決まったんで……」


「わざわざ集まって決めることちゃうやろ!」


「まあまあ、冗談ですよ」


「ったく……」


「す、すごい……」


「ん?」


 感嘆とする凛に彩が視線を向ける。


「二人のやりとり、まるで漫才みたいですね」


「そうか?」


「ええ、とっても面白いです」


「まあ、嬉しいけど……これくらいで満足してもらっては……なあ?」


 彩が躍に目配せする。


「ええ、そうですね」


 躍が頷く。


「?」


 凛が首を捻る。


「せっかく大阪まで来たんや! 本場に行かんとな!」


 彩たちが歩き出したので、凛も慌ててついていく。


「ちょ、ちょっと……」


「……」


「あ、歩くの速っ⁉」


「大阪人の歩く速さは毎秒1.6mやからな……」


「えっ⁉」


「世界一位やで……」


「ええっ⁉」


 躍と彩が振り返って告げてきたことに凛は驚く。


「ふふっ、ついてこられるかな?」


「ふふふ……」


「い、いや、ちょっと待って!」


 凛が二人を呼び止めるが、彩と躍は歩みを止めない。


「どやった?」


「うん、とっても面白かった……!」


 演芸劇場を出た凛は躍の問いに応える。


「ふふん、やっぱりホンマもんを見ないとな……」


 躍が満足気に頷く。


「腹を抱えて笑った後は、腹を満たさんとな!」


 彩が二人を連れてある建物に入る。しばらくして三人が出てくる。躍が凛に尋ねる。


「どうやった?」


「うん、とっても美味しかった……!」


「大阪名物、串カツを堪能してくれたみたいやな! ……ん?」


「きゃあ!」


「ふははっ! 人間どもめ! 切り刻んでやる!」


 カニ怪人と戦闘員たちが大阪の街に急に現れる。凛が声を上げる。


「か、怪人が!」


「挟んでやる~」


「ちょっと待てや!」


「なにっ⁉」


「『タコヤキレッド』!」


「『オコノミヤキレッド』!」


「『イカヤキホワイト』!」


「『キャベツヤキグリーン』!」


「『ネギヤキグリーン』!」


「五人揃って!」


「「「「「『食い倒れ戦隊コナモンガールズ』!」」」」」


「そりゃあ!」


「うわあっ!」


 ふわふわとした衣装に身を包んだ五人組の女の子が、カニ怪人たちを撃退する。


「なっ……」


「ふっ、さすがは大阪で目下売り出し中の戦隊やな……」


 驚く凛の横で彩が感心したように頷く。凛が躍に尋ねる。


「レ、レッドが二人いたけど?」


「たこ焼きにもお好み焼きにも紅ショウガはつきものやからな、お互い譲れんのやろ」


「グ、グリーンも二人いたけど?」


「ああ……まあ、グリーンはなんぼおってもええやろ」


「そ、そうなのかな⁉」


 凛は戸惑ってしまう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る