第7話  再会と提案と

「あの……高崎さんって二年くらい前に転校しちゃった高崎さん……?」

「覚えていてくれたんですね。良かったです」


 高崎茅羽耶——二年程前のとある出来事から少し話す程度には仲良くなった女子だ。残念ながら転校してしまい、今日まで会うことはなかったが。


「……その久しぶり」

「お久しぶりです」

「随分と驚いた顔をされてますね」

「……いや、まぁそれは……」

「私もだいぶ変わりましたからね」


 僕の思っていたことを当て、彼女は少しクスクスと笑う。二年前の彼女を思い返す。


 当時の彼女は髪を目元まで伸ばした上でマスクまで付けていて顔のほとんどが見えなかった。それに対して今の彼女は髪も整えられており、マスクも着けておらず、当時隠されていたパッチリとした瞳、女性らしさを感じさせる唇などを晒しており……端的に言ってしまえば眩しく、——綺麗になっていた。


「それで何があったんですか?」

「……何が?」

「何もなかったのに死のうとはしませんよね。おそらく……というよりは間違いなく何かがあったと思うんですが」

「……」

「今度は私に助けさせてくれませんか?」

「……」


 正直、個人的には嬉しい言葉だった。ただ僕の事情を彼女に伝えるのは少し憚られた。


 何故なら僕の事情は幼馴染が別の男、僕をいじめている男と付き合っているのを知ったからという、別に自分のカノジョが寝取られたわけではない文句のつけようのないことなのだから。


「……別に気にしなくて大丈夫」

「……そうですか」


 彼女は悲しそうな顔を僕に見せてきた。


 ただ彼女は諦めずに僕に話しかけてくる。


「話すだけでだいぶ楽になることもあるんですよ。……過去の私がそうだったように」

「……」

「人間というのは孤独を恐れる生物なんです。だから自然と学校などでも群れていますしね。一人じゃない。その事実があるだけで安心感も段違いなんです」


 彼女のかけてくる言葉、一つ一つから優しさを感じて、僕のために必死になってくれているという事実がどこかまた詩音と重なり思わず涙が溢れた。


「えっ? えっ? ちょっと急にどうしたんですか? 泣き出さないでくださいよ……」

「いやごめん……、なんか暖かくてさ」


 彼女がふふっと微笑んでいる様子にまた心が揺れる。


 別に話してもいいんじゃないか。彼女なら笑わずに最後まで僕の話を聞いてくれる、根拠は特になかったがそんな気がした。


「話すとちょっと長くなると思うけど大丈夫? ……それにちょっと重い、センシティブな内容になると思うけど」

「もちろん大丈夫です。私が聞きたいと思ったんですから」


 僕はポツポツと彼女に今まであったことを打ち明けた。一部の話題に関してはオプラートに包みながら、詩音が別の男と交わっている動画が送られてきてそれを見てしまったこと。詩音が僕以外の男と付き合っているということを知り、苦しくて辛くてそれから逃げるように詩音との幼馴染という関係を終わらせたことを。


「……」


 僕が全てを話し終えると彼女は少し呆けたような顔をしていた。なんとなく申し訳なくなり謝罪の言葉を口にする。


「いや、ごめん。ちょっとどころじゃなかったね。物凄く醜い話っていうべきだった。僕の片想いとかどうでもよかっt」

「——良くないです。全くもって良くないです」


 僕は思いの外強い彼女の言葉に思わず目をパチクリとさせる。


 何かを考えるように少し目を瞑ること数秒後、突然彼女は僕の手を握ってきた。


 そして僕の耳元に口を寄せて囁いてきた。


「——それなら私にその片想いを終わらさせてください」

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