第22話  私と人を気遣いすぎる彼と(高崎茅羽耶視点)

 今すぐ出て行って購買の方に向かった彼のことを追い呼び止めたかったが、すんでのところで私はそれを堪えて一旦教室に戻った。


 手っ取り早く彼と話す方法は私が直接話しかければいいだけなのだけど、それでは誰かに見られてしまってあの二人は初対面のはずなのにどうして? となり、厄介なことに発展してしまうかもしれないと思ったので、クラスメイトが教室移動で誰もいなくなったすきに桜木くんの机の中に放課後、屋上に来てくださいと書いた紙を入れておいた。


 そして放課後、私が教室を出ようとすると小林の取り巻きの一人に声をかけられた。


「一ノ瀬さん、このあと暇? 良かったらカラオケ来ない? みんなで歓迎会しないかって話になってるんだけど」

「ごめんなさい。この後外せない用事が入ってしまっていて……」

「そうなの? それなら一緒に途中まで帰らない?」


 それくらいだったらいいでしょ? と軽い感じで訊いてくる様子に少し腹が立ってきたので、先生が待っているのでごめんなさいと言い、全てを断って屋上へと急いだ。


 私が屋上の扉を開けると彼は少し驚いたような顔をしていた。


「すみません、遅くなってしまって」

「いや全然待ってないからいいけど……あの紙って書いたの高崎さんだったんだ」


 そういえば呼び出したのはいいものの、怒りであまり考えがまとまっていなかったからか肝心な名前を書いてなかったことを思い出す。


 それに関して謝罪をして、軽く私のことに気付いていないクラスメイトのことを皮肉ると彼に少し困ったような顔をされた。


 私に関する余計な話はともかく一刻も早く伝えなければならなかったことがあったので、それを口に出した。


「ごめんなさい」

「えっと……、いきなりどうしたの?」

「見てましたよ、昼休み購買に行かされるのを」

「……」

「それって私のせいですよね……」

「いや、別にそういうわけじゃ……」


 少し歯切れの悪い言葉。元から私のせいだとはわかっていたことだが、直接確認して改めて事実とわかると自分のことを呪いたくなった。


 ただそれと同時に私のせいではないと彼が言ってくれたことが嬉しく、素直なやっぱり優しいですねという言葉が出てしまった。


 その言葉で彼は視線を逸らしていた。照れたのかな? と少しほほえましくなっていると今度は彼から質問が飛んできた。


「そんなことより、なんでわざわざこの学校に戻ってきたの? ……またいじめられるかもしれないのに」

「……私には心残りがあったんです」

「心残り?」

「……ええ、心残りです。……それを私は果たすために戻ってきたんです。……今となってはそれも二つに増えましたけどね」


 元々の心残りは桜木くんに自分の想いを伝えられなかったことだけだった。でも、昼休みにあったことを見たからにはどうしてもこれも果たさなくてはならない気がした。私は彼にとある提案をした。


「私と一緒に、復讐をしませんか?」


 昨日も見た呆気にとられたような顔。そして流れる沈黙の時間。


「どうやって?」

「……ごめんなさい。具体的にはまだ……。さっきの様子を見て突発的に思っただけなので」


 しばらくして彼の口から出て来たのは復讐の方法を問うもの。質問としては当然と言えば当然だったが、これまでもうやめてほしい、どうにかしたいと思ったことはあるものの、いじめの復讐方法などは考えたことがない。でも、今の私なら絶対にやれると根拠はなかったがそう思った。


 そう伝えると今度は何故桜木くんをいじめている小林たちに復讐をするのか尋ねられた。


 まさか本人の前で桜木くんのためと言うわけにもいかないので自分のためと言い張ったが、彼側からは全てお見通しだったのか、私の思考を読み充てられたうえで彼に断られかけてしまった。


「高崎さんの気持ちは嬉しいよ。たださっきも言ったと思うけど、高崎さんには責任とかないんだから。わざわざ高崎さんが自分を犠牲に、危ない目に晒してまでやろうとしなくてもいいn」


 断られてしまったら駄目だという本能を信じて彼の言葉を遮る。


「別に責任感なんかじゃないです。恩に感じている部分は確かにあるかもしれません。というより確かにあります。それでも、私はそれ以上に」


 私はそこで一旦息継ぎを挟み、一言言い放った。


「やらなきゃ、終わらせなきゃいけないんです。私が始めた物語なので私がケリをつけて、そして——」


 あなたに少しでも近づいて告白をしたい。最後の方は言葉になったかはわからない。でも、彼に私の本気は伝わったのか、彼は最終的に私の差し出した手をしっかりと握ってくれた。

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終わりを迎えた片想いの追想曲 磯城 @PokeDen

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