第40話 供述


「一体どうやってあの隠し部屋を……。それに警備の奴らは何を……」


メルクが彼を仰ぎ見て面食らっている中、シバが自分事のように威張った。


「うちには偵察のプロがいるので。どこに何人いるか分かっていれば、制圧も捜索も楽勝です」


ナイラは背後で恥ずかしげに小さく俯いた。


「……なぁ、シバさん。俺は、捕まったらどうなる?」


メルクが暗い目でシバに聞いた。


「裁判で判決を受けた後、刑務所で服役していただきます」

「やだね。それは俺の人生のプランにはない」

「そんなわがままを言っても……」


眉を寄せるシバに、メルクが突然叫んだ。


「俺の人生はな、俺が誰よりも賢いと証明するためにあるんだ!周りは俺を落ちこぼれだと決め付けてたが、学歴だの年収だのくだらないことに興味がなかっただけだ。頭の中を覗けば誰もが俺の賢さに納得したはずだ」

「そんなことできる人はいません……」


シバが怪訝な顔をして言った。


「そうさ。だから実績で証明してやる必要があったんだ。くだらないマウントに何の意味もないことを分からせるためには、でかいことをする必要があった。それがこれだ!」


彼は大聖堂を誇示するように、あるいは栄光に浴するように、両腕を大きく広げた。


「このバカでかい建物。信徒数。医者だのなんだのになった兄貴たちも、年収はたかだか一千万程度だろ。俺は今どのくらい稼いでいると思ってる。空にも住めない小ささで、何が優秀だ」

「……それが、ルルちゃんや他の信徒さんたちを酷い目に遭わせた理由ですか」


シバの声は冷たい怒りに打ち震えていた。


「皆さんにどんな苦痛を与えていたか、分かってるんですか?」

「むしろあいつらは喜んでたと思うけどな?」


彼は首を傾げて言った。


「祈ることで快感を得て、動けなくなったら俺が治すことで歩ける喜びを得る。感謝の気持ちでまた祈り、同じことを繰り返す。どうだ、無駄なく幸せを提供してやってるとは思わないか?」

「メルク様……、いえ、メルクさん。他に話したいことがあれば、署で聞きます」

「あぁ、いいよ。理解するまで話してあげよう」


シバが腰につけた手錠を手に、両手を差し出すメルクに近づく。そのとき、


「ハコガラ!」


メルクが叫ぶと、突然シバの頭上に触手が現れ、逃げる間もなくシバを丸ごと呑み込んでしまった。


「捕まる気はないって言ってるだろバカが!」


彼は天井に向かって指図した。


「ハコガラ、全部吸い取ってやれ!」

「シバ!」


叫ぶナイラに、メルクは笑って言った。


「ハハ、もう出てくるよ。もう話すこともできない廃人だけどな。信者の苦痛ってのがどういうものか、お前が体験して俺に教えてくれよ」


メルクの笑い声が響く中、触手はまるで夏場に水を飲むかのようにゴクゴクと蠢き、十秒と経たないうちに霧散していった。


中から、緑の粘液まみれになったシバの姿が露わになる……。


彼は生気が抜けたように立ち尽くし…… 恍惚の表情を浮かべていた。


「整う……」



――――――――――――――――――――


次話、メルクが驚愕します。





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