第6話 プラシーボ効果です。思い込みましょう

 あおいは大木に背中を預け。

 死んだ魚の目で項垂れていた。

 妲己だっきは煎じた薬草を碧の口に運ぶ。



「言われたとおり。薬草を調合したので飲んで下さい。はい、あーん」

「……ま、まじぃ」



「良薬、口に苦し君。と言います。我慢して下さい」



「よ、よおぉしぃ。なおったぁ」



 碧は空元気の声で立ち上がろうとするが。

 身体は言う事を聞かず。

 力なく横たわる。



「ぷ、プラシーボ効果(思い込み)で自分を誤魔化そうとしたが。効き目が薄ぃ。……って、は、腹が!」



「ああ、やっぱ駄目でしたか。5種類の内、2種は覚えていたんですけど。あとは忘れちゃったので適当に配合しちゃいました」



「お、おまっ」



「ぷ、プラシーボ効果です。呑んだのが下剤だと思うのです」

「文字通り、下剤だろうが! あっ……」



 ※お見苦しい点がある為、一部表現を省略させて貰います。



「なに、馬鹿やってんだ。お前ら」



 青年が薬草や食料を携え。

 碧の前に現れた。



「つ、ツン男。戻ってきたのか」



「誰が、ツン男だ。言われた薬草と食料を探してきた。……この様子だと、先に下痢止めを煎じた方が良いみたいだな」

「……で、デレ男」



「変な呼称つけんじゃねぇ。ほれ、出来たぞ呑め」



「さっきよりまじぃ」



「下半身が葉っぱ一枚も見てらんねぇから。予備の服やるよ。呑み終わったら。こっちの煎じたのを呑め。少しは楽になるはずだ」



 青年が衣服を持って河川に洗いに行くと。

 妲己が煎じた薬草を飲みながら言う。



「良い子ですねぇ」

「なんで、お前が呑んでんだよ!」



「喉が渇きましたで。あっ、茶柱が立ってますぅ」



「薬草のどこに茶柱があんだよ! あっ、突っ込んでたら。また、腹が……」



 ※お見苦しい点がある為、一部表現を、以下略。





 二日目。



 碧の体調がある程度。

 回復して起き上がる。



「まだ、身体はいてぇが。動けねぇほどでもねぇ」



「おお、脅威の回復力です。私は煎じたお薬のお陰ですね」



 碧は笑顔で妲己に近づき。

 頬をつねる。



「ふざけた口を抜かすのは、どの口だ。この口かぁ」

「い、痛いです。暴力反対ですぅ」



 碧は青年に声を掛ける。



「そういや、名を聞いてなかった。お前の名は何て言うんだ」



 青年は少し間を以てから返す。



「俺に名なんてねぇよ。ずっと、お前や、それ、としか言われてなかったからな」



「名前がねぇのか。……そうだな、なら、俺から、仮の名を授けてやろう」



 碧は僅かばかり考えてから。

 閃めついたように言う。



「ツンデレって名はどうだ。お前にぴったりな名だと思うんだよな」



「つん、でれ? 其の名にどういう意味があるんだ?」



 碧は重々しく。

 大層な言葉を言うかの如く。

 口を開く。



「……ツンデレとは、気高い、孤高の虎(猫)と言う意味が籠もっている名だ。ツンとデレを併せ持った、お前にぴったりな名だと思うんだよな」



「つ、つんでれに。そんな意味が、込められてんのか」



 青年はツンデレの正しい意味を。

 誤解して納得すると。

 妲己は頷きながら言う。



「虎と言っても、猫ですけどね。あっ、うれしさの余り聞こえてませんか。……はい、ツンデレさんでもう良いですね」



 青年は初めて呼ばれる。

 自分の名を味わっていると。

 碧は思い出すように言う。



「そういや、前日から、よく東を眺めてたよな。東になんかあんのか」



「……い、いや。一緒に決起した仲間が、どうなったのか気になってな」



「それなら、ちょっと見に行きますか、ツンデレさん」



「ちょっとで行ける距離じゃねぇよ。歩いて三日はかかる」



「そんな時の哮天こうてん君です。はい、大きくなって下さい」



「そんな直ぐに大きくは……」

「わん」



 哮天犬が頷くと。

 二人が乗れるほどの大きさになった。



「な、なんなんだコイツ。化け犬か」



「化け犬じゃありませんよ。哮天君です。でも、これだけ大きいと哮天さんですね」



「言い方の問題じゃねぇよ」



 青年が動揺しているのを余所に。

 碧は哮天犬の前に立つ。



「ただの馬鹿犬と思ったが、少しは役に立ちそうだな。俺も乗ってやろう」



「わ、わわわ、ワン!」



「この馬鹿犬なんて言ってんだ。すっげぇ首振ってんだけど」



「お尻の臭い人は乗らないで、って言ってますね」

「えっ、まだ匂うの?」



「犬だから嗅覚が鋭いのでしょう」



「こいつ犬ですらねぇだろう。宝具だろう、宝具!」



「プラシーボ効果です!」



「宝具にまで効くの!」



 妲己と青年が哮天犬に乗ると。

 哮天犬は宙に浮き上がる。



「それでは、行ってきますね。詐欺師さんは此処で待ってて下さい」



「メ、ン、タ、リ、ス、ト。事実でも、聞こえの悪い言い方すんな」



「分かりました。詐欺師さん。では、行ってきまぁす」



 碧は半刻ほど待っていたが。

 退屈を持て余し。

 動き始める。



「待ってるってのも暇だしな。ちょっくら探索でもすっか」



 碧は立ち上がり。

 周辺の探索に向かった。

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