第46話 SOUND HOUND


ナイラの手に収まるフワフワは、まるで焼け焦げたように黒くなっていた。

シバはその変化に驚愕している。


「あんなに真っ白だったのに、どうしてこんな黒く……!」

「すごい弱ってる……」

「攻撃の巻き添えを喰ったのか?ただ、それじゃ色が変わった理由がわからないな……」


パジーが眉を寄せる。

そのとき、シバの肩越しで呻き声がした。


「クソ、そういうことか……。ふざけやがって……」


メルクが再び眼を開けていた。憎らしげにナイラの手の上の黒い毛玉を睨んでいる。


「なんだよ。そういうことって」パジーが胡散臭そうに聞く。

「……ハコガラが吸ったのはこの動物の命だったってことだよ。ハコガラはより弱い生き物を狙いやすいからな」


メルクが舌打ちした。


「待って。シバっていつも礼拝に通ってたんだよね?」


ナイラが何かに気づいたように顔を上げた。


「はい。カード七十枚貯めました」

「もしかして、いつもペットとか動物連れてたりした……?」

「あ、はい」


シバはあっけらかんと答えた。


「本職、街歩くといっつも動物に懐かれるんで、一緒にお祈りに行ってました。でも、終わるとみんな本職を睨んで帰っていっちゃうんですよ。なんでだったんですかね?」


シバの言葉に全員が頭を抱えた。


「え、どうしたんですか……?」

「このポンコツバカ。その動物たちが、お前の代わりにハコガラに命を吸われてたんだよ。どうりで通い詰めても元気なはずだ」


パジーが呆れ果てながら言った。


「えーっ⁉じゃあ、本職は整ってなかったってことですか⁉」

「周りが気持ちいいっつってるから、感化されて気持ちよくなっちまったんだろ」


パジーがシバの肩を思い切り叩いた。


「純粋すぎんだよ、このタコ助!」

「呆れた」


ナイラがため息をついた。


そのとき、浮かれる街の間を割るように、間延びしたサイレンがそれぞれの耳に届いた。

数少ない飛行車パトカーに備え付けの音だ。

こちらに向かって近づいてきている。きっと今に、赤いランプの光が街角の先に見えてくるのだろう。


「さて、署に戻るか。これからしちめんどくせぇ書類仕事が待ってる」

「ほ、本職は休ませてもらえないですかね……?ほら、こんなに怪我してますし」


シバが血だらけでボロボロの体を広げてみせる。


「お?さっき元気になったって飛び跳ねてたじゃねぇか。元気ならやれるよな?」

「そんなぁ……」

「じゃあ、私はここまでだね」


ふざけ合う二人に鳥籠を渡しつつ、ナイラが言った。


「ん?あぁ、そうか。すっかり一緒に帰るつもりだったぜ」


パジーが笑って言った。


「世話になったな。……へっ、たった二日一緒にいただけとは思えねぇよ」

「私も」


すると、シバが唐突に声を上げた。


「あ、そうだ!聞いてください!本職、メルク様と戦ってる時に、ナイラの探偵事務所の名前をひらめいたんです」

「お前、本当凄ぇなぁ……どうなってんだその頭……」


パジーが感心する。


「一応聞くけど、どんなの……?」


ナイラが恐る恐る尋ねると、シバは口を開いた。


「『『探偵事務所SOUND HOUNDサウンドハウンド』です!」

「サウンドハウンド……」

「はい!」


シバは自信に満ち溢れていた。


「ピンと来たんですよ!音で犯人を追うハンターって感じで、ナイラにピッタリじゃないですか?あと、ハウンドって響きがかっこいいです」

「お前それは……どうなんだ……?」


パジーが難色を示した。


「え、ダメですか?」

「だってお前、ハウンドって猟犬ってことだろ。人に向かって犬扱いはよぉ……。それに、ミックスは一般人との違いを気にして生きてんだから、それを押し出すのも……」

「あ、そうなんですか……。すいません、本職全然気がつかなくて……忘れてください……」

「ううん、いいんじゃない?」


ナイラが柔らかく微笑んでいた。


「リズムいいし。もし本当に探偵始めたら、つけるよ」

「本当ですか⁉」

「うん」


返事をしてから、ナイラが小さく付け足した。


「……シバがつけてくれた名前だしね」


採用されて無邪気に喜ぶシバの代わりに、パジーが眼を丸くしてナイラを凝視した。


視線に気づいたナイラは、わずかに頬を赤らめる。

パジーは、浮かれるシバに気づかれないようにナイラの肩に止まると、静かに耳打ちした。


「悪いとは言わねぇがよ……大変だぞー、この男は……」


ナイラはクスッと笑って言った。


「……覚悟しとく」




― 第4章 決戦 おわり —



――――――――――――――――――――


次話のエピローグで、完結します。

何卒最後までお付き合いください。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る