第10話 王都が燃えてますねぇ

 あおいは興味深い表情で。

 桀王けつおうに問いかける。



「その暗闇の巫女とやらは。俺らのことを何て言ってたんだ。凄腕の調停者が現れるとでも言ったのか」



 桀王は躊躇いながら言う。



「……い、いや。馬鹿面を晒した舌先三寸の男と、無自覚に災厄を撒き散らす女が現れるから。関わるなと言われた」



「はぁ? このキリッとしたイケメンの俺の何処が馬鹿面だ。だが、妲己ちゃんは、その通りだと思います!」



 妲己だっきはふらふらになりながら。

 歩き続ける。



「久しぶりに歩いて、もう疲れました。哮天こうてんさん、お背中に乗せて下さい。えっ、駄目? 空飛びすぎて体型が維持できない。あっ、ちっちゃくなっちゃいました」



 妲己は袖から杖を出し。

 地面に当てながら歩き続ける。

 


「……うぅ、もう、杖を使って歩くしかありません。ああ、不幸ですぅ」



 桀王は碧に向けて言う。



「馬鹿面かまでは分からぬが。舌先三寸は合っておるであろう」



「……っ。わかんねぇな」



「何が分からぬのだ」



「アンタ、その巫女から関わるなと言われたんだろう。何故、関わろうとしやがる」

「それはだな」



 桀王が生真面目な表情で言おうとした瞬間。

 


「くっしゅん!」



 妲己がくしゃみを行い。

 杖紛いにして握っていた宝具を天に投げてしまう。



「あっ、間違えて宝具、打神鞭だしんべんを投げちゃいました」



 天空に舞った打神鞭は。

 周辺の雲を暗雲に変え。



 雷鳴と落雷を生じさせ。



 一筋の稲妻を振り落とした。



 碧が全力で妲己に駆け寄り。

 肩を揺らす。



「なぁに、やってんの、妲己ちゃん!」



「だ、大丈夫です。不幸度数が増えてないので、人には当たってません」



「不幸度数ってなに! いや、そう言う問題じゃねぇよ!」


 

 遠方からは煙が上がっており。

 関龍逢かんりゅうほうは煙の矛先を見て蒼白する。



「王都から火あがってるぞ! っ、桀王、確認の為。少し先に向かいます」

「う、うむ!」



 関龍逢が馬を走らせると。

 妲己は天空から落ちてきた。

 打神鞭を受け止める。



「やっぱり、この宝具、悪い子です。本来の持ち主に似て。凄くタチが悪いです」



「タチ悪いのは、アンタだよ。妲己ちゃん!」



 碧が全力で妲己に突っ込むと。

 人とは思えぬ動きで。

 木々の間をかいくぐり。

 桀王の前に。

 ポニーテールの髪型をした。

 仮面の男が現れる。



「……王よ。このような場所にいたのですか。落雷が宮殿に落ちた為、よもや巻き込まれたのかと心配しておりました」



「余は大丈夫である。……それよりも、妻は、末喜ばっきは大丈夫か」



「皇后は離れの宮殿にいた為、怪我一つありません」



「……そう、か」



 桀王は安心した表情で言うと。

 碧が仮面の男に近づく。



「おいおい。格好いい登場しやがって。何もんだアンタ」



「……王師おうしです」



「王師? なんじゃそれ」

「夏王直属の近衛兵と思って下さい」



「俺は所属じゃなくて、名前を聞いてんだよ」



「我々、王師に名なぞありませんよ」



 仮面の男がそう呟くと。

 碧と妲己を見つめて言う。



「貴方たちが伏羲ふっきより誘われし調停者ですね。暗闇の巫女より、話を聞いております」



「俺らに関わんな、っていわれたんだろう」



「いいえ。……私が住まう。宮殿を破壊した馬鹿共を連れてこいと厳命を受けました。どうか、大人しく捕まって下さい」



 仮面を被った男が指を鳴らすと。

 七名の仮面の者達が現れ。

 碧らを囲む。



「おいおい、穏やかじゃねぇな。……だが、一つだけ言わせて貰うぜ」



 碧は余裕紛いに言ってから。

 妲己を指さす。



「やったのはコイツです。俺らは関係ありません!」



「ええぇ! 確かに、やったの私ですけど。其処は庇って下さいよ。一人だけ逃げるだなんてずるいです!」



 仮面の男は無表情のまま言い放つ。



「……調停者の二人を拘束せよが命令です。大人しく捕まって下さい。宝具を使うなぞ。考えないで下さいね。其方が抵抗すれば、此方も本気を出さざるおえませんから」



 仮面の者達は剣を抜刀して。

 臨戦態勢に入る。



 三馬鹿トリオはこの危機を脱出できるのか。



 次回、妲己ちゃん、人の心を問う。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る