第10話(4)熊野古道にて

                  ♢


「お、来たな」


 輝が和歌山の集合場所に現れた凛を見て笑顔を見せる。


「来たけど……」


「しばらくぶりに顔を見たが……」


「え?」


「意外と元気そうだな」


「意外とって何さ? 元気じゃ悪いの?」


 凛が頬を膨らませる。


「いやいや、すまん」


 輝が手を左右に振る。


「今日は何の用なの?」


「何の用だと思う?」


 輝が問い返す。


「いや、だからそういうクイズは良いって……」


 凛が苦笑する。


「そうか」


「そうだよ」


「じゃあ、ここはどこだ?」


「ええ?」


「分かるだろう?」


「さすがに住所までは……」


「そ、そこまで厳密には答えなくても良い……」


「ああそうなの?」


「そうだ」


「う~ん……山?」


 凛は周囲を見回して答える。


「正解だ」


「それくらいは分かるよ……」


「正確に言えば熊野古道だな」


「熊の鼓動?」


「イントネーションが違う」


「そう言われるとドキドキするね……いつ熊さんと遭遇するか……」


「そういう道じゃない」


「違うの?」


「違うと言っているだろう」


「違うんだ……」


「なんでちょっとがっかりしているんだ……熊野古道とは、熊野三山……熊野にある三つの由緒ある神社へと通じる参詣道の総称だ」


「へえ……」


「世界遺産なんだぞ」


「ほう……」


「なんだその薄いリアクションは……」


 輝が目を細める。


「嫌な予感がするからね……」


「嫌な予感?」


「ひょっとして今日はこの道を……?」


 凛が地面を指差す。


「ああそうだ、歩く」


 輝が頷く。


「ちょっと待ってよ!」


「ん?」


「山を歩くなら、それなりの恰好をしてきたって! 完全に私服で来ちゃったじゃん!」


「言ってなかったか?」


「初耳だよ!」


「……集合場所である程度察しない方も悪いと思うぞ」


「いや、無茶言わないでよ!」


「まあ、そこまで険しい道ではないから大丈夫だ」


「ええ……」


「今日は二人だから寂しいと思ってな……特別ゲストを呼んである」


「特別ゲスト?」


「ど~も~」


「! 歴女戦隊の神藤原朧さん⁉」


「以前、ヒーローショーでお世話になったときに連絡先を交換させてもらってな……思い切ってお誘いしたら、お休みだということで来てもらった」


「そ、そんな、せっかくのお休みに……」


「いやあ、前から興味はあったのよ。それに……」


「それに?」


「何か悩んでいるみたいだって言うし……」


「!」


「霊験あらたかな道を歩いて、悩みをどっかにやっちゃいましょう?」


 朧は小首を傾げながら笑顔を見せる。


「そ、それはありがたいですが……」


「ですが?」


「荷物大きくないですか?」


 凛が朧の背負う大きなリュックを指差す。


「うん、総重量20㎏はあるわね」


「そ、そんなに⁉ な、なんで……」


「変身すると、十二単のスーツになるからね……普段から重さに慣れておかないと……」


「ト、トレーニングの為……」


 唖然とする凛の横で輝が腕を組んで頷く。


「さすがの意識の高さだ……。うん?」


「きゃあ!」


「ふははっ! 人間どもめ! 暴れてやるキー!」


 サル怪人と戦闘員たちが熊野古道に突如として現れる。凛が声を上げる。


「か、怪人が!」


「引っ掻いてやるキ~」


「ちょっと待て!」


「だ、誰だ⁉」


「『ワカヤマミカン』!」


「『キナリハッサク』!」


「『シラヌイデコポン』!」


「『ユズグリーン』!」


「『カキ』!」


「五人揃って!」


「「「「「『フルーツ戦隊柑橘系』!」」」」」


「えい!」


「ウ、ウキー!」


 明るい衣装に身を包んだ五人組の女の子が、サル怪人たちを撃退する。


「なっ……」


「ふっ、さすがは我が和歌山が誇る戦隊だな……」


 驚く凛の横で輝が満足げに頷く。朧が感心する。


「良い動きが取れていたわね……私たちも負けていられないわね……」


「全体的に色のバランスが偏り過ぎなような……」


「些細なことよ」


「後、カキって……」


「それも些細なことよ。さあ、古道を進みましょう」


 凛の言葉に対し、朧は優しく微笑んで歩き出す。


                  ♢


「……というわけで復活しました!」


 凛が皆の集まる喫茶店で高らかに宣言する。


「お~良かったどすなあ~」


「何よりやで」


 心と躍がパチパチと拍手をする。


「やっぱりリーダーがいないと締まらないからね」


「いやあ……」


 秀の言葉に凛が後頭部を抑える。


「リーダーだからって気負い過ぎだ……」


「え……?」


 凛は輝の方に視線を向ける。


「悩みがあるなら頼れば良い。わたしたちはチームなんだからな……」


「へへっ、そうだね、これからはそうするよ!」


「あんまり頼られてもそれはそれで困るんだが……」


 笑顔を向けてくる凛に対し、輝が苦笑する。彩が尋ねる。


「……誰の励ましが一番嬉しかったんや?」


「はい?」


「参考までに教えてくれや」


「そうですね……秀さんは海に連れて行ってくれましたし……」


「車を壊されそうになったのは参ったよ……」


「躍んと司令官は大阪の街に連れ出してくれました」


「串焼き旨かったやろ?」


「心ちゃんは京都を案内してくれました。お陰で京都がより大好きになりました」


「嬉しいことを言ってくれはるな~」


「輝っちと朧さんと一緒に熊野古道を歩いたのも良い経験です」


「先輩ヒーローから学ぶことは多々あったな……」


「色々考えてみたんですが……」


「ですが?」


「やっぱり、あの方ですかね。司令官と最初に会った時に、疑似民間人として部屋を貸して下さったあの方! あの方がRANEで色々と励まして下さったので立ち直れました!」


「誰やねん! いや、覚えてるけれども! そこかい⁉」


「はい!」


「元気がええな! うん⁉ 怪人が出現⁉ よっしゃ、出動や!」


「了解!」


 彩の指示を受け、凛たちが出動する。

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