第8話 宝具 ナワトイシです

 あおいと青年は。

 気絶した桀王けつおうを抱え持ち。

 河川に突き落とそうとするが。

 互いの顔を見合い冷静になる。



「……ツンデレ。一旦、冷静になろう。俺達は、まず落ち着く必要がある」



「ああ、そうだな。動揺して。とんでもねぇ解決に突き進もうとしていた」



 桀王を静かに降ろすと。

 妲己だっき哮天犬こうてんけんを撫ぜながら言う。



「哮天さん。めっですよ、めっ。今度降り立つときは、ちゃんと下を確認して下さいね」



「わん」



「頷く姿も可愛いです。もふもふですぅ」



 碧は妲己に近づき。

 頭をぐりぐりする。



「なんで、元凶の、お前が、他人事なんだよ!」



「痛いですぅ」



 青年が人差し指を口元に当てて言う。



「静かにしろ。余り騒ぐと王が目覚めるぞ」



「……妲己、お前の宝具で、この状況を打開できるモノはねぇか」



「そんな都合の良いモノありましたっけ……」



 妲己は袖をまさぐりながら続ける。



女媧じょか様の宝具、山河社稷図さんがしゃしょくずはやりすぎですし。伏羲ふっき様の太極図たいきょくずはもっとやりすぎですし。うーん」



 袖をまさぐっていると。

 閃いた表情になる。



「あっ、ありました。……宝具、縄ト石です」



「ナワトイシだと、一体どんな宝具なんだ」



「実際に、使いながら説明しますね。まず、この縄を湖に沈めたい人物の両手両足を縛りつけます」



「おい、ちょ、待て。これ、只の縄じゃねぇのか?」



 青年は冷静に言うが。

 碧は妲己の宝具を信用しているのか。

 現実を直視できないのか。

 桀王の両手両足を縛り上げる。



「縛りました。妲己ちゃん。次の指示を」



「では、次は、この重みになる石を縄に巻き付けましょう。……縄の乱れは心の乱れ。二度と浮かんできませんようにと、心を込めて巻き付けましょう」



「はっ、巻き付けました。妲己閣下殿」



「後は、誰にも発見されませんようにと祈りを込めて、河川に投げ捨てるだけです」



「いくぞ。ツンデレ! 宝具、ナワトイシを信じて投げ込むんだ」



「やっぱこれ、宝具でも何でもねぇよ! ただの、縄と石ぃ!」



 青年の全身全霊の。

 突っ込みが森林に響くと。

 森林から馬に乗った男が現れる。



「随分と騒がしいな。……って! なに、やってんのお前ら!」



 男は急くように馬から下り。

 乱雑に碧と青年を払いのけ。

 桀王を奪取する。



「王、王。起きて下さい、王!」



 碧は蒼白した顔で青年に言う。



「なぁ、ツンデレ。このおっさんも偉いヤツなのか。いや、偉いヤツだろうな。身なりを見たら分かる」



「……偉いヤツだよ。王の側近、関龍逢かんりゅうほうと呼ばれる人物だ。王の次に偉いヤツだ」



「えらいことしちゃいましたね。……此れも全て、宝具を使った代償です。不幸ですねぇ」



 妲己が他人事のように言うと。

 二人は声を合わせて返す。



「「あれ、宝具じゃねぇよ! ただの縄と石ぃ!」」



 碧と青年が全力で突っ込むと。

 其の声に目を覚ましたのか。

 桀王はゆっくりと身体を起こす。



「王よ! 気がつきましたか」



「……う、うむ」



 桀王は定まらぬ視線で関龍逢を見る。



「な、何故、お主が此処におるのだ」



「少し、野暮用がありまして。王都から出ていました。そんなことよりも、この三人をどう処分致します。夏王を縛り付け。河川に投げ込むなぞ前代未聞の話です。首吊りか、断首。何方の刑で処分致しましょうか?」



「う、うむ」



 桀王は訝しい表情で碧達を見据える。



 碧は苦い笑みを一瞬覗かせてから。

 舌先が舞う。



「いやいや。誤解してますよ。桀っちに、関龍逢の旦那。先程のは、極東の島国にて行われている。民間の治療方法です。両手両足を縛ることで。血流が良くなり。肩こり、腰痛、痔と言った。ありとあらゆるものが治療される。最新鋭の治療方法です。……おい、ツンデレ、なに、ぼさっとしてんだ。施術は終わりだ。縄を切ってやれ」



「お、おう」



 桀王は縄から解放されると。

 衣服に付いた土を払いながら言う。



「さて、一応。聞くが……死刑と、処刑。何方を望むのだ」



「死ぬ一択じゃねぇか!」



 碧が突っ込むと。 

 青年は天を見上げ。

 世の無常さを嘆く。



「ああ、こんな馬鹿共と付き合った所為で。こんな馬鹿みたいな死を承るなんて」



 青年は嘆くように呟くと。

 妲己は他人事のように言う。



「哮天さん。あの二人死刑らしいですよ。可哀想ですねぇ」



「「お前もだよ!」」



「えぇぇ! 私もなんですか!」



 調停者二人と。

 時代の加護を受けし英傑。



 三馬鹿トリオは早々に。

 時代から抹消されようとしていた。

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